91 クルクスト王国の遺産
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フローラは大胆不敵な笑みを浮かべている。その余裕が俺には妙に恐ろしかった。
「関係している? 一体どういうことですか?」
「あたし達は暗黒期の終わり、クルクスト王国が滅んだ時、その遺産の回収を教会にばれない様に極秘裏に行ったわ。そして、その回収した資料の中には面白いものがあったの」
「面白い、もの?」
「ええ。その資料によるとかの大罪人、クルクスト王国の最後の王であるジラード・クルクストはその生涯で二つの七罪武具を手に入れたそうよ」
「……っ」
俺はそれを、その話を、知っている。そして、思わず息を飲んだ。俺のその様子を見たアリシアは何かを察したのだろう。
「……お兄様、もしかしてこの話を知っているのですか」
「……ああ、知っている」
知っている、知っているさ。だからこそ、この後に続くであろう言葉を予想する事も容易にできた。俺の予想が正しいならこの後に続く話は……。
「だけど、彼は手に入れた二つ目の七罪武具を取り込む事は出来なかった。当たり前よね、複数の七罪武具を取り込むなんて常識的に考えれば不可能よ。余程の例外ではない限りはね。それこそ、神代にいた魔王達であっても不可能だったわ」
その余程の例外と言うのは、間違いなく俺の事だろう。
「しかし、あの男は諦めなかった。どうしても、二つの七罪武具を両方とも自分のものにしたかったのでしょうね。試行錯誤の上に、とある一つの結論に至ったそうよ」
そうだ、それがどんなものかを知っている。
「そして、あの男が至った結論は……」
「「二つの七罪武具を融合させる事」」
俺とフローラがそう発するのは同時だった。
「やはり、お前も知っていたのね」
「……知らない訳がないだろう?」
そうだ、俺が知らない訳がない。何故なら、その成果物こそが今俺が手に持っている七罪剣なのだから。
奈落で出会ったあの存在、フローラ曰く、ジラード・クルクスト、だったか。彼は確か、七罪剣は【強欲】と【暴食】の七罪武具を儀式で融合させたものだと言っていたのだ。
だとしても、なぜフローラは今この話をするのか。そう考えていた時、俺の頭に一つの答えが出てきた。
「まさか……」
もしそうだとするなら、フローラが手に入れたものは……。
「確か、カインと言ったかしらね。正直に言ってお前が持つその剣を見た時、あたしは感動したわ。まさか、完成品をこの目で見られるなんて思ってもみなかったから」
「……まさか、お前が手に入れたものは……」
「ええ、察しの通り二つの七罪武具を融合させるための儀式。その全てが書かれたものよ!!」
そう言って、何処からともなく取り出したのは、漆黒に染まった大きな斧だ。そして、その斧からは俺の持つ七罪剣や色欲刀、そしてフローラの持つ怠惰槍に匹敵するだけの魔力が込められていた。それを見た途端、俺とアリシアはその斧がどんなものかを察することが出来た。
「まさか、それは!!」
「ええ、お前たちの考えている通り。これこそ、七罪武具の一つ『傲慢斧ルシファー』、シルフィール帝国に封印されていた七罪武具よ」
「なっ!!」
その話を聞いたアリシアの表情は驚愕に染まった。まさか、この国だけではなくシルフィール帝国にあった七罪武具まで手にしているなんて想像もしていなかったのだろう。
だが、俺にはアリシア程の驚愕は無かった。どちらかというと、やはり、という気持ちの方が強かったからだ。フローラがあの儀式の話をした時点で薄々ながらもその事を察していたからだ。
だが、これでフローラは二つの七罪武具を持った事になる。つまりそれはあの儀式に必要な物が揃ってしまったという訳だ。
「そして、この祭壇も儀式を行う為に、手に入れたクルクスト王国の資料から再現した物よ」
そう言って、フローラは祭壇をまるで愛おしいものに接するかのように軽く撫でる。
「本来、これは奥の手にするつもりだった。もっと後々に使うつもりだったけれど……、気が変わった。お前達ならこれを使うのにふさわしいわ!!」
「くっ!!」
「それに、お前の持っている七罪剣、だったかしら。その剣は他の七罪武具の力を『奪い』『喰らう』力があるのでしょう?」
七罪剣の事も知られている。恐らくフローラの手に入れたという資料にその詳細が書かれていたのかもしれない。だからこそ、俺が【色欲】の力を使った時もあまり驚かなかったのだろう。
「なら、あたしが今持っているこの怠惰槍と傲慢斧の二つが融合すればどんな力が発現するか、気にならないかしら?」
俺の持つ七罪剣の事を考えれば、もし怠惰槍と傲慢斧の二つが融合すればどんな力が発現するかは、全く想像がつかない。だが、間違いなく言えるのは今よりもはるかに不味い状況になるという事だけだった。だからこそ、フローラが行う儀式はなんとしてでも食い止めなければならない。
「完成したものはとても面白い物になる予感がするわ。さぁ、儀式を始めましょう!!」
そう言ってフローラは仰々しく手を広げた後、祭壇に怠惰槍と傲慢斧の二つを置いた。そして、その祭壇に一気に魔力を注ぎ始めた。魔力が注がれた祭壇は突如光り出し、そこに置かれた二つの七罪武具は宙に浮き始める。その二つの七罪武具は段々とその形を漆黒の霧の様なものへと変わっていく。
「お兄様、止めないと!!」
「分かってる!!」
俺達は儀式を止めさせるべく、慌ててフローラの元へと向かおうとしたが、俺達を取り囲む魔人達は、その動きを妨害してくる。この魔人達は俺達をフローラの元へと向かわせないつもりだろう。
「くそっ!!」
再び影龍を生み出せば全滅させるのは容易いだろうが、あの儀式がどれ程の時間で完遂するのか分からない。そんな焦る俺達に対してフローラは無情な宣言をする。
「アハハハ、もう遅いわ!!」
祭壇にある漆黒の霧の様なものは混ざり合う様に一カ所に纏まり、巨大な漆黒の球体の様な形へと変化する。するとそれを確認したフローラは自分の手に魔力を収束させる。そして、その魔力は漆黒の刀の様なものへと変わっていった。あの刀は恐らくフローラ自身が持つ魔器だろうか?
「さぁ、これにて儀式は完了よ!!」
そう言うと、フローラは手に持った刀をその球体に目掛けて投擲する。その投擲された刀はまるで球体に取り込まれるかのように消えていく。
その直後、その球体はフローラに吸い寄せられるように近づいていった。その球体はフローラを包み込むが、よく見れば逆にフローラがその球体を全て取り込んでいる様にも見えた。
そして、その球体の全てをフローラが取り込むと、彼女の体から今迄以上の威圧感が放たれた。




