94 【傲慢】の力
昨日は更新できなくて申し訳ありませんでした。
とか言いながら本日もかなり遅れていますが……。
フローラは祭壇から飛び降り、そのまま俺達のいる場所のすぐ近くに着地した。そして、フローラは手に持った双罪槍斧を優雅に構えるが、自分の足元、そしてその周りを見るとため息をついた。
「……邪魔ね」
フローラはそう呟くと、その手に持った双罪槍斧を地面に突き刺す。すると、この辺りに倒れている魔人達がまるで彼女に吸収されるようにその体ごと消えていった。
「これから戦おうというのに、足元にあんな連中がいたのでは邪魔でしょう?」
確かにそうだ。あんな連中が足元に転がっていては、一々足を取られて戦いに邪魔でしかない。
そして、フローラは全ての準備が整ったと言わんばかりに再度、双罪槍斧を構え始めた。
「【傲慢】よ!!」
フローラが双罪槍斧を上に掲げ、そう叫んだ。【傲慢】の力の事を俺は知らない。だからこそ、何が起こっても良いように俺は身構えた。
すると、俺の体から少しずつではあるが魔力が減っているのを感じたのだ。アリシアも同じの様で彼女の聖気も少しずつ減っている様だ。
先程フローラが叫んでいた様に、これが【傲慢】の力なのだろうか?
「……一体何をしたのですか?」
アリシアも自身が感じた変調に気が付いているのだろう。アリシアは何が起こったのかをフローラに問いかけていた。
「フフ、これが【傲慢】の力よ。【傲慢】の力は『徴収』する力。そして、それは魔力だけではないわ」
「魔力だけではない……?」
「そう、【傲慢】は自身の周囲にある魔力、或いは聖気と言ったありとあらゆる力を『徴収』し、自らの力に変えるのよ。名付けるなら『傲慢王の徴収』といった所かしらね」
そして、そう会話している間にも俺達の力は段々とフローラに『徴収』されていく。このままではいずれ、俺の魔力やアリシアの聖気は全てフローラに『徴収』されるだろう。
だが、フローラが魔力や聖気を『徴収』するというなら、俺にだって対抗する方法がある。
「ならばっ!! 【強欲】!!」
【強欲】の力は『奪う』力、ならあの『傲慢王の徴収』とやらにも対抗できるはずだ。結果、【傲慢】と【強欲】の力はぶつかり合い、徐々に俺の【強欲】の方が勝っていった。俺とアリシアの二人を対象としている【傲慢】の力とフローラ一人を対象としている【強欲】の力では俺の方が勝るのは道理だ。
「ちっ、仕方がないわねっ」
そして、直後【傲慢】の力が俺の【強欲】の力と拮抗し始める。俺とアリシア両方に掛けていた【傲慢】の力を俺一人に集中させたのだろう。しかし、これで俺だけでなくアリシアもフローラの【傲慢】の力の影響を受けなくなる筈だ。
だが、ここまでの削り合いはあくまでも前哨戦でしかない。まだ戦いは始まってすらいないのだ。ここから本当の戦いが始まるのだ。
「俺が前にでる。アリシアは援護を」
「分かりました」
「行くぞっ!!」
そして、俺はフローラに向かって行った。アリシアの『光剣』の内の数本が援護する様に俺の周りを飛んでいる。
「行けっ、影獣!!」
そして、即座に『喰らう影』で影獣を生み出し、そのままフローラに攻撃するように命令を出した。影獣はその命令に従いフローラに攻撃を仕掛けようとする。
「ふん、無駄よ」
今にもフローラに攻撃しようとしていた影獣は、彼女が双罪槍斧を一度横薙ぎしただけで、簡単に消されてしまった。だが、そうなる事は薄々予想している。影獣は牽制の為に放っただけだ、魔力も殆ど込めてはいない。
「もらった!!」
フローラが双罪槍斧を横薙ぎした隙を突き七罪剣を振るうが、それも双罪槍斧の柄の部分で簡単に受け流されてしまう。だが、それも読んでいる。
「アリシア、今だ!!」
「ええ、聖炎剣!!」
俺のその言葉に合わせて周りにあるアリシアの『光剣』の内の一つ、聖炎剣が剣身に青い炎を纏わせながらフローラへと向かっていく。
「っ、この程度、甘いわっ!!」
なんと、フローラはその聖炎剣を左手で掴んだのだ。アリシアは聖炎剣の青い炎は魔力を糧に燃え上がる性質があると言っていた。実際、聖炎剣を掴んでいるフローラの手は青い炎で包まれている。だが、俺の時とは違いその炎が他の場所に移っていく事も無い。それどころか、手を包んでいる青い炎が段々と小さくなっているのだ。
「そんなっ……」
フローラが今やっている事の原理は分かっている。あの青い炎その物を魔力で掻き消しているのだ。俺もアリシアと戦った時に同じことをした記憶があるので、理解するのは難しくなかった。
だが、俺の時とは違いフローラは聖炎剣を手に持っているのだ。必然、フローラに流れる青い炎も俺の時以上の筈だ。
しかし、フローラはその青い炎を自身の持つ魔力で無理矢理抑え込んでいる。そして、何時の間にか手を覆っていた青い炎は完全に消え去っていた。
しかも、それだけではない。フローラは聖炎剣が纏う青い炎すらも魔力で抑え込んでいる。聖炎剣の青い炎は急速に減退しているのだ。
「滅茶苦茶だ……」
俺は思わずこの光景に見惚れていた。普通の魔人なら、恐らくではあるがあんな芸当をすれば魔力が尽きるのが先だ。しかも、あの聖炎剣は神聖騎士であるアリシアが生み出したものだ。あの聖炎剣にどれだけの聖気が込められているか不明な以上、普通なら避けるのが正解だ。だが、今のフローラはあんな芸当を簡単に行う程の魔力を持っているのだろう。
そして、聖炎剣の纏っていた炎も完全に消え去っていた。聖炎剣からは既に殆ど聖気を感じない。再びあの青い炎を出す為には聖炎剣に聖気を補充しなければならないだろう。
「……今後もこうなると面倒ね。封印してしまいましょうか」
フローラは手に持った聖炎剣を一瞥した後、そう呟くと聖炎剣を魔力で包み込んでいく。聖炎剣が完全に魔力で覆われるとフローラはその聖炎剣を無造作に放り投げた。
「まずは一つ、と言った所かしらね」
そして、聖炎剣は魔力に覆われたまま地面に突き刺さるのだった。




