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47:ブハーラー戦16:本丸戦8:亡霊7

人物紹介 

モンゴル側

チンギス・カン:モンゴル帝国の君主


耶律ヤリツ 阿海アハイ:チンギスの家臣。キタイ族。

人物紹介終了

 チンギスは阿海からの報告を心待ちにしておった。

(あいつなのか?)

 何度打ち消しても浮かび上がるその想いと共に。




 そして己の天幕を阿海自ら訪れての、攻め落としましたとの報告には喜んだが。


「申し訳ありません。グル・カンを生け捕りにすることはできませんでした」


 との言には正直、がっかりした。

 とはいえ、チンギス自身、その内なる想いを信じかねておるのだ。

 冷静に考えるならば、己は妄念を抱いておるとしか想えぬ。

 それに阿海とその旗下は、棚からぼた餅でこれを得た訳ではない。

 まさに命を危険にさらして奪い取ったのである。

 自らも戦場に立ってきたチンギスである。誰よりそれは分かる。


「いや。気にすることはない。

 先にも言った通り、あくまでなしうればのこと。

 それより、よくぞ攻め落とした。

 何より、そこが肝要ぞ」


 最後の言は、むしろ自らに言い聞かせるために、口にしたも同然であった。

 そして敏感な阿海ならば、己の心の揺れを既に見透かしておるのではないかとも想う。

 ただ、阿海に知られたくないとの想いとは裏腹に、まさに妄念を抱くゆえにチンギスは問わざるを得なかった。


「その者の死体を見られるか?」


「正直、どれが、とは分かりかねます。

 また逃げ穴があり、そこより逃げた可能性もあります」


「逃がしたのか」


 チンギスは想わず怒声を放っておった。


「確かなことは分かりかねます。

 それほどに気にされておるのですか」


 チンギスは阿海に言うかどうか、迷った。

 通常なら己の妄念に過ぎぬものを家臣に言うことなどありえぬ。

 しかしこれほど己の動揺を見られては、阿海はどう想うか?

 それが阿海との間隙の原因となってはしょうがない。


「グル・カンと聞いて、そなたが想い浮かべるは、キタイの君主のみか」


 この者の頭にその名が想い浮かべば、己が心の内を多少は共有するを得よう。それゆえ、伝える。

 そうでないなら、そんなことは望みようもないゆえ、伝えぬ。

 阿海はしばらく時を要したが、その名にたどり着き、口にした。


「ありえると想うか?」


 阿海はすぐに答えぬ。

 ただその目を見開いて、こちらを見つめかえしておる様がその内心を物語っておった。


「カンが処刑されたと聞き及びますが」


「うむ。ただ我自ら殺した訳ではない。

 それにあやつとは幼き時からの親友であり、また、同盟者アンダでもある。

 どうにも、処刑後の顔は見るに忍びぬ。

 ゆえに確認もしておらぬ。

 今にして想えば、なすべきであった。

 我が家中には、あの者と深い付き合いがあった者がおらぬ訳ではない。

 その者たちが手引きしたとすれば。

 どう想うか?

 率直なところを教えよ」


「ありえぬとまでは申せませぬ。

 ただ、私は親しいとは言えませぬが、顔を知らぬ訳ではありませぬ。

 敵将のうちに、それらしき者はおりませんでした。

 カン自ら確認されますか?」


「うむ。そうしよう。念のためだ」


 そう。あくまで念のためだ。

 ありえぬとの想いは、依然、強い。


「このことは決して他言無用ぞ。そなたしか言うておらぬ。ボオルチュにさえ話しておらぬ。そなたを信頼すればこそ。もし、他の者からこれを聞くことがあれば、そなたから漏れたとみなし、そなたを罰さねばならぬ。

 よいか。我の信頼を決して裏切るな」


「無論です。決して口外しませぬ」


「うむ。そしてあらかじめ言うておく。

 こたびの功の褒賞だ。

 そなたは誰も願い出ぬ中、一人本丸攻めを請い、見事成し遂げた。

 ゆえにサマルカンドを落城せしめた暁には、その城代はそなたに託そう。

 このブハーラーより、あすこは大きな都と聞くゆえ、まさにふさわしいと想うが。

 どうだ?」


「恐れ多きこと」


「これは家中に伝えてよいぞ。

 そなたとしても、早くに喜ばしたかろう。

 我の方からもボオルチュやトゥルイに伝えておく。

 誰にも文句は言わせぬ。

 あれらは、自ら願い出ることさえしなかったのだからな」


 最後は半ばグチであった。


「恐れ多きことです」


 阿海は、やはりそう答えるのみであった。


 サマルカンドの城代は、そもそもチンギスの心の内にあったものだった。

 カラ・キタイの威名はこの地にまでとどろいておったと聞く。

 ならば、その君主と同族たる阿海を置けば、この地の者は従順に従うのではないか。

 そのためには功が必要であるは、無論のこと。

 ただ、今回そこは問題ない。

 もちろん、そうであるとしても、論功行賞は拙速になすべきではなく、ボオルチュなどと合議の上、行うべきものであるのは十分に分かっておる。

 それを今行うのは、まさに口止め料も兼ねるゆえであった。

 我が妄念を抱いておるなどと皆が知れば、それこそ士気にも忠誠にも関わる。

 褒賞を家中に漏らして良いとしたのも理由があった。

 約束だけして、後に違えるのではないかとの阿海の疑心を、あらかじめ避けるためであった。




 そして、自らの妄念を確かめるために、この後すぐに阿海と共に本丸へと赴いた。


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