“生徒会合戦”~雑な扱い~
何故だろう。
今年の“生徒会合戦”は、勝てる気しかない……!
「茶駅田。これは、もらったも同然だな!」
「まだ、分からないわ」
「えっ」
「一高、二高がまだ本気を出していないのよ」
「なん……だと!?」
「だから、まだ分からないわ。油断は禁物よ」
「わ、分かった……」
まさか、一高と二高が本気を出していなかったとは……
「何故、一高と二高は本気を出してないんだ?」
「それは……」
「それは?」
「私たちが本気を出し始めたから、圧倒されて本気を出すのも忘れているからよ」
「おい、自信満々かよっ!」
ただの、三高の自慢かよ!?どんだけ自信があるんだ、茶駅田……!
「さぁて、「うちの学校が一番じゃあ!!」という生徒会は一体、どこの学校なのでしょうか!決まった生徒会から挙手をして、私から指名されたらアピールしてくださいね~」と、若様が説明している。
スッ……
「ぅえっ、ちょっ、茶駅田!」
「は~い!早かった三高から、よろしくどうぞ~」
「我々、三高は“個性派”揃いでございます」
「ま、まぁ……確かにそうだな」
「“落ちこぼれ”だの“庶民的”だの、色々と言われておりますが……」
(一体、何を言うんだ……!?茶駅田!!)
「芸人並みの“個性的”なところは、この二校には負けませんわ!それに……」
「それに……?」
「三高の生徒会ほど、会長と副会長の掛け合いがぴったりと、はまる人間は居ないわ!!」
「確かに、そのと~おり!」
「お黙りッ!」
「はぃいいッ!」
「会長の尻を敷くのは私、副会長である茶駅田 礼です!神司屋、私に付いて来なさい!!」
「はいっ!付いて行きます、姉さん!!」
「いや、そこは会長らしく「なんで俺が!?」って突っ込んで、反論するとこでしょッ!」
「えぇえええ~っ!?」
茶駅田のアドリブがすごい。パッと即興で思いつくところが最早、神業だ。
俺は、ひたすら茶駅田が投げてくるボールを打つので精いっぱいだ。
この後も若様が「もう、そろそろ他の生徒会に譲ってもらえますか?」と言われるまで、茶駅田が俺をリードしてくれた。
有難いんだけど、茶駅田の強さが怖く感じるのは、気のせいなのだろうか……
ますます、茶駅田が何を考えて思っているのか分からない。
いや……一生、分からないだろうな。
「神司屋は会長だけど、乙女男子です!」
「いや、それについては訂正する。俺は、乙女男子じゃねぇえええ~!!!」
「それは、叫ぶほどのことじゃないでしょう。うるさいから、ボツ!」
「はぁあああああ!?副会長様の欲しい言葉が分からねぇ……!!」
「神司屋、キャラが崩壊しかけているわ」
「いや、もう崩壊してるから!何なら、俺の普段のキャラなんて面影すらないぐらい、キャラ崩壊してるんだよ!もういいよ、今日ぐらい!崩壊してやるぅー!」
「キャラが崩壊し過ぎて、気持ち悪い……」
「おいっ、こんななりでも生徒会長だぞ!少しは敬え、茶駅田」
「無理です」
「いや、即答!?ってか、真顔はヤメテ!真顔は堪えるから……せめて、にこやかに言って……」
「嫌よ。なんで、にこやかに言わなきゃいけないのよ」
「今日ぐらいは、会長の俺を労れよっ!!」
「ハイハイ」
「冷たくあしらわれた……」
俺と茶駅田の掛け合いは、見事にウケていた。「もっとやってー!」「茶駅田さんって、見掛けによらず面白いよな」「会長に親近感、湧いたー」って声も、チラホラ聞こえた。
俺は気付けば、茶駅田と漫才やコントのような掛け合いをしていた。
茶駅田は優しくしてくれないので、冷たくあしらわれる。
俺が絡みに行っても噛みついても茶駅田は一切、構わず冷たくあしらっていく。
幽霊や空気のように、するりするりと通り抜けていく。
それが少し、寂しくもある。
俺が少し話し方を変えてみた時だって、他の生徒会メンバーに突っ込まれたのに、茶駅田だけは無言で普段通りに接してきた。
俺は、茶駅田と仲良くなりたいと思った。
茶駅田は、敢えて友達を作っていないように見えた。
でも、やっぱり寂しい。孤独が怖い。そういう風にも見えた。
自分でも何故だか分からないけれど、俺は茶駅田に少しでも学校生活が楽しかった、と思って欲しい。
三高の生徒会で良かったと思ってもらいたい、そう思った。
生徒が少しでも「学校生活が楽しかった」「学校が三高で良かった」と思って欲しい。
俺は、いつの間にか生徒会長らしいことを考えていたんだな。
最初は、お世話になった先輩である生徒会長から頼まれて会長になった。
特に会長になりたかった訳でも、内申点を上げたかった訳でもない。
ただ、頼まれたからなっただけだ。
“生徒会合戦”も弱気だったし、消極的で棄権しようとまで考えていたのに、副会長の熱意に負けて今や、俺は堂々と“生徒会合戦”の舞台に居るんだ。
人生、何があるか分からないとは本当だな。
今年こそ、俺たち三高が“生徒会合戦 初優勝”と歴史に名を刻む時だ───