85 2回目の地下水路
遅れてしまって申し訳ありません。
まさか活動報告すら書く時間が無いとは……。
決戦の日の早朝、俺は最後の準備とその確認をしていた。
そして、全ての準備を終えた俺は、最後にテーブルの上に置かれている。ポーションが入った道具袋を腰に掛ける。この道具袋に入っているポーションは全て聖騎士団に配備されている超高品質の物である。それをアリシアが拝借してきたのだ。
だが、神代の魔人相手では心もとないだろう。戦闘中にポーションを飲めるとは思えない。あくまで、無いよりはまし程度と考えておくのが良いかもしれない。
そして、準備が全て終わったかの最終確認をした俺は、屋敷の入り口の扉の前で待っていたアリシアと合流した。
アリシアはドレスアーマーを着ている。戦いに赴く準備は万全の様だ。
「アリシア、行こうか」
「ええ」
そして、俺達二人は揃って屋敷から外へと足を踏み出した。
俺達が屋敷から出ると、ボロ外套を着た一人の少年が、屋敷の敷地内へ入る為の門の端で立っていた。遠い所にいる為、確定的な事は言えないが俺はその少年に見覚えがあった。
「あの少年は……」
「お兄様、知っているのですか?」
「あ、ああ」
あれは確かエミルという少年だ。そして、 フローラの言っていた招待状はあのエミルの事をさしているのだろうか。
俺達は門の前に立つエミルに近づいていくが、エミルは俺達が近づいているというのに動きという動きをみせる事が全くなかった。その事が気になった俺はその顔を覗き込んだ。
「……っ」
覗き込んだエミルのその顔には明らかにおかしい事が一つあった。瞳に光が宿っていないのだ。二回目に出会った時は、折檻を受けたらしく何もしゃべらなかったが、それでも瞳には光が宿っていた。それを思えば、今のエミルは明らかに異常だった。
だが、瞳に光が宿っていないエミルが突然、言葉を発し始めた。だが、その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず驚く事になった。
「あら、待っていたわよ」
なんと、エミルの口調や声色は女性特有のものに変わっていたのだ。そして、その声に俺達は聞き覚えがあった。
「その声、まさかフローラ、か?」
「正解、よく分かったわね」
少年の見た目をした者から女性の声が発せられる、という事には強い違和感があったが、そんな事を考えている場合じゃない、とその考えを一度捨て去る。
エミルのこの状態はフローラの持つ【怠惰】の七罪武具の力だろう。【怠惰】の力は他者を操る事だ。これぐらい出来ても不思議はない。
要は、このエミルという少年が、あの時フローラが言っていた招待状であり、同時にメッセンジャーでもあるという訳だ。
「じゃあ、あたしの所まで案内するわ。ついていらっしゃい」
フローラに操られたエミルはそのまま貴族街を進んで行く。俺とアリシアは互いに互いの顔を見合わせ、同時に一度頷いた。
「お兄様、行きましょう」
「ああ」
そして、俺達はそのエミルの後をついていくのだった。
「また、ここか」
今、俺達がエミルに案内されながら進んでいるのは、昨日も使った地下水路だ。今回は、前回この貴族街に出た所とはまた別の入り口を使っている。貴族街だけでも一体どれだけの地下水路への出入り口があるのだろうか?
そして、地下という立地からか、ふと上、つまり地上の事を考えてしまう。地下水路に入ってから、かなりの時間が経っている。地下にいる俺達には地上がどうなっているのかは全く把握する事は出来ないが、それでも地上が騒がしくなっているだろうというのは簡単に想像がつく。
「上ではもうクーデターは始まっているのか……」
「あら、そこまで知っているのね。その通りよ」
俺達の呟きが前まで聞こえたのか、前方からフローラのそんな声が聞こえてくる。
「地上では既に大騒ぎになっているわ」
だが、地上がどうなったとしても、その状況は全く伝わってこない。地上はどうなっているのだろうか? そう思っていると、フローラが地上の事を少しだけ話し出した。
「一つだけ朗報を教えてあげる。地上にいる聖騎士達はかなり奮闘している様ね」
地上の事を教えてくれるその意図は分からなかったが、それでも俺はフローラの言葉に耳を傾ける。
そのフローラの情報によると聖騎士達はしっかりとこの事態に対処できている様だ。事前にクーデターの事を知れたのが大きかったのだろう。
だが、もしここで俺達がフローラに負ける事になれば、地上での聖騎士達の奮闘も一気に水泡に帰す。神代の魔人であるフローラが地上に出て戦えば、並の聖騎士ではすぐに敗北を喫してしまう。
そして、もしアリシアが殺されたとなれば、聖騎士達の士気はガタ落ちになるのは間違いないだろう。
結局の所、地上がどうなろうと関係ない、俺達はフローラを倒すしか道が残されていない、そしてそれが王都を救う事にも繋がるのだ。俺は改めて気を引き締め、地下水路を進み続けるのだった。
この地下水路を進み続けてわかった事が一つあった。地下水路はまるで迷路の様な事になっていると言われていたが、まるで迷路の様、ではなく、この地下水路は正真正銘の迷路だ。そんな事を考えながら、それでも地下を進み続ける。
そして、今自分が何処をどう進んでいるのか分からなくなった頃だった。
「さぁ、この先よ」
エミルの目線の先には今まで進んでいた道とは明らかに趣が異なっている道があった。
その両端に今迄の様な横道は見えない。この先は一本道、そしてこの先にフローラがいるのだろう。
エミルはその道も普通に進んでいく。俺は、一度だけ深呼吸した後、覚悟を決める。その直後、俺とアリシアはこの一本道の奥へと足を踏み入れた。
そして、この一本道を数分歩いた頃だった。一本道の先、開けた場所に出たが、そこに広がっていた光景に俺達は思わず息を飲む。
「ここ、は……」
「地下水路の奥にこんなものが……」
俺達は揃って呆気に取られていた。まさか地下水路の奥にこんな場所が広がっているとは想像もできなかった。
なんと地下水路の奥、一本道を進んだ先にあったのはまるで闘技場を彷彿とさせる巨大なドーム状の空間だったのだ。
フリマで出店する側って相当疲れますね……。
日曜日は更新どころか、パソコンの前に立つ事すら出来ず、帰ってきた途端ばったり寝込んでしまいました。更新できずに申し訳ありませんでした。




