厨二病親友の話は聞かずに歩くことにする
さて、完全に道に迷ってしまった。
もちろん、ここで携帯のGPSを使えば確実に僕が今いる場所がわかるのだが、僕はこの旅を出来るだけ流浪っぽくしたいので、使わないようにしている。僕がこの旅でスマホを使うのはSNSを見るときとメッセージやメールを見るときくらいである。
そうやって自転車を走らせているうちに、太陽が僕の真上を通り過ぎる。それに気付くと同時に、山の麓が見えた。
体力がまだまだ残っている上に、山自体はさほど高くなさそうだったので、僕は近くの駐輪場に自転車を置いて、山を登ることにした。
修学旅行などで登る山というのは、できるだけ歩きやすいように平坦な道が多かったり、丁寧にコンクリートまで、用意してくれるようなものもあるが、今回の山道は枯葉ばかりが落ちている。周りには木々しかなく、迷ってしまってもおかしくないほど目印がない。ある意味、山らしい山だ。
実際に山を登っていると、体力の消費が激しいことに気づく。今まで様々な観光スポットに行ったが、さすがに山に登ることはなかった。自分の計画性のなさに少し落ち込みながら足を力強く動かす。
そうしていると、携帯の着信音が鳴った。同級生の加美山からの電話だ。
僕は携帯を取って「はい、もしもし」と言った。
「ほう、貴様か。我輩である。我輩だ。誰だかわかるであろう?我輩だ」
携帯から問い詰めるような口調が聞こえてきた。
「僕の同級生に我輩なんて人はいません」
「なに?!いや、そんなはずはない!我輩だ!我輩のことを忘れたのか?!」
「あぁ、忘れましたー。僕記憶喪失なので、我輩さんは僕とどういうつながりですか?」
「我輩はそなたの息子である。そうか、ならば知らなくても仕方がない。しかし!今重大な事件が起きたのだ。この世界が闇に葬られようとしている。銀行の口座から200万振り込むのだ。そうすれば世界は救われるだろう」
「……ていうか、加美山。侍風オレオレ詐欺にしては振り込んで欲しい理由が意味わからないのだが」
「オレオレ詐欺ではない。我輩我輩詐欺だ!」
「加美山は本当にややこしいな」
「何を隠そう。私は加美山誠司である!」
「そこ我輩じゃないんだな」
この会話からもわかるように、僕の親友、加美山誠司は厨二病である。まぁ、厨二病にしては、キャラが一貫していない微妙さがあるのだが。
「ところで葉山よ。貴様は今なにをしている?」
「旅をしてきたよ。昨日も電話でこの会話したよね?」
「なに?!我輩はそんなことは覚えていないぞぉ!」
ちなみに昨日の加美山は西洋ファンタジーの勇者という設定で僕に電話をかけてきた。確か内容は、魔王を滅ぼしたいから援助をしてくれって言われた気がする。つまり、昨日も今日も話の内容に全く進展がない。あと、昨日の僕の呼び方は、「新一くん」だった。
そして、この山道を歩きながら会話をしているため、少し息が荒くなってしまう。
「はいはいそうか。とりあえず、いろんなところに行ったけど、明日には実家に帰る予定だよ」
「あいわかった!土産話とお菓子の土産と冥土の土産を持ってこいよ!」
「3つ目の土産について推測すると、君は明日この世から去るのか?」
「な、何を言っている?!冥土の土産ってなんだ?!」
このように、加美山の辞書に辞書という文字はなく、何回もアニメやマンガやラノベで聞いた言葉の意味を知らずに使っていることが多いことが難点だ。
「まぁ、1つ目の土産だけは持って帰ってやるよ」
「頼んだぞ!我が同士よ!」
そう言って、加美山は電話を切った。
話をしているうちに、だいぶ上まで登ってきた。頂上がもう直ぐ見えると予想した時、右側から肌を擦るような少し早い風が吹いた。
少しびっくりして、その方向を見ると、出口のようなもの見え、そこから光が僕を照らした。
別にこれといって運命めいたものは感じなかったが、疲れていたことは事実なので、僕は光が差し込む先で休憩しようと思い、その方向へ向かった。