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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
73/128

73 スラムの酒場で

ギリギリ間に合いませんでした……。本日も可能なら更新するつもりです。

 あの封印殿に出向いた日から数日が経過していた。アリシアによると、俺と分かれた後、聖騎士団と協議した結果、王都全域の調査を始めたとの事だ。王都全域に聖騎士が配備されており、警備も厳重化しているらしい。

 俺が街中を歩いていると、普段に比べ明らかに見回りをしている聖騎士の数が増えていた。これも、捜査の一環だろうか。

 アリシアも忙しそうにしており、屋敷にいる時間が明らかに減っていた。




 そんな中、俺は再びスラムに来ていた。どうせ俺は何もする事が無いのだ。それに、魔人や七罪武具の話となれば、一概に俺も無関係とはいえない。また、ここで俺が何かを見つければアリシアの負担を減らせるのではないか。そんな事を思いスラムを巡っていた。


 だが結局、目ぼしい物を見つける事が出来ず、諦めて帰ろうかと考え始めた時だった。 俺の目の前には寂れた酒場があった。その酒場を見た俺は、ここを最後にしよう、そう思った。酒場でも何の情報も無ければ諦めがつく。そう思った俺は早速酒場の中に入った。


 そして酒場に入ると、酒を飲んでいる二人組の男達がいた。日が暮れかかっているとはいえ、まだ外は明るいというのにこんな時間から酒を飲んでいる様だ。そして、俺の耳にはそんな男達の話声が聞こえてきた。


「おい、聞いたか?」

「何をだ?」

「知らねぇのか、何でもここにある奴隷商から一気に奴隷全員が脱走したらしいぜ?」

「奴隷全員って……、その奴隷商は大変なんじゃねぇか? 商品が全部なくなっちまったんだし」

「ああ、その奴隷商が奴隷全員の脱走を知った時、余りの衝撃で思わず気を失ったらしい」

「ウハハハハハ、そいつは傑作だな!!」


 男達が話しているのは他愛のない世間話だ。

 だが、それが奴隷商と奴隷の話だったからだろうか、俺にはその話が妙に気になった。

 俺は男達がいるテーブルの空いた席まで向かい、そこに座る。


「その話、もう少し詳しく聞かせてほしい」

「……何だ、おめぇ」

「さっきの話をもう少し聞きたいだけだ」

「じゃあ、こういう時にどうすればいいか、分かってるよな……?」

「ああ」


 こういう場での礼儀というモノは分かっている。男達に俺の奢りで酒を持ってくるように注文した。

 そして、男達は店主が持って来た酒を受け取ると上機嫌になった。


「おう、分かってるじゃねぇか。じゃあ、話してやる」


 そして男達は話し始めた。

 男達が言うには、このスラムに居を構える奴隷商が奴隷全員に逃げられたそうだ。

 奴隷商が寝る前には全員いたそうだが、起きた後に奴隷の様子を見に行った時には既に奴隷は全員いなくなっていたそうだ。

 だからこそ、夜中に脱走したのは間違いないとの事だ。そして、その奴隷商は商品がすべてなくなった事で途方に暮れているらしい。


「奴隷全員、か……」

 奴隷の脱走という話は聞かない訳ではない。実際、俺が奴隷だった頃にも脱走者がいた。まぁ、その殆どが結局再度捕まっていたが。だが、全員が同時に脱走となると途端に話を聞かなくなる。奴隷商にしてみれば奴隷は商品だ。それを逃がすような甘い環境にはしないはずだ。


「何でも、奴隷の首輪も全部外されていたらしい。奴隷たちがいた場所に残っていた、外されていた首輪も奴隷の数とぴったり一致していたそうだ」

「それは、また……」


 首輪が外されていたという事は、逃げた者達は既に奴隷から解放されているという事だ。首輪が外されていた以上、逃げた奴隷たちを追跡する手段は皆無だ。その奴隷に逃げられた奴隷商は間違いなく終わりだろう。


「そうそう、奴隷商といえばさ、俺の知り合いにも奴隷商がいるんだがよ。何でもそいつの所に大口の客が来たらしい。そんで、その客がそいつの所の奴隷を全部買い占めていったんだそうだ」

「買い占め!? そりゃあ、凄いな」

「ああ。売れたのは良いけどおかげで商品が無くなった、何て言ってやがった。あれが嬉しい悲鳴って奴だな」

「ハハハハ、違いねぇ」


 そう言って男達は笑っていた。


「一方は奴隷に逃げられて商売あがったり、もう一方は奴隷が全部売れて万々歳、両方とも奴隷がいなくなったのに、片方は成功、もう片方は破滅、世の中不思議なもんだなぁ」

「そうだな、その知り合いの奴隷商は商品が今回で全て売れて無くなったのを機に奴隷商売から手を引くらしいぞ。そんでもって、売れた金を元手に普通の商人に転向するんだそうだ」

「まぁ、何時までも奴隷商なんてリスキーな商売を続けるよりは、そっちの方がましなのは間違いがないからな」

「まずは、行商人でもやってみるんだそうだ。行商人をやりながら自分の店を構える場所を探すらしい」

「行商人、ねぇ。そう言えば行商人といえばさ……」


 そして、男達は別の話題へと移った。もうこの男達から聞く事は聞き終えた、そう判断した俺は席から立ち上がる。


「おう、もういいのか?」

「ああ」


 俺はテーブルの上に金貨を一枚置いた。今の俺は生活費にも困っていない。金貨一枚を渡した所で困る事は何もない。


「情報量の代わりだ。釣りはいらない」

「そうか、なら頂いておくか」

「マスター、エールを二杯!!」

「酒のつまみも追加で!!」

「あいよー」

「後は……」


 男達は俺の渡した金貨で再度注文し始めた。そんな男達を背に俺は酒場から立ち去った。




「…………」


 酒場から出た俺は少し考え込む。先程の話はありふれた世間話の一つだ。ただ、成功した奴隷商と破滅した奴隷商の話でしかない。

 だが、俺の頭の中で妙に引っかかるのだ。


「アリシアに話してみるか……」


 アリシアから聞いた話では聖騎士団の方針では魔人が出現したスラムを重点的に捜査するとの事だ。無論先ほど聞いた話もアリシアの耳には入っているだろう。

 だが、もしかしたら重要な情報では無いとして捨て置かれている可能性もある。

 アリシアが帰ってきたらこの話をしてみようと思いながら、俺は屋敷まで帰宅するのだった。

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