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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
82/128

82 フローラの提案

「……あ、アリシア……?」

「えっ……、お、お兄様、どうしてここに……?」


 なんとこの部屋に飛び込んで来た者の正体はアリシアだったのだ。俺はどうしてアリシアがこんな所にいるのかという疑問で頭が埋め尽くされていたが、アリシアもそれは同じ様で、互いが互いの顔を見合わせて呆然となっていた。だがそれも次の瞬間、元に戻る事になる。俺の向かいに座るフローラがアリシアに声を掛けたのだ。


「あら、無粋な侵入者さん。貴女を招いた覚えはないのだけれど……。まぁいいわ、折角来たのだから、歓迎はしてあげるわ。あたしの名前はフローラ・ラスト。ようこそ、神聖騎士アリシア・エレインさん」

「……私の事を知っているのですか?」

「貴女達神聖騎士の事を把握していない魔人なんていないわよ。神聖騎士が一体どれだけあたし達の同胞である魔人を討ち取ったと思っているの?」

「…………」


 魔人達、しかも神代の魔人であっても神聖騎士には注意を払っているらしい。神聖騎士は彼等神代の魔人にとってみれば、自分達を討ち取ることが出来る唯一の存在とも言えるのだ。警戒し、情報を把握するのは当然と言えた。


「そう言えば彼を、お兄様、なんて呼んでいたわね。もしかして兄妹なのかしら?」

「……そうだとしたら、一体何だというのですか?」

「でも知っているのかしら? 彼はあたしと同じ魔人、それも普通の魔人とは格が違う。魔王と呼ばれる存在なのよ?」

「……知っています。だからどうしたというのですか?」


 アリシアのその言葉にフローラは一瞬だけ呆然となった後、高笑いを上げる。


「アハハハハハハハハハハハ、これは傑作だわ!! まさか神聖騎士である貴女が魔王とも呼んでもいい彼を知っていながらも見逃しているなんてね!!」

「…………」


 アリシアは無言でフローラを睨みつけているが、それでもフローラは臆した様子もない。というかフローラが一々色っぽい仕草をしているのが妙に目に入る。男を誘う娼婦を彷彿とさせる仕草に度々目を奪われそうになる。あの妖艶な雰囲気で色っぽい仕草をするのだ。言葉にするなら魔性の美と言っても過言ではないだろう。フローラの様な妖艶な女性があんな仕草をすれば、健全な男性なら誰だって目を奪われそうになるだろう。


「ならこっちの彼にも聞いてみましょうか。先程の話の続きよ、私達と手を組まない?」


 フローラは、今度は俺の方に話を振って来る。


「あたしと貴方が手を組めば世界を支配する事だって出来るわ。どうかしら? それに貴方と神聖騎士は本来、相容れない存在の筈。貴方の理解者は私達魔人しかいないのだから」

「……例えばの話だ。もし手を組んだとして、それでアリシアはどうするつもりだ? 殺すつもりなのか?」

「当然殺すわよ。神聖騎士なんて邪魔な存在でしかないもの。貴方にとってもその方が良いでしょう?」


 フローラのその言葉に俺は覚悟を決めた。元々手を組むつもりなんてなかったが、彼女がアリシアを殺すといった瞬間、その可能性は絶無になった。

 俺は首を横に振り、フローラの言葉に否定の意を示しながら口を開く。


「お前と手を組むという選択肢は、俺の中ではない」

「……残念ね、世界を支配した暁には支配した世界の半分を上げようと思っていたのだけれど。本当にいいのかしら」

「……ああ、お前がアリシアを殺すというなら、俺はアリシアを守る。そう誓った」


 俺はあの時アリシアを守ると誓ったのだ。その誓いに嘘は無い。だが、それはフローラに対しての敵対宣言でもある。何時、戦いに突入してもおかしくは無い。俺は何時でも戦える様に意識を集中する。


 だが、俺の答えを聞いたフローラは先程と同じく一瞬呆然となった後に高笑いを上げ始めた。


「フフフフ、ハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハ!!」


 だが、その笑いは俺には嘲笑の類の様にしか聞こえなかった。


「アハハハハハハハハ!! 傑作だわ!! アハハハハハハハハハ!!」


 フローラの笑いは止まるどころか、さらに勢いを増していく。


「貴方達はあたしを何度笑わせてくれたら気が済むのかしら? 貴方達は本当に面白いわ!! アハハハハハハハハハハハ!!」


 だが、突如フローラは笑うのを止めた。そして、その顔に浮かぶ表情は一変、冷徹な支配者を思わせるものへと変わっていた。


「だけど、それはあたしと敵対する、という解釈でいいのよね?」


 その言葉と同時にフローラから威圧感とでも呼ぶべきものが放たれる。


「っ!!」

「くっ!!」


 フローラから放たれるその威圧感に気圧されそうになるが、俺達はそれを何とか跳ね除けた。


 俺は言うなればフローラに向けて完全なる敵対宣言をした様なものなのだ。ここで戦いになってもおかしくは無い。この場に一触即発の空気が流れた。何かの弾みがあれば間違いなく戦いが起きるだろう。

