40歳OL、報連相を求む
えーと、とんでも設定回です…(汗)
ご都合主義です!m(_ _;)m
「吉田くん。ホウ・レン・ソウを求めます」
「野菜の?」
「おーい」
「あはは、あー……怒ってます?」
「怒る情報が足りなくて困ってます」
玄関で文太さん改め、吉田巌さんになんとか自己紹介をし、お台所にお邪魔し、吉田くんと交代で凍ったままの牛肉の塊をちょっとずつ削いでいる今、やっと脳内が落ち着いてきた。オバチャンはなかなか再起動できないわぁ……
「あ、怒るの前提ですか……ですね。えーと、ここは一応、俺の実家です。一応なのは、里親をメインに児童養護施設と一時預かりを個人でやっている家だからです」
え?おっ?
「里親……?」
「はい。ぶっちゃけ俺は孤児です。赤ん坊の時に産院の前にダンボール箱に入れられて置かれてたそうです」
私には衝撃の内容だが、吉田くんはなんでもないように肉を切り続けている。
「俺は赤ん坊のうちから吉田の養子になりましたが、他にも色んな理由でこの家に住んでる子供はいて、俺には上にも下にも血の繋がっていない兄弟がたくさんいます」
切った肉を焼肉用タレの入ったボールに浸けていく動作は慣れていて、大家族の台所を連想させる。
「ここの吉田家は施設として認可されているわけじゃないんですけど、正規の施設でもあぶれる子供が役所を通じてこの家に連れて来られます。ババア、あ、奥さんのサキさんが生きていた頃は特に多かったですね。夫婦で元教師だったからか余計に頼られてました」
夫婦で教師……それにしても、欲しかった情報以外が多すぎる……
「まあ、ほとんどの子は年単位の一時預かりなので、生活は合宿って言った方が近いですね。ババア、あ、サキさんが亡くなってからは男子しか受け入れてないです。女の子にはジジイの顔が厳ついですからね〜」
確かに厳つい……いやいや。それにしても、奥さんの事はババアと呼んでいたのね……意外過ぎる……
凍った肉を切るのは吉田くんに任せ、スーパーのパック肉をパックから出して種類毎に洗った大きなタッパーに指示どおりにまとめていく。一緒に買った使い捨てのビニール手袋はこのためだったのね……わー、空いたパックの数がすごい事になっている……
「俺は高校までここで過ごしました。バイト三昧でしたけど、ジジイ、えー、巌さんに勉強を教わりながら大学に入り、部屋を弟たちに譲るのに一人暮らしをしました。もちろん今の所じゃないですよ、安さだけで選んだからまあまあ酷いアパートでしたね、ははは」
タッパーが肉でいっぱいになると蓋をして、業務用のような大きな冷蔵庫へ。そして別の大型タッパーにまた肉を詰めていく。
「だから大学でも勉強以外はバイトしてました。生活のためもですけど、とにかく稼いで奨学金の返済金額を減らそうとばっかりしてましたね」
大変そうな内容だけど、吉田くんの表情は楽しげだ。学生生活は楽しい事もたくさんあったようでなにより。
「とにかく少しでも良い条件で就職できるように勉強の方も資格を取ったり頑張りました。結局は勤務一年で辞めちゃいましたけど」
うん、そこも気になるところだけど。
「……サキさんはいつ亡くなられたの?」
「俺が中学に上がってすぐですね。くも膜下出血で、何もできないままお別れでした」
私よりも若いうちに、子供のうちに親を亡くしていたなんて……
「そう……吉田くんも、突然だったのね……」
「はい……でもまあ落ち込んでる暇がなくて。勉強も部活もあるし、なによりババアのやってた家事その他がとんでもない量で」
とんでもないと言いながら笑いだす吉田くん。
「ご近所付き合いが広範囲で、あのちっちゃい体のどこにこれだけのバイタリティーがって、家族みんなで慄きました」
へ〜、よく動くタイプの先生だったのかな。ババアと言いながらも吉田くんの雰囲気は柔らかい。……そっか〜。
「ふふっ、元気なお母さんだったのねぇ」
すると吉田くんはハッとしたように顔を上げた。そのまま見つめ合う。…………えーと……なんで??
「明さん……あの……後で……」
なんとなく、吉田くんが言おうとした事はわかった。
「うん。吉田くんにはお世話になってるし、お母さんにお線香をあげさせてください」
お互いにふふと笑い合うと、吉田くんは俯いた。あ、つむじ。
「あ〜あ、肉を触ってなかったら明さんを抱きしめたのに〜」
「そういうところだからね吉田くん!?」
と、遠くにガラリと戸の開く音と「ただいま〜!」の声、そしてドタドタと近づいてくる足音が。
「佳ちゃんが彼女連れてきたって〜?」
台所の戸口に騒々しく現れたのは、青い学生服の男の子。中学生かな、元気でよろしい。目が合ったので「(彼女じゃないけど)こんにちは」と言うと、
「えー!嘘だろオバサンじゃん!」
おおう、グッサリくる……でも正解。
「クソが表出ろオラぁっ!」
吉田くーん!?




