87 フローラとの決戦開始
久々に戦闘描写を書いた気がします。
戦闘描写はかなり難産になりそうな予感……。
「『喰らう影』!!」
「『光剣』!!」
手始めに俺は『食らう影』で影獣を、アリシアは『光剣』を一本だけ具現化、そのまま同時にフローラに向けて放った。
勿論、この程度で倒せるとは到底思ってはいない。これはあくまでも、様子見程度でしかない。その証拠に、俺も影獣には殆ど魔力を込めていないし、アリシアの光剣も殆ど聖気を込めていない様だ。
そして、フローラは手に持った怠惰槍で『光剣』を弾いた後、そのまま穂先を影獣に突き刺した。
直後、怠惰槍で刺された影獣は消滅、アリシアの放った光剣も怠惰槍が放つ魔力の影響を受けてか、具現化が解けかかっていた。
様子見とはいえ、俺達の攻撃を簡単にいなしたフローラは何事も無かったかのように悠然と立っていた。
「『喰らう影』ね、懐かしい物を見たわ」
『喰らう影』は俺がガイウスから模倣したものだ。また、そもそもガイウス自身も『喰らう影』は神代の【暴食の魔王】が使用した御業の模倣と言っていた。そして、フローラは神代の魔人だ。
つまりフローラは神代の【暴食の魔王】が使っていたオリジナルの『喰らう影』を見た事があるのだろう。
「そして、あれが『謙譲の騎士』が使う技、眷族たる聖騎士の聖武具を具現化させる『光剣』ね」
フローラは神代の魔人と言うだけあって、アリシアよりも前の【謙譲の騎士】の事を知っているのだろう。なら、アリシアの使う技の事を知っていてもおかしくは無い。
「それにしても、カイン、といったかしら。お前は『喰らう影』で、あんな獣一体程度しか呼び出せないのかしら?」
「……どういう事だ?」
「あら、知らないのかしら? ……まぁ、いいわ。懐かしい物を見せて貰ったお礼に一つ教えてあげるわ。その『喰らう影』という技、まさか影で出来た獣一匹程度を生み出す技だと思ってないかしら?」
「……違うのか?」
『喰らう影』で形作れるのは獣程度だと考えていた。一応は『暴食の深淵』の様な技も作っては見たが、あれはあくまで何かを形作るのではなく、相手を包んで飲み込むような技だ。
「ええ、あたしが知っている【暴食の魔王】は『喰らう影』で確かに獣も生み出してはいたけどそれだけじゃない。天高く舞う鳥に無数の蝙蝠、そして長い胴体を持つ龍の様なものまで、そういった存在を数多く生み出していたわ」
「天高く舞う鳥、無数の蝙蝠、長い胴体を持つ龍……」
「それだというのに、獣一体程度しか生み出せないなんてね……。その七罪武具が泣いているわよ」
「…………」
そうだ、何故『喰らう影』で影獣しか生み出せないと考えていたのか。よく考えれば影獣以外の形を作る事だってできる筈だ。
いや、その原因を、今は、だが何となくだが分かっている。恐らく、ガイウスが使った『喰らう影』にイメージが引っ張られていたのだろう。
「そして、もう一つ。魔力にしてもそう。使い方に無駄が多いわ」
だが、先程の話と違い、今指摘された魔力の使い方に関しては仕方がないだろう。そもそも、俺が魔力を宿してから一年も経過していないのだ。
神代の魔人にしてみれば俺など赤子のような存在だろう。それだというのに魔力の使い方が甘いと言われてもどうしようもない。
例えるなら、剣を持った事も無い赤子に剣を使わせて、扱い方がなっていないという様なものだからだ。
「さぁ、続けましょうか。今度はあたしの番よ!!」
フローラはその言葉の通り、今度はこちらの番と言わんばかりに俺に目掛けて怠惰槍を突き出してきた。だが、俺はそれを七罪剣で何とか逸らすが、その突きは一度だけではなかった。
「くっ、速っ!!」