 だが、その時フローラが口を開いた。


「……いいわ、ここは引いてあげる」

「っ、逃げるのですか!?」

「こんな場所で、戦うなんて無粋極まりないわ。あたし達が戦うにはそれ相応の舞台が必要でしょう?」

「舞台?」

「ええ、明日の日の出と共に招待状を出してあげる。それに従ってあたしの所に来なさい。戦う舞台はそれまでに用意しておくわ。そこで決着をつけましょう?」


 ここは貴族街のど真ん中だ。こんな所で戦いになればどれ程の被害が出るかもわからない。それに間違いなく公爵邸にも影響が出る。それだけは避けたい。


「折角だから、下で待機しているあたしの部下も全て引き揚げさせるわ」


 そして、フローラは部屋にある大きな窓を開けた。あそこから下に飛び降りるつもりの様だ。


「最後に一つだけ教えてあげる。明日の日の出と共に全てが始まるわ。もうお前達ではどうしようもない。せいぜい足掻く事ね」


 そう言うとフローラは部屋の窓から外へと飛び出し逃げていった。俺達は慌ててフローラが逃げた窓の外へと身を乗り出し、逃げていった彼女を探そうとするが、その姿はもうどこにもなかった。


「……ふぅ」


 フローラが居なくなった後、張り詰めていた気を緩めた。ふと気が付くと手から汗が溢れ出ていた。俺はその手を思わず握りしめる。


「…………」


 逃げられた、いや、明日まで見逃してくれたという方が正しいだろう。だけど、それは明日の日の出までが期限だ。






 フローラとその配下の魔人が撤退したあの言葉通りに撤退したという言葉が本当なら、もうこの屋敷に用は無い。そう思い部屋から出ようとした時だった。


 ――――ゲシ


「痛っ」


 ――――ゲシゲシ


「痛っ!!」


 俺の足に何度も痛みが走ったのだ。思わず足の方を見ようと視線を降ろしてみると、何故かアリシアの足が俺の足を小突いていた。


「ちょ、アリシア……」


 だが、アリシアはジト目を浮かべている。その目を見た途端、俺は罪悪感に駆られそうになる。なんというか、不貞の現場を妻に見られた夫の心境とはこういう事を言うのではないだろうか?


「……あの、アリシア、さん?」

「お兄様、ひどいです……」


 そう言いながらもアリシアは俺の足を小さく蹴るのを止めようとしない。


 ――――ゲシゲシゲシゲシ


「ちょ、アリシア、痛っ!!」

「あれですか、お兄様はあのフローラという女の人の方が好みなのですか!?」

「痛、痛っ!! い、いやそういう訳じゃ……」


 だが、アリシアの言葉は止まらない。ついでに言うなら蹴りも止まらない。それに、薄っすらと涙目を浮かべている様にも見える。


「だったらどうして、あのフローラとかいう女の仕草に度々目を奪われているのですか!? 私はお兄様に振り向いて貰う為にあれほど頑張っているのに!!」

「分かった、分かったから……」

「むぅ、お兄様は全く分かっていません!!」


 俺は何とかアリシアを落ち着かせようとした。そして、その甲斐あってかアリシアは段々と落ち着きを取り戻していた。アリシアが俺の足にしていた蹴りも止まっている。


「帰ってから話は聞くから。それよりも今はこの屋敷から出ないと」


 実際、あのフローラという魔人は何処かへと撤退していった。だが、それでもこの屋敷に罠が仕掛けられている可能性はごく微量だが残っている。早くこの屋敷から出る事に越したことは無いだろう。


「……分かりました。では帰ってから話を聞いてもらいますからね!!」

「あ、ああ」


 その後一階を探索していた聖騎士達と合流した俺達は彼等からの報告を聞いた。彼ら曰く、一階部分は全て捜索したが結局魔人どころか人一人も出てくることは無かったらしい。あの言葉通り、この屋敷から魔人はすべて撤退したのだろう。


 そして、この屋敷を出た後、俺は屋敷に帰宅する事になった。アリシアは先に行かなければならない所があるそうで、そこで用事が終わり次第帰宅するとの事だった。

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