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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
90/128

90 歴史から消された国

また日を跨いでしまいました……。

申し訳ありません。

 影龍が辺り一帯全てを喰らった。そして、俺達の周囲には静寂が広がっている。この静寂を作った主である影龍は全てを喰らった後、込められた魔力が尽きて消滅していく。


「ぐっ!!」


 影龍が消えると同時に俺の胸の辺りに痛みが走った。その痛みから思わず片膝を地面につき胸を押さえた。


「お兄様!?」


 そんな俺の様子を見たアリシアが俺の方に駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ、もう大丈夫だ」


 恐らくこの痛みは魔力を一気に消費した反動だろう。練習も無しにぶっつけ本番で影龍を生み出したのもその一端を担っているのかもしれない。仮に、ではあるが練習していればもっと話は違っただろう。

 だが、その痛みもほんの数秒で引いていった。そして、その痛みが完全に引くと同時に俺は立ち上がった。そのまま警戒だけは続ける。


「だが、これで……」


 ちょっとしたアクシデントはあったが、これでフローラの従えていた魔人は全滅した。これで、フローラは何らかのアクションを起こすだろうと想定して、ふと彼女の様子を見た。


「……っ」


 だが、フローラは焦る様子もなく余裕の笑みを浮かべていたのだ。魔人が全滅し、戦力も消えた以上、フローラは少しぐらい焦りを見せてもいいはずだ。だが、そんな様子は一切ない。


「フフフフ、あたしのしもべがあれだけと思っているのかしら?」

「……どういう事ですか?」

「それはね、こういう事よ」


 そして、フローラが再び槍を掲げると、先程同様多数の人間が現れ、俺達をすぐさま取り囲んだ。しかもその数は、先程に匹敵する、あるいはそれ以上かもしれない。この人間達も先程同様、魔人だろう。


「まだいるのか!?」

「当たり前でしょう? あたしの戦力があれだけと思っていたなんて心外だわ」


 俺達を取り囲む魔人達はこちらを攻撃しようとする素振りは一切見せない。だが、フローラの指示があればその瞬間、先程同様襲ってくるだろう。


 しかし、先程と同じように影龍を生み出せば、再び一気に全滅させることは難しくない筈。結局の所、先程の光景が焼き直されるだけだ。こちらも魔力を消費するが、フローラの損害はそれ以上になる。彼女は一体何を考えているのだろうか、そう考えていた時だった。


「ところで、お前達は暗黒期に滅んだクルクストという王国の事を知っているかしら?」


 闘技場の奥、階段の先に座ったままのフローラは唐突にそんなことを言い出したのだ。


「……どうして、急にそんな話を?」


 アリシアがフローラに向けてそんな事を言い放つ。アリシアも何故フローラが唐突にそんな事を言い出したのか疑問だったのだろう。


「いいから、答えてみなさい」


 フローラのその言葉に俺は頭の中の知識を総動員するがそんな王国の名前は聞いた事が無い。一応、学園にいた頃の授業で世界の歴史については学んでいる。特に暗黒期は歴史上での大きな転換点ともいえる。故に、学園でも特に重点的に教えられる部分だ。

 だというのにクルクスト王国なんていう国の名前には一切と言っていいほど聞き覚えが無かったのだ。


「……俺は知らない。アリシアは知っているのか?」

「……まさか……」


 だが、アリシアはその王国の名前に心当たりが会った様だ。


「アリシア、知っているのか?」

「え、ええ、お兄様が知らないのも無理はありません。あの王国は、国の名前すら歴史から抹消されているのですから」

「歴史から抹消……?」


 アリシアの告げたその言葉に俺は何処か聞き覚えのある様な気がした。


「クルクスト王国、それは歴史から抹消された王国の名であり、今なお教会によってその名を軽々しく口にする事すら許されてはいないのです」

「よく知っているわね」

「私はこれでも神聖騎士の一人です。知らない筈がないでしょう?」

「……アリシア、そのクルクスト王国が何故歴史から名前が抹消されたのか、その理由を教えてくれないか?」

「……分かりましたお話しいたします。

 クルクスト王国が何故、歴史から名前が抹消されるという扱いを受けているのか、それには大きな理由があります。先日消滅した奈落、あの場所は元々かの国の王都でもありました。そして……」


 そして、暗黒期を齎し、現在では教会によって大罪人として指定されている、かの王が君臨していた国こそがクルクスト王国だったからです。アリシアは最後にそう付け加えた。


「……っ!?」


 その言葉を聞いた俺は思わず息を飲んだ。それは俺にも覚えがあったからだ。そして、今の自分のある意味の始まり、奈落での出来事を思い出した。


 あの奈落の最深部で、俺は魂だけになった、とある存在と出会った。そしてその存在は、自らをとある国の王と名乗った。しかし、結局その存在が自分の国の名前すら忘却していた為、その国の名を知る事が出来なかった。

 アリシアの言葉通りならば、俺が奈落の最奥で出会ったあの魂だけになったかの王が君臨していた国の名こそがクルクスト王国なのだろう。


 そして、クルクスト王国が名前すら歴史から抹消された理由も同時に理解した。暗黒期を齎した元凶である、かの王が治めていた王国。それは魔王、或いは魔人達の国家と言ってもいいだろう。そんな国は教会からしてみれば忌むべきものだ。歴史から抹消され、教会が軽々しく口にするのを禁じるのも納得が出来る。


 だが、なぜ今、そのクルクスト王国の話が出てくるのか。フローラのその意図が全く分からなかった。


「あたしが何故、今そんな話をするのか。お前達はそう思っているわね?」

「……その通りです。なぜ今そんな話を?」

「それはね、あたしが今からする事に大いに関係しているからよ」


 そして、フローラは大胆不敵な笑みを浮かべるばかりだった。

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