第3話 「狼男との死闘ッッッ!!!」
「ぬおぉぉぉッッッ!!!」
両腕でがっしりと狼男を掴んだまま、激しく雄たけびをあげるアネットッ!
彼女のその叫びが、薄暗い洞窟の中で反響したッ!
(くっ……! こいつ、なんて馬鹿力だ……!)
アネットの拘束から逃れようと必死にもがく狼男ッ!
しかしどれだけ力を込めても、彼女の丸太のように太い両腕を振り払うことができないッ!
するとアネットは相手を掴んだまま「フンッ!」と短く声を上げると、その圧倒的膂力でもって狼男を持ち上げたッ!
そして勢いよく腰をねじり、後方に向かって彼を投げ飛ばすッッ!!
この衝撃の光景に、読者の皆様も驚きを隠すことができないッ!
なんと彼女は、身長3メートルにも及ぶ狼の怪物を投げ飛ばしたのだッ!
「な、なんだとっ!?」
驚きを隠せなかったのは、狼男も同様であったッ!
為すすべなく宙を舞う彼が飛ばされた先は、洞窟の出口ッ!
そして彼はそのまま外へと放り出され、森の地面に激突ッ! ゴロゴロと無様に転がったッ!
「な、なんということだ……! まさかこの俺様が、一瞬で洞窟の外まで投げ飛ばされてしまうなんて……! ありえない!」
機敏な動作で立ち上がりながら、動物的本能によって圧倒的恐怖を感じ取る狼男ッ!
弱肉強食の野生の世界において、“恐怖”とは自分の身を守るためのレーダーとも言えるッ!
そのレーダーが、狼男に告げるのだッッ!!
目の前の人間は、食物連鎖のピラミッドにおいて、自分よりも高い位置に座する存在なのだとッッッ!!!
(ありえねぇ! この俺様が、人間如きに恐怖するなど……!)
鋭い歯をギラリと光らせながら、歯ぎしりをする狼男!
するとその時、洞窟の中からアネットが飛び出してきたッ! 彼女の頭部を覆う鮮烈な赤いずきんが、狼男の目に焼き付くッ!
「これで、暗闇というハンデは消え去ったな……もう貴様に逃げ場所は無いぞッ!」
地面にスタリと着地しながら叫ぶアネットッ!
彼女の言う通り、狼男は今、太陽の木漏れ日が降り注ぐ森の中に全身を晒していたッ!
洞窟の暗闇であれば目の発達した彼の方が有利であるが、今は違う!
「問おうッ! 貴様が私の祖母をさらった犯人かッ!?」
アネットが仁王の形相で問いかけるッ!
すると狼男は眉間にしわを寄せ、
「ああ、その通りだ! お前のおばあちゃんは、この俺が丸飲みにしてやったよ!」
と答えたッ!
(なるほどな……こいつ、あの婆さんの孫か! 俺様に復讐するために、ここまでやって来たってわけだな!?)
一瞬にして事態を理解する狼男ッッ!!
「な、何ィ……ッ!? 丸飲みだと……ッ!?」
赤ずきんの少女は、相手の言葉に怒りをあらわにしたッ!
「許せんッ! 祖母の仇、このアネットがとってくれるッッ!!」
「アネット……? フン、おかしな奴め! 女みたいな名前してやがるぜ!」
狼男は、虚勢を張るように相手を煽るッ!
「失敬なッ! 私は女だッ!」
「ハ……?」
アネットの言葉を聞いた瞬間、思考が完全にフリーズする狼男ッ!
彼女は、その一瞬の隙を見逃さなかったッ!
「フンッッッ!!!」
渾身の脚力で地面を蹴り、凄まじいスピードで敵との距離を詰めていくアネットッ!
ゆうに時速200キロは超えているであろう速度で狼男の眼前に迫ると、その勢いのままに相手の顔面目がけて拳を放ったッ!
「グゥっ!」
情けのない声を上げて吹き飛ばされる狼男!
彼はそのまま枯葉の敷き詰められた地面を転がると、悔しそうな表情で立ち上がったッ!
そして折れた奥歯を血の混じった唾液と共に「ぺっ!」と地面へ吐き出し、わなわなと震えるッ!
「こ、この野郎……俺様の歯を、折りやがったな……?」
「私は“野郎”ではなく“乙女”だがなッッ!!」
狼男にとって、鋭くとがった牙は狩りにおける“武器”であり、誇りなのだッ!
それを折られることはすなわち、これ以上ない侮辱ッ!
