3:サイラームのモンゴル軍
人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
トゥルイ:チンギスと正妻ボルテの間の第4子。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。
スブエテイ・バートル:チンギスの臣。四狗の一人。ウリャンカイ氏族。
バラ・チェルビ:トゥルイ家の家臣。ジャライル氏族。
ホラズム側
スルターン:ホラズム帝国の君主。
人物紹介終了
オトラル、サマルカンド、ウルゲンチなどの間諜(スパイ)からの情報は、前衛として展開しておるスベエテイの下に一端まとめられる。
そして数日おきに、スブエテイから報告が来る。
この日も情報がもたらされた。
司令部とも言うべき大きな天幕の内にて、伝令はチンギスの前にひざまずくと口を開いた。
「オトラルに大きな動きがありました。
カラチャという将軍に率いられた大軍が入城したとのことです。
オトラル城内にての噂では、万人隊とのこと。」
その報告には直接意見を述べることなく、チンギスは別のことを尋ねた。
「やはりスルターンはサマルカンドを離れぬのか。」
「はい。いずこかに移動したとの報告は届いておりませぬ。
ただ伝えられてくるは、サマルカンドにては相変わらず防備の増強が図られておるとのことのみです。」
「トゥルイよ。ホラズムのこの動き。どう想うか。」
「そのカラチャの部隊がオトラルの防衛強化のために入城したのか、それともスルターンに先行してのオトラル入りなのか、はっきりしませぬ。
スルターン自ら迎撃に出向いて来る気があるのか否か、今回の動きのみで判断するは早計かと考えます。
ここは情報を集めつつ、これまで通り野戦前提で待つのがよろしいかと。」
「ボオルチュ。そなたの考えを聞かせてくれ。」
「ここに到着して既に半月ほど。
当然スルターンの耳にも入っておりましょう。
更に言えばモンゴルがこの地に向け進軍しておることは、ずっと前に知り得たはず。
それにしては各地の軍がサマルカンドに集結しておるとも、オトラルを目指しておるとも聞きませぬ。
いわば今回のが唯一の例外と言いうるもの。
決戦せんとして出撃を予定しておるにしては、明らかに軍の動きが少な過ぎます。
ホラズム側としては既に兵の配置をあらかた終えておるのかもしれませぬ。
とすればやはり籠城覚悟かと考えます。」
「シギ・クトクはどう想うか。」
「わたくしはカンクリの動きが気になります。
スルターンにその気はなくとも、あの者たちは出撃して来るのではと考えます。
彼らもわたくしたちと同じ騎馬の民。
城に籠もって守るより、野で攻め合うを好み、また得手としましょうから。」
「バラはいかなる考えか。」
そのようにしてチンギスは他の側近からも意見を聞いた後、次の如くに告げた。
「ボオルチュの読みは我も妥当だと想うが、一方で全てが手はず通りに行かぬことは我らも良く知るところ。
準備に手間取っておるだけかもしれぬ。
焦って攻め急いで兵馬の損失を増やすは、愚かというもの。
トゥルイの言に従い、今しばらくはここに留まり様子を見よう。
敵が攻め上がって来るなら、それこそ我らの望むところ。
野戦で一気に片を付けてくれようぞ。
ただ敵が出て来ないようでは、城攻めも仕方あるまい。
ボオルチュよ。
オトラルへ向け進軍する場合に備え、その最善の時を定め、我に報告せよ。」
更には
「そしてシギ・クトクよ。
もしカンクリ勢が攻め込んで来たら、どう攻め合うが良いか。その策が必要となるやもしれぬ。考えておけよ。」
そして他の側近にもそれぞれに宿題を与えた。
その後ボオルチュからは以下の如くの進言があった。
チンギスは敵迎撃軍の出撃がなければ、それに従うことを決めた。
『オトラルはシルダリヤ川という大河沿いにあるとのこと。
冬となれば、川も凍ります。
進軍を阻むものはなくなります。
また、かの地にては馬草の確保に苦労するやもしれませぬ。
この周辺で更に軍馬を太らせましょう。
進軍は川が凍ってからが最善と考えます。』




