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45:ブハーラー戦14:本丸戦6:亡霊5

人物紹介 モンゴル側


チンギス・カン:モンゴル帝国の君主


耶律ヤリツ 阿海アハイ:チンギスの家臣。キタイ族。


耶律 綿思哥メンスゲ:阿海の次男。

ブハーラー本丸攻めの先遣隊を率いるも負傷する。


人物紹介終了

 百人隊長の薬師奴ヤクシヌはメンスゲより指揮を引き継いだ。

 顔を出せば、すぐそこに矢が飛んで来る状況もまた同時にであった。


(このXX奴という名であるが、仏教が盛んであったキタイでは、しばしば見られる。ムスリムの間でもアブド・アッラー(神の奴)という名が好んで用いられる。興味深い対応といえよう)


 そもそも野天にての騎馬の戦いならば、矢というものは、そうそう狙い通りに当たるものではない。

 風もあるし、更には互いに騎馬を駆けさせてである。

 ところで、今ここではどうか。

 そもそも室内ゆえ、最大の外乱要因たる風が無い。

 またこちらから部屋への進入路は一つ。

 ゆえに、相手はおおよその見当をつけて、待ち受ければ良い。

 そしてこちらが姿をさらした途端、矢を放てば良いのだ。

 まさに狙い撃ってくださいといわんばかりであった。

 おまけに敵は何の危険にもさらされぬ。

 そして場所を動かぬなら、一射目より二射目、二射目より三射目が精度が上がるのは、当然といえた。


 更にいえば、敵は当然建物の構造を把握しておる。

 その間取りから退路まで全てだ。

 対して、こちらはそれを確認するためだけでも、実際、命がけであった。

 つい先ほど自ら顔を出してみたところ、そのわずかの間も敵は見逃してくれなかった。

 矢がすんでのところで顔に当たるところであり、たまがり上がり、更には肝を冷やしたのであった。

 メンスゲ殿からいきなり引き継いだということもあり、どこか己にも急く気持ちがあったか。

 とにかく自省し、まずはの手はうった。


 危険を冒して先ほど見た感じでは、それほど広くない。

 余り家具などは置かれていないようであった。

 恐らく休憩所か寝所であろう。

 相手側に隠れるものがないなら、『一気に』とは想わぬものでもない。

 とはいえ、いきなり身をさらせば、射られるだけ。

 阿呆という他ない。

 ゆえに待っておったのだ。


(メンスゲ殿は少し功にはやられたのであろう)

 正直、そう想う。

(ただ、それも致し方なきか)

 とも想う。

 これだけ有力な将が顔をそろえるカンの軍勢である。

 当然、功をあげる機会は少ない。

 そしてそれをつかみ取ってきたお父上に託されたならば、

(当然、力は入ろう)


 やがて身を隠せるほどの盾が、いくつも来た。

 配下の兵3人にそれぞれ盾を持たせる。

 そして、それを前面に押し立てつつ、横並びになるよう展開させる。

 これで入口をほぼふさぐ形となる。

 盾に次次と矢が当たるのが分かる。

 無論、こちらが姿をさらすことはない。

 そしてこれ以上、押し出すつもりもない。

 その態勢で待つ。

 効果無しと分かれば、当然、敵は矢を射るのを止める。

 そして次の一手に出るはずだからである。


 決死の兵といえど、矢の無駄撃ちは嫌うものだ。

 死ぬからどうでも良いなどとは、人はなかなかならぬ。

 口で何と言おうが、心のどこかで自らは生き延びるのではと考え、それに従って動く。

 さかしらさを棄てるのは、言うほど簡単ではない。

 そしてそうである以上、我らは敵の動きを読み、追い込むことができる。


 十中八九逃げよう。

 そう推測し得た。

 そしてしばらくすると、実際に多くの足音が聞こえだした。

 それがしなくなってからも、少し待った。

 それからようやくであった。

 盾を持つ兵たちの背後から、己が顔を出して前方を確認したのは。

 焦って追いかけ、死に物狂いの反撃をくらう必要は無かった。


 我らの役割は、巻き狩りにおける勢子せこと同じである。

 獲物を追い立てれば、それで良い。

 本丸の周囲には、カンの軍勢がひしめいておるのだ。

 それでも、全軍が都城の内に入った訳ではなく、外に留まった部隊もおる。

 どこに隠れようと、いずれ見つかる。


 室内を通り抜けた先には、別の通廊があり、左右に通じておった。

 手分けして進むことにする。

 百人隊五隊ずつに別れ、左方を己が率いて進んだ。


 少し進むと上と下、どちらにも通じる階段があった。

 事前に入手した情報によれば、今我らがおる4階が最上階。

 となれば、上に向かうは屋上ということになる。


 それから再び盾をかざしつつ階段に近付く。

 上方から矢を射かけて来た。

「どうやら、上へ逃げたようだな」

 かたわらに来た百人隊長が話しかける。

「解せぬな」

「そうか? 上を取るは、戦の常道」

「しかしこの状況では、自らの逃げ道を塞ぐことになる」

「下に逃げようと、同じであろう。

 それに奴らは死を覚悟しておると聞く」

 我は、死を覚悟した者であっても云々との持論を展開する気は無かった。

 ゆえに提案する。

「そなたは百人隊4隊を率いて上に向かってくれ。我は念のために下を調べて来る」

「よし。あい分かった」

 その者は、功は既に己が手にあるも同然と想いなしたか、うながされるまま、号令も早々に、急ぎ上に向かう。

 我は自隊にかたわらによけて留まれと命じた後、おもむろに下を覗く。

 そもそも灯りが乏しいのに、そこは更に乏しいようで、暗く沈んでおった。

 そのゆえもあって、動く者の姿が確認できないのは仕方ないとしても、何の音も聞こえてこぬということは

――我の見当外れか?


 とはいえ、確かめる必要はあろう。

 こちらの部隊は余るほどと言って良い。

 このまま下の階の捜索を続けても、問題にはならぬだろう。


 我は右方へ向かった隊へ伝令を発した。

 階段の存在と左方部隊の展開の詳細を伝えると共に、そのまま右方の捜索を続行せよと命じた。


 それから盾を持って、身を隠しつつ、少しずつ降りてゆく。

 百人隊も後に続く。

 我は3階、そして2階、そして1階に降りた。

 途中の階に留まるとは想えなかったゆえだ。

 それなら、上階に逃げるはず。


 それから通廊にしろ部屋にしろ、手当たり次第に当たらせた。


 一人の者がこちらに駆けて来るのが見えた。

 ずい分と慌ててであった。


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