高速、そして連続で突き出されている怠惰槍を七罪剣で何とか逸らしていくが、次第に逸らしきれなくなり、体に軽い傷が増えていった。
「お兄様っ!! 『光剣』、行きなさい!!」
その時、俺を援護する様に、アリシアが即座に生み出した光剣をフローラへと向けて放った。
「邪魔!!」
そして、フローラはアリシアの生み出した『光剣』を怠惰槍で弾いたが、そこに出来た一瞬の隙に俺は後方に飛び退く。
「アリシア、助かった」
「いえ。とにかく、今は戦いに集中しましょう」
そして、俺は体勢を立て直した後、次なる攻撃へと移る。
「お兄様、私が抑えますのでその隙に」
「ああ」
アリシアは俺が返事をすると、そのままフローラの方向に駆けていく。俺もそれに合わせて、アリシアに追従する。先程の会話通り、アリシアが抑えている内に俺が攻撃を仕掛けるのだ。
「あら、それは悪くは無い。だけど、甘いわ」
だが、なんとフローラはアリシアを迎撃するのではなく、アリシアの懐に飛び込み怠惰槍の柄を棒の様に振るったのだ。
「なっ!! かはっ」
アリシアにしてみれば、まさか迎撃ではなく懐に飛び込んでくるとは思わなかったのだろう。フローラに容易に懐に入られたアリシアは怠惰槍の柄が腹部に直撃し、その一撃を受けた。それを受けたアリシアは少し後ろに飛ばされてしまう。こうなってしまえば、アリシアがフローラを抑えるどころではない。
「アリシアっ!!」
「あら、余所見は禁物よ」
「っ!!」
一瞬アリシアに気を取られたが、フローラの言葉で俺は反射的に彼女に向けて逆袈裟を放った。
「それは読めているわ」
「なっ」
だが、フローラはそんな反射的に放った攻撃など読めていたのだろう。身体を逸らすだけで俺の攻撃を回避する。しかし、俺にはもう一つの手、二の矢が残っている。
「まだっ!! 色欲刀!!」
俺は即座に空いた手に色欲刀を具現化した。これが俺のもう一つの手だ。手に具現化した色欲刀をそのままフローラ目掛けて突き出した。
「『色欲の幻影』っ!!」
更に俺は『色欲の幻影』で、フローラの精神に干渉し、突き出した色欲刀の位置を誤魔化す為の幻影を見せようとした。
「っ!! 無駄よ!!」
「なっ!!」
だが、フローラの精神に干渉した瞬間、その干渉が断ち切られたような感覚を覚えたのだ。そして、俺が突き出した色欲刀は、フローラが怠惰槍で的確に逸らした。その後、フローラはがら空きになった俺の脇腹に回し蹴りを叩き込んでくる。
「ぐはっ!!」
回し蹴りをもろに受けた俺は、軽く吹き飛ばされる。俺は吹き飛ばされた先で、慌てて七罪剣を支えにして何とか起き上がるが、俺の頭の中では疑問で一杯になっていた。
「まさか、【色欲】の武具まで所有しているなんてね……、全くの想定外で少し焦ったわ」
フローラのそんな言葉が頭に入ってこない程、俺の頭は疑問で埋め尽くされていた。一体何が起こった、俺の頭にはその言葉で溢れかえっていたのだ。
そんな俺を見たフローラは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「何が起こったのか、全く分からないという顔をしているわね」
「っ」
図星だった。俺は思わず苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。
「答えは教えてあげないわ、自分で考えてみなさい」
原因は分からないが【色欲】の力はフローラに効かなかった。原因が分かれば【色欲】の力が効くのだろうか。いや、そうとは俺には到底思えない。
結局の所、どの道【色欲】の力がフローラに効かない以上、もう【色欲】を使うことが出来ない。
俺の中には、厳しい戦いを強いられそうな予感が駆け巡っていたのだった。




