40歳OL、てんやわんや・2
まあ、よく考えなくても家庭のカレーライスの写真でどうこうなるわけもない。半かけだろうが全かけだろうが混ぜようが、付け合わせが福神漬からっきょうかその他か、各々が好きに食べるものだ。注目されようがない。
ただ、吉田くんの食べたものに私の手作りが一つ加わっただけだ。……うん。そこが一番の恥ずかしいところではある。
なにより恥ずかしかったのが、大盛りと小盛りの二皿を一緒に写真に収めたことだ。彼女の手作りみたいじゃん!?…………どんだけ舞い上がっているんだ私よ。よく見ろ、写真だけならおばあちゃんと孫の食事にも見えるぞ!…………自虐……失敗……
しかし。吉田くんの食べっぷりがすごい。大盛りが見る間になくなっていく。喫茶店ではこんなことはなく、二人同じペースで食べたのに。
「朝ごはん、食べなかったの?」
「へ?パンですけど、食べましたよ」
「いや、食べるのめちゃくちゃ早いなと」
「そりゃ美味しいですもん。明さんのカレー、美味しいです」
そんな笑顔で言われたら惚れてまうやろ…………落ち着け私、吉田くんはこういう子なのよ、食べるの大好きな子なのよ、喫茶店でも美味しそうに食べてるでしょ。
「え、と、おかわりあるよ?」
「やった!おかわり!」
5合炊きの炊飯器で良かった!久しぶりに5合炊いたけど少なめ水加減で上手くできて良かった!ありがとう炊飯器!ああでもサラダはもうないな。……あ、忘れてた。
食器棚から小鉢を出し、それに小さなカレーライスを作る。両親へのお供え用。吉田くんが帰ったらお供えします。
「あ」
小さなカレーライスに手を合わせてたら、台所の入口に吉田くんが立っていた。
「すみません、水くらいは自分でと思って来ちゃいました。あの、その小さいカレーライスは?」
「あー、これは、久しぶりに作ったカレーだから仏壇にお供えしようと思ってたのに今その事を思い出したから……ごめんね、今おかわりわけるね」
「明さん、先にお供えしましょう」
「でも」
「嫌じゃなければ、お線香あげさせてください」
そこまで言われたら断る理由はない。仏間に行き、カレーライスを両親の位牌の前へ置き、蝋燭に火をつける。吉田くんはお線香をあげ手を合わせると「すみません、お先にいただいてしまいました。明さんのカレーライス美味しいです」と口にした。びっくり。
「吉田佳と申します。明さんには大変お世話になってます。これからもよろしくお願いしたいと思ってます」
びっくり。
喫茶店のメニュー制覇を目標にした仲間。
すぐそれに気付いたので、すわプロポーズか!?と無駄にドキドキせずに済んだ。うっかりドキドキはしてるけど。
その証拠に何事もなく居間に戻り、吉田くんの前にまた大盛りカレーを置く。よく食べるなぁ。見てるだけでお腹いっぱいになっていると、綺麗に食べ終えた吉田くんは両手を合わせた。
「ごちそうさまでした!美味しかったです」
可愛いなぁ。オバチャンはまた作ってもいいかもなあとイチコロです。
「ふふっ、おそまつさまでした」
「明さん家のカレーはどこのメーカーですか?」
「三社混合よ。当てられるかしら?ふっふっふ」
「三社!?」
他愛もない話題なのに時間はあっという間に経つ。
吉田くんのバイト時間がせまり、スニーカーを履く姿を眺めていると、ほっとするような寂しいような。
「本当にごちそうさまでした。これからカレーの時は呼んでほしいです」
玄関は段差があるのに立ち上がった吉田くんは私より目線が上だ。体の線が細いけどやっぱり大きいなぁ。
「そこまで喜んでもらえたら嬉しいわ〜。作ったら教えるね」
「やった!絶対ですよ!」
「ふふっ、はいはい。ほら遅れるよ」
「あと、いつか俺もお墓参りに連れて行ってください」
「え……?」
「明さんがいいと思った時に」
「えぇ……??」
「……じゃあ行ってきます!」
「あ、はい、いってらっしゃい……」
朗らかに去っていく吉田くんに手を振り、車の音も遠ざかってから、腰が抜けた。
爆弾を投げっぱなしにされると困るんだけど〜!
…健全ですみません…(笑)