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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
89/128

89 影龍

「お兄様、彼等は一体……?」

「…………」


 アリシアは不安げな様子で俺の方を見つめてきた。その気持ちも分かる。突如として現れた数百人近い数の人間に、俺達は取り囲まれたのだから。

 俺はアリシアの方を向き、首を横に振る。


「分からない。とりあえず警戒を……」


 そこまで言い切った時に俺はふと思い出した。フローラが槍を掲げた瞬間、この人間達が現れた事を。

 その事に思い至った俺は慌ててフローラを探すが、この闘技場の何処にもいない。それでも、必死にフローラの姿を探している時だった。


「あたしはここよ?」


 その声は明らかに高い位置から聞こえてきた。その声の方を見上げるとその場所にフローラは居た。


「「なっ」」


 俺達は揃って驚きの声を上げた。俺達が驚いたのはそのフローラがいた場所だ。

 フローラは先程まで俺達と相対していたはずなのに、何時の間にか闘技場奥にある階段の頂上にいたのだ。恐らくは、この人間達が取り囲むと同時に階段を昇ったのだろう。そして、そこにあった祭壇に腰を掛け優雅に座っている。その姿はまるで数多の配下を従えている女王の様だった。


「どうかしら、この数の魔人達は。お前達に倒しきれるかしら?」

「……魔人?」


 俺がそう聞き返した瞬間だった。俺達を取り囲んでいる者全員から魔力が放たれた。俺達はあの時既に数百にも上る魔人に囲まれていたのだ。


「あれだけの数の魔人をどうやって……」


 俺はそう言葉にするが、答えは分かりきっていた。恐らく、ここにいるのは買い占めていた奴隷達だ。その証拠に俺達を取り囲んでいるのは身なりの整っていない者ばかりだ。


「これが、あたしの【怠惰】の本当の力よ」


 そうだ、【怠惰】の力の本質、それは眷族たる魔人を従え、操る事だ。その力は直接相手と対峙している限り発揮されることは無い。逆に言うなら、今この時が【怠惰】の力が発揮されていると言ってもいい。


「あたしは特等席で眺めさせてもらうわ。さぁ、行きなさい。あたしの可愛いしもべ達」


 そして、フローラがそう命令を下すと、俺達を取り囲んでいる魔人達は一斉に襲い掛かってきたのだった。




「このままではっ!!」

「くっ!!」


 俺達は揃ってこの状況に大きな危機感を抱いていた。数とはそれだけで大きな力になる。俺達は四方八方から次々と同時に襲ってくる魔人達に手を焼いていた。しかも、更に最悪なのが連携もほぼ完璧だという事だ。この魔人達も大元を辿れば、操っているのはフローラ只一人なので連携を取れない訳がない。

 

「くっ、聖刃剣!! 聖炎剣!!」


 アリシアの聖刃剣から放たれる不可視の刃が魔人を切り裂いていくが、数人を切り裂いた所でその刃は途絶える。

 そして、聖炎剣から放たれる炎は魔人を燃やし尽くすが、この数相手ではそれにも限界がある。


「『喰らう影』よ!!」


 俺が生み出した影獣は魔人を喰らって行くが、数人を喰らった所で、他の魔人に影獣が消されてしまう。


「くそっ!!」


 影獣を生み出しても、数人程度を喰らう事しかできないこの状況に思わず言葉を吐き捨てる。

 俺達の周囲を取り囲む魔人達も一対一で相手をすれば負けることは無い。だが、この数で囲まれるのは話が違う。質を数で補われるという状況に俺達は次第に消耗が激しくなっていく。


「この状況、どうにかしないと……」


 アリシアから感じる聖気も戦い始めた頃に比べると少なからず減っている。俺達が戦い続けたとして、負ける可能性は少ないと言ってもいい。だが、このままのペースでは俺達を取り囲んでいる魔人を全滅させることが出来たとしても、力尽きる、或いはそれに近い状況になりかねない。


 なにかもっと、もっと別の方法を考えない限り、いずれジリ貧になるだろう。そんな事を考えていた時俺はふと思い出したことがあった。


「…………そうだ」


 少し前、フローラは言っていた。嘗て存在した【暴食の魔王】は『喰らう影』で様々な存在を生み出していたと。なら、先程言っていた天高く舞う鳥に無数の蝙蝠、そして長い胴体を持つ龍の様なもの、その全てを俺も『喰らう影』で生み出すことが出来る筈だ。


「イメージは……」


 俺が想像するのは龍、全てを喰らい尽くす暴食なる龍だ。

 そして、七罪剣から溢れ出た魔力は次第に俺の想像した通りの形へと変わっていく。昔読んだ事がある本に載っていた、そして先程フローラが言っていた様な、蛇を思わせるような長い胴体を持つ龍へと。その姿はまるで影が形を取ったかのように頭部から尻尾の先まで全身が漆黒に染まっている。


「お兄様、これは一体……?」


 俺が生み出した漆黒に染まった龍を見たアリシアは呆然とした様子で呟いていた。

 いつも生み出している影獣は獣の形をしているからそう呼んでいる。なら、これは影龍といった所だろう。


「全てを喰らえ、影龍!!」


 そして、俺がそう叫ぶと、影龍はまるで雄叫びを上げるように口を大きく開いた後、俺達の周りをまるで螺旋を描くようにグルグルと高速で周回していく。俺達の周りにいた魔人達は次々とその影龍に触れただけで、まるで影龍に取り込まれるかのように消えていくのだった。




何時の間にか総文字数が20万文字を超えていました。今後とも更新頑張っていくので応援よろしくお願いいたします。

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