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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
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78 もう一人の奴隷商

 今回の目的地はあの酒場で聞いたスラムにあるもう一つの奴隷商の店だった。前回の言った奴隷商の店でそこの店主が殺された事件があった。ならここの奴隷商でももしかしたら何かが起こっているかもしれないと思ったからだ。

 だが、そこで問題が一つ発生していた。


「……今日もハズレか」


 その問題とは店に店主がいなかったことだ。一応看板がある為まだ完全に引き払ってはいない様だが、酒場で聞いた情報では、ここの店主は奴隷商から足を洗うとの事だった。ならこの店は店主にとって用済みだろう。そう考えるといつ引き払っていてもおかしくは無い。

 

 だが、ずっと男の帰りを待ち続けるわけにもいかないとスラムを彷徨い情報を集めていくが結局、これといった有力な手掛かりとなるものは無かった。




 そして、事態が動いたのは、俺がこの奴隷商の店を始めて訪ねた時から数日後の事だった。


 ――――ゴンゴンゴンゴン


 俺は店の入り口の扉を何度もノックする。これがここ数日の日課になっていた。まずここに店主がいるのかを確認してからスラムで情報収集をする。それが最近のパターンだった。今日も店の中からから一向に人が出てくる気配は無い。今回もハズレか、と思った俺はすぐに、諦めてここから立ち去ろう、そう判断した時だった。


「はい、どなたでしょうか?」


 何と今迄いなかった店主が今日はこの店にいたのだ。この機会を逃すわけにはいかないと俺は慌ててその店主に声を掛けた。


「ここは奴隷商だと聞いたんだが?」

「……申し訳ありません。私は既に奴隷商から足を洗ったのです。この場所からももうすぐに引き払う予定です」


 それも、あの酒場で聞いた話の通りだ。店の中には店として最低限の体裁を保つ備品も殆どが無い。既にこの店から引き払う準備は整った状態なのだろう。


「ここの奴隷が一気に売れたという話を聞いた。誰に売ったのかを聞きたい」


 だが、俺がそう言うと店主は露骨に嫌そうな顔をする。それも前の奴隷商と似たような反応だ。俺は前回と同じく公爵家の家紋を見せる。


「っ!!」


 そして、俺は道具袋からもう一つの紋章を取り出した。それも合わせて店主に見せる。


「っ、それは、聖騎士団の……」


 そう、俺が店主に見せたのは教会、聖騎士団の紋章だ。この紋章はアリシアから預かったものだ。聖騎士団は魔人に関係する事件の時には、特別な捜査権を与えられている。つまり聖騎士団、あるいはそれに関わる者が捜査しているとなるとそれは魔人絡みの事件という事になる。そうなると、大抵の人間は捜査への協力を拒否する事は出来ない。協力を拒否するという事はそれだけで魔人との繋がりがあると疑われるからだ。

 因みに、この紋章を預けてくれたアリシア曰く「この紋章があれば捜査がもう少し楽になるかもしれませんので、これをお兄様にお預けしますね」との事だった。まぁ、最後に「ですが、くれぐれも悪用だけはしないでくださいね」と付け加えられてしまったが。


 店主は二つの紋章を見せられて、諦めたかの様に口を開いた。


「ここの奴隷を一気に買い取った者が誰かを聞きたい、それが貴方の用件でしたね。……分かりました、お話しいたします。長い話になりますので、どうぞお入りください」


 そして、店主は俺を店の中へと案内するのだった。




「では、お話しいたします」


 店の中に入り用意された席に座ると店主は語り出した。

 ある日、普通に店を開いている時に、この店に一人の男が現れたそうだ。その男は自分がとある貴族の使いだと名乗った。そして、その男の主は労働力として現在奴隷を大量に集めており、その一環でこの店へとやってきた。男はこの店にある奴隷を全て買い取りたいと言ってきたそうだ。その話に店主は飛びついた。この店主は奴隷商から足を洗いたがっていたからだ。

 だが、その男は奴隷を買い取る条件として、自分達の身元を詮索しない事、この取引で得た情報を口外しない事を要求してきたという。しかし、提示された金額は相場を超える額だった。要は口止め料だったのだろう。店主は、厄介事に巻き込まれるかもしれないと思い、この取引を進めるか悩んだが、それでも奴隷商から足を洗いたかった為、最終的にこの取引に応じたとの事だった。

 そして、厄介事に巻き込まれる前に、奴隷を売って手に入れた金を元手にこの王都から離れ、遠い所で新しい商売を始める予定だったそうだ。


「これで貴方にお話し出来る事は全て話しました。もう知っている事は何も御座いません」

「そうか……、他に何かその貴族について知っている事は?」

「いえ、身元の詮索をしようとは思いませんでしたので……」


 この店主は約束通り身元の詮索をしなかった様だ。或いは詮索すれば厄介事に巻き込まれると判断したのか。


「……そう言えば」

「何か知っているのか!?」

「いえ、貴族の使いを名乗ったあの男なんですが、初めてこの店に来た時からずっと何処かで会った様な気がしていたんですよね」

「何処かで?」

「ええ、何処だっけなぁ……」


 そして、店主はそれを思い出そうと必死に頭を抱え唸っていた。


「……………………あっ!! そうだ、あの時だ!!」


 店主曰く、古くからの知り合いの商人に会いに行ったときにあの男を一度だけ見た事があるという。その知り合いの商人は大貴族相手にも取引をしており、店主がその商人の会いに行った時、丁度取引を終え帰るところを目撃したとの事だ。


「それで、その商人に男の事を聞いたのか?」

「ええ、確かあいつに聞いた時、あの人はクレイモン侯爵の使いの者、って言っていた様な……」

「そうか……」


 クレイモン侯爵、俺もその名前には聞き覚えがあった。俺は貴族社会には詳しくはないが、確かクレイモン侯爵はメルクリア王国内の貴族派閥の内、反国王派と呼ばれる派閥に属していたはずだ。

 因みに、反国王派はその名の通り、現在の国王に不満を持った貴族が集まっている少し過激な派閥だ。そんな派閥だというのにこの派閥には少なくない数の貴族がいるという話を聞いた事がある。


(クレイモン侯爵、調べてみる価値はあるかもしれないな……)


 俺はそう思ったが、今は店主から話を聞くのが優先だ。


「それで、他に何か知っている事は?」

「いえ、流石にもう……」


 やはりそう簡単に他の情報は出てこない。そして、店主が他に何も知らない様子な以上、ここで知れる情報はこれで最後だろう。そう判断した俺は最後に店主に情報提供への感謝を伝えこの店から退出するのだった。

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