40歳OL、ちょっと語る
さっそく、というわけではないが、平日の休みは月命日に合わせているとバレて、吉田くんの運転で墓参りに行くことになった。
運転する吉田くんの様子は何も変わらない気がする。かと言って、うちの墓参りへの意味も聞ける気がしない。深読みし過ぎてて自爆するのがオチだろうというのもある。
「お父さんを早くに亡くされたんですか……」
なんとなく話しそびれていた両親の事を聞かれ、素直に答えた。
「早くといっても成人はしてたわよ〜。でも生活がガラリと変わったのは……しんどかったなぁ」
母が四十九日まで毎日泣いていたのが一番しんどかった。
手術後で父の葬儀には出られず、病室で写真をずっと抱きしめていた。
叔母たちが見舞いに来ても泣き、伯父たちが来ても泣き、私にはごめんなさいと泣く。
「半身不随になった母が一番辛かったろうけど、二人一緒に逝ってしまわないで良かったと何度も思ったわ」
毎日泣き続ける母が涙に溶けていなくなってしまう夢を何度も見た。この頃の私はひどい状態で、職場でもとても心配された。
「それが私のエゴだとわかっていたから、父を想って泣く母を見るのはしんどかったわね……でも四十九日を過ぎたら本気でリハビリを始めて、ドクターも看護師さんたちも私もびっくりしたわ。家に帰ってお墓参りに行きたいって」
そこからの母は元の朗らかな性格に戻り、ご近所さんとも事故前とほぼ同様の付き合いを始めた。
「母は強しを目の当たりにして、本気でホッとしたわ」
ただ、当時の彼と別れた時に「そう……」と言ったきり、結婚を急かしたりが一切なくなった。生活環境の変化に必死になっていたから、二人だけの生活に私も母もしがみついていたのかも。
聞き役に徹していた吉田くんは、車を降りると花以外の全てを持ってくれた。
「あ、しまった。明さんと手を繋げないや」
「……近頃の若い子は何を言ってるのか意味がわからないわ〜」
「いやだなぁ、こんなに正直者なのに」
「……ハッ!もしやお年寄り扱いの方かしら!?」
「うーん、うまく伝わらないなぁ」
「吉田くん、おばさんをからかうものじゃないわ」
「え?明さんはお姉さんでしょう?」
「はあ!?」
「俺にはそうですよ。さあ行きましょう」
えぇ……私がポンコツなんだろうか?
親子ほど年齢差のある子にお姉さんと言われて、嬉しいやら困惑するやら。吉田くんの気遣いとわかっていても複雑だ。
……複雑と思うことがすでにまずい気がする。
吉田くんと一緒にいるのは心地よい。もっと会えたらいいのにと思う反面、それがなくなった時に私はいったいどうなるんだろうか。
恋愛偏差値が低いと、付き合う以前の現状でも別れるのが嫌だとか考えちゃうんだなぁ。……これで普通に詐欺だったらもう立ち直れないかもなぁ。
お父さん、お母さん、こんなこと考えながら来ちゃってゴメンナサイ。
一人そんな内心のまま、それでもつつがなく墓参りを終える。水を運ばなくていいって、なんて楽なんだろうか。次も吉田くんに頼りたくなってしまう。いかんいかん。
「明さん。ランチの後に連れて行きたい所があるんですけど、時間ありますか」
脳内以外はまったく暇ですが、なにか。