40歳OL、お招きする
とりあえず。焦がさずにカレーを作れたし、お米もうまく炊けたのは良かった。それから、少しずつ断捨離しておいて良かった。吉田くんの部屋に比べたら雑然としているけど、お客を招くには恥ずかしくない程度なはず。ハタキも掃除機もかけた。あ、窓掃除もしようかしら。もはや大掃除だ。カレーにして良かった。……あれ、目的と手段がおかしくない?
12時にふと外を見ると吉田くんの軽自動車が我が家の前をゆっくりと通り過ぎていった。最近はアプリで家の場所を知らせる事ができるようで、営業さんが言っていたのはこれかと使ってみた。何でもできるなスマホ。
それよりも吉田くんを迎えに行かねば。サンダルを履いて、スマホを片手に門を出ると吉田くんの車がすぐそこに。そして着信。『こんにちは』と耳に心地良い吉田くんの声。尊い。車の窓を開けて苦笑の吉田くん。
「やっぱり明さんの車だった。家はそこですね?」
「そうよ〜」
そうしてあっさりと吉田くんは「お邪魔しまーす」と車を我が家に停めた。初めての場所で切り返ししないで駐車した事にちょっとトキメク。
「ナビがあっても住宅地は迷いますね」
「ごめんね〜、表札外しちゃったから合ってるかわからないよね」
「あ、外したんですか」
「昔ね。個人情報対策のために町内会で決まったのよ」
「へえ、町内会で」
「そ。当時は意識高い系の人が多くてね〜」
「意識高い系……」
「まあ、隣の地区で空き巣とか押し売りが流行ったから、町内会会議ではほぼ満場一致だったらしいよ」
「へー」
「でもおかげで宅配業者の間違いが増えて、交差点の角家には番地のプレートを作ることになって、その年は町内会費の支出が段違いだったみたい」
「あはははは」
どうぞどうぞと玄関を開けて昔ながらの和室にカーペットを敷いている居間にご案内。このカーペットも替えなきゃと思いつつ、処分が面倒でそのまんま。
さっきまで縁側に干していた座布団を置いて吉田くんを促し、とりあえず麦茶を取りに台所へ。
飲み物の事をすっかり忘れてたので、現在我が家で出せる冷たい飲み物は麦茶のみ。夏用にスポーツドリンクの粉もあるけど、さすがにちょっと。
「ごめんね、飲み物の事忘れてて麦茶です」
「そんな全然!水道水でもいいですよ」
「さすがにそれは大人としてどうなのよ〜」
「でもカレーライスなら水で良くないですか?」
「……やだ、納得するところだった、危ないわ〜」
「押し掛けたのは俺なんで文句ありませんて。てか、そこは俺の気遣いでしたね、失敗した……プリンの他にも買ってくれば良かった。というわけでプリンです」
そうして吉田くんがリュックから出したのは何種類ものプリンだった。コンビニ何件まわってきたの?
「明さん、プリン好きですよね」
……言い当てられてやたら恥ずかしい。まあ、スーパーで値下げされていたら絶対買うし、バレない理由もいまさら隠す理由もない。
「バレたか」
「そりゃ……て、ちょっと多かったですね、はは」
「うん、普段買わない高級コンビニプリンだけど、賞味期限が少々過ぎても気にしないけど、さすがに10個はね〜。吉田くんも食べてってね」
「じゃあ明さんの一口くださいね」
……最近の子は他人と食べ物をシェアしたがらないって聞いた気がするんだけどなぁ。吉田くんは気にしないタイプなんだろう。
「これもSNSにあげるの?」
「いえ、コンビニプリンはかなり溢れてるんで。今日は明さんのカレーライスをあげさせてください!」
「ええっ!」
「名前は出さないので!……駄目ですか?」
お父さん、お母さん、推しアイドルのあざとさが尊いです。
不定期になりますm(_ _)m




