40歳OL、びっくりする
「来るなら手ぶらで来いって言ってんだろうが。まーだ覚えられねぇのかその頭は」
「そっちこそ毎度ぐずぐず言わずに黙って受け取れや」
「ああ?国産牛なんぞ食ったら明日から余計にひもじいだろうが」
「自覚あるなら月に一度の贅沢ぐらいさせてやれよ」
「だったらどこかの店を貸し切りにすりゃ良いだろう。準備、片付けが面倒くせえ」
「その店までの足代の方がかかるわ、ふざけんな。その分家で食わせてやれっつーの。だいたい片付けは子供らの当番だろ」
……目の前でおじいさんと喋っている吉田くんは誰だろう?
大人のお子様ランチを堪能した後、また吉田くんの車でそのままさらに隣の市へ出発。国道をはずれ、住宅街を抜けて5分。
小さな畑がついた二階建ての一軒家。築年数は我が家を上回りそうな雰囲気。広い庭は砂利で、家を挟んで畑と反対側には農家によくある作業小屋兼物置、その前に軽ワゴン車が一台。田舎でよく見かける民家っぽい。
ここ来る途中、スーパーでショッピングカート2台分の食料を買い込んだ。牛豚鶏に最近よく見るようになった羊まで。呆気にとられる私の前で、吉田くんは焼肉用とシールが貼られているパックから続々とカゴに入れていく。すると精肉担当の店員さんが慌てて追加を持ってきたが、それすら吉田くんが受け取っていく。
吉田くんはこのスーパーでたまにこういう買い方をするようで、店員さんとは顔見知りっぽい。苦笑いの店員さんはバックヤードから肉の塊を出してきて吉田くんに渡した。あれ、ここコス○コだったっけ?
職場のバーベキューとは比べ物にならない量の肉たちをダンボールで何箱も後部座席にギュウギュウに詰め込んで、迷うことなく着いた家の玄関には「吉田」の表札。
何も言われず実家に連れて来られたらしいこの状況に気絶したい。
いや!私は友達!私は友達!私は友達ですーっ!!
と脳内シャウトしてる間に、肉箱を一つだけ抱えた吉田くんはチャイムを鳴らさず引き戸の玄関ドアを開けた。ひえええっ!?
「おーい!ジジイ生きてるかー!」
???
想像の域を飛び越えた吉田くんの声掛けに「ああん?」とドスをきかせて奥から現れたのは作業着姿のおじいさん。痩せ型だけど足取りはしっかりしていて、がに股でスタスタと歩いてきた。白髪で角刈りもそうだけど、顔が厳つい。内心で文太さん!と呼んでしまった。
「肉買ってきた。納屋の陰に車置かせてくれ」
吉田くんが持っている肉の証拠と言わんばかりの一箱を見やると、文太さん(仮名)は大きなため息をついた。
「またか……」
「ああん?」
そして冒頭に戻る。
二人のやり取りに呆然と立っていると、文太さん(仮名)と目が合った。
「んで、そのお嬢さんは?」
オ!? ジョ!? オ!? サ!? ン!?
四十路ですと訂正もできないインパクトにやられていると、今度は吉田くんと目が合った。にっこり微笑んでから文太さん(仮名)に向き直る。
「大石明さん。大事な人」
だ、
ダ、
だぁぁああっ!?