「屁理屈を言いやがって……許さねぇ!!!」
彼は激しく吠えると、アネット目がけて突進するッ!
そして爪を突き立て、彼女を引き裂こうとしたッ!
だがしかし、そんな行動はアネットにはお見通しであるッッ!!
「無駄ァッッ!!」
彼女はとっさに姿勢を低く落とし、迫ってくる狼男に足払いをかけた!
「うぐっ!」
体勢を崩された彼は、そのまま豪快に地面にすっ転ぶ! さらにアネットは追い打ちをかけるように、うつぶせの相手目がけて垂直にチョップを仕掛けたッ!
だが、狼男もただではやられない!
機敏にひっくり返って体を仰向けにすると、彼女のチョップを真剣白羽取りの要領で受け止めたッ!
「なんとッ!」
驚くアネットッ!
狼男はそこから、アネットの腹に強烈な蹴りをくらわせたッ!
ズドンッッッ!!!
激しいキックが彼女のみぞおちにクリティカルヒットッ!
「うぐぅ……ッ!」
アネットはみぞおちを押さえながら苦悶の表情を浮かべ、よろよろと後ずさるッ!
「舐めるなよ、人間! お前が女だろうとなんだろうと容赦はしない! あの老婆同様に喰ってやる!!」
「貴様ァ……ッ!」
アネット、ピンチッ! 圧倒的ピンチッッ!!
――と、その時ッ!
彼女の後方から、一本の矢が飛んできたッ!
ヒュン、と空を切りながら木々の間を潜り抜ける矢は、アネットのずきんすれすれを通過し、そのまま一直線に狼男の顔へッ!
「!?」
慌てて顔を横に反らす狼男! 矢は彼の頬をかすり、後ろの木にトスンと刺さったッ!
「今度は何だ……?」
頬からかすかに血を滴らせながら、苦々しく呟く狼男ッ!
するとアネットの下に、1人の男性が歩み寄ってきた!
「フフ……やはりレディーを1人にして逃げ帰るなど、この僕にはふさわしくない」
そう! 彼はシャルル!
先程アネットを洞窟まで導いて帰ったはずの彼が、弓を構えてCOOLに戻ってきたッッ!!
「シャルル……助太刀、感謝するッ!」
「ふん、気にするな。レディーを助けるのは当然だ。たとえ君のような筋肉だるまでもね」
彼女の極限まで鍛え上げられた全身に一瞥をくれながら、COOLに言うシャルル!
そして肩まで伸びた黒髪をCOOLにかきあげながら視線を狼男に戻すと、背中の矢筒からCOOLな手つきで矢を取り出し、弓につがえたッ!
「くっ、二対一か……!」
苦虫を噛み潰したような表情で言う狼男ッ!
だがしかし、助っ人の登場はこれだけでは終わらないッッ!!
「――うぐぅ!?」
狼男は突然目を見開くと、苦しそうに声を絞り出す!
「お……お腹が……痛い……!」
「んッ?」
相手の態度の急変ぶりを不審に思い、アネットとシャルルは眉間にしわを寄せた!
すると突然ッ!
ズドンッ!
狼男の腹が、振動と共にボコンと、急に空気を吹き込まれた風船のように膨れ上がったッ!
「何だと!?」
驚愕に目を見張る狼男!
ズドンッッッ!!!
ズドンッッッッッ!!!!!
彼の腹を襲う振動が、徐々に大きくなっていくッ!
そしてッッ!!
ズドンッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
一際大きな振動がしたかと思うと、とうとうこらえきれなくなった狼男は、たまらず胃の中のものを吐き出したッ!
そう、“胃の中のものを吐き出した”ということはすなわちッ!
彼が先ほど丸飲みにした人物……アネットの祖母が出てくるということであるッッ!!
「フン!!!」
彼の口から、小柄な老婆が勢いよく飛び出してきたッッッ!!!
彼女はそのまま草の海にポスンと綺麗に着地すると、機敏な動作で立ち上がったッ!
その姿を見たアネット、思わず感涙ッ!
「おお、祖母よ……ッ! 生きていたのか……ッ! まさか狼男の腹の中から、自力で脱出するとは……ッ!」
すると老婆は、そのしわくちゃの顔を歪ませて不敵に笑ったッ!
「ふっ、アネットよ……私が狼男に喰われた程度で、死ぬような女だとでも思ったのかい?」
威厳たっぷりにそう言い放つ彼女の雰囲気は、まるで歴戦の戦士のようであったッ!
次回、「祖母、圧倒的生還ッッッ!!!」に続くッッッ!!!