40歳OL、お子様ランチに萌える
いつもの喫茶店では期間限定メニューとして、数量限定大人のお子様ランチが出ていた。しかも和と洋の二種類。
「うわあ、どっちにしよう、明さんどっちにします?」
「これは迷うわ〜……和風……でも洋風も……悩む〜!」
「うふふふふ〜、あなたたちが決められないって珍しいわね〜」
期間限定メニューは写真入りで、いつもは入店して30秒で注文をする私たちが3分は悩んでいる。それを店主である、お婆ちゃんウエイトレスのミイさんに楽しげに見られた。本当は「美衣」さんなのだが、昔お客さんのお子さんが間違えてミイと読んだのがきっかけで定着したそうだ。
「だってミイさん、このちょっとずつ色々載せプレートって、私みたいな胃もたれ年齢にはすごく嬉しいんですよ!魚のフライ、煮びたし、酢の物、味噌汁、漬物に五目混ぜご飯! そして洋風は海老ピラフにソーセージ、海藻サラダ、野菜たっぷりコンソメスープ、ピクルス!見れば見るほど選べない!」
我ながらテンションがおかしい私をにやりと見てくるミイさん。
「ふっふっふ〜、してやったりな意見だわ〜」
「デザートも、和風はぷち大福で洋風はコーヒーゼリー……小さいけれど……これ、採算取れるんですか?」
吉田くんが店側の目線で聞くと、ミイさんはや~ね〜と笑った。
「そんなの心配しないで食べていって。ま、内情は数量限定にしてるから売り切れればプラスよ〜」
ならば頼まねばなるまい。私は和風、吉田くんは洋風で注文。そしてテーブルに届いたランチプレートの撮影会開始。
「吉田くん、二つ並べて撮ったやつ私にもちょうだい」
「じゃあちょっと移動します。こっち側からの方が綺麗に収まる気が……これ、どうですか?」
「いいね〜、あでもちょっと旗の向きが……こんな感じは?」
「おー!……あ。こういう、端っこ見切れてるのはどうです?」
「料理サイトでも見かけるやつね、お洒落〜!」
いつにも増して騒がしく撮影会を終えた私たちは、いつものようにちょっとずつシェアしながら全てを美味しくいただいた。
「味付けはどうだった?」
湯呑みに熱めの緑茶を淹れてくれたミイさんが、珍しくメニューについて聞いてきた。ランチの時間遅めギリギリに入店したので、他のお客さんはもうほぼいない。
「もちろんどれもこれも美味しかったです!なんだか懐かしい気持ちになりました。出汁ってこういう味だったなぁって」
「え、明さん、そこまでわかったんですか?」
「うん。母が出汁を好きだったのよ。手抜きもしたけどね、ふふっ」
「俺は出汁ってのは粉だとずっと思ってましたよ。そうか、優しい味って、ちゃんとした出汁で作ったものなんですね」
吉田くんは感心したようにお茶を飲んだ。
「でも濃い味も美味しいのよね〜」
「それよ。やっぱりお店だと濃いめにしないとね。でもほら賄いも同じだから、薄味を私が食べたくなっちゃうのよ。そしてこの時期は差し入れの野菜が豊富なの」
ミイさんが内緒ねとぺろっと舌を出した。可愛い。
常連さんには趣味の家庭菜園が高じて畑を借りる域までになった人が何人かいるらしい。ご近所に配っても自宅で食べきれない時に店に持ってきてくれるそうだ。
「仕入れが一定じゃないから期間数量限定なんだけど、収穫時期を狙って催促すると、そこに合わせて持ってきてくれるの、助かるわ〜、うふふのふ。だからそのためのお礼メニューでもあるのよ。あなたたちにも合ったなら良かったわ。ちなみにぷち大福のあんこも手作りでーす」
おー!ほぼ毎日店を開けてるのにいつ作っているんだろう。やっぱり店をやるくらいだから手際がいいんだなぁ。
「え?じゃあ大福って家でも作れるんですか?」
「お正月のお餅が余ると作ったよ」
「え!うちは餅が余ったことがないから知りませんでした、えー!」
吉田くんの驚きぶりに、ミイさんと笑ってしまった。