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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
71/128

71 消失

 深夜、俺はアリシアと共に王都にあるクリスチア大聖堂の前までいた。このクリスチア大聖堂はメルクリア王国内で教会が管轄している建物の中で最も古く、同時に最大級の物だ。実際、この大聖堂の大きさは王城と比較しても遜色がないだろう。

 このクリスチア大聖堂はメルクリア王国内で教会が活動するうえでの一大拠点にもなっている。この大聖堂には聖騎士が多数常駐しており、聖騎士は常にこの大聖堂の警護をしていた。

 しかし、この大聖堂には幾つもの秘密が隠されているのだとアリシアは語った。




 アリシアは大聖堂の入り口の扉の前に立つと、何処からか鍵の束を取り出し、その内の一本を大聖堂の扉の鍵穴に差し込む。そして、それを一気に回した。


 ――――カチッ


 鍵が回ると同時にそんな音が聞こえてくる。アリシアはそのまま大聖堂の扉を開いた。


「では、行きましょうか」


 アリシアは俺の方を向き、そう言った。俺はアリシアの元まで向かう。そして、俺達は揃って大聖堂の中に入るのだった。




「これは……」


 夜の大聖堂は開放されていない為、普通ではなかなか見る事は出来ない。だからこそ、目の前の光景は今まで見た事も無い様な物だった。

 正面から見える礼拝堂の奥のステンドグラスから月光が入り込んでいる。その月光は礼拝堂を照らし出しており、礼拝堂全体に神秘的な雰囲気が漂っていた。

 この大聖堂には昔に何度も来たことがあったがこんな光景を見るのは初めてだった。


「……………」


 俺は時間を忘れた様にこの光景に目を奪われていた。


 この時間には流石に人は居ない様で辺りは静寂に包まれており、音という音は俺達が発したもの以外は聞こえてこない。


「お兄様、行きましょうか」


 俺の隣にいるアリシアの声で俺はふと我に返る。

 そして、アリシアに案内されるまま、礼拝堂を抜け、関係者以外の立ち入りが禁止されている区画に入ったのだった。





「お兄様、こちらです」


 アリシアに案内され、俺達は大聖堂の奥のとある区画まで来ていた。そこはまるで石室を思わせる巨大な部屋だった。石室の奥には大きな石扉が見える。

 この石室は光が一切入ってこないが、光源として照明の魔道具が設置されている為、視界に困ることは無かった。

 アリシア曰く、この区画には教会内でも高位の人間しか立ち入りが許されない場所との事だった。同時にこの部屋には至る所に侵入者の排除の為の仕掛けが施されているらしい。これ程の仕掛け、全てはこの部屋の奥にあるとある物を守り抜くためだという。最終手段として、この石室ごと、崩壊させ侵入者を生き埋めにする仕掛けまであるそうだ。

 これ程の仕掛けを用意してまで守り抜くとある物、俺には薄々見当はついているが、正解はすぐに分かるだろう。

 俺は仕掛けを作動させないようにしながらも、この石室を色々と見渡していると、アリシアは石室の奥まで向かい、その石扉の前で何やら色々と手を動かしていた。そして、彼女が石扉から手を離すと、その石扉はズズズズッ、という音を立てながら横に動き出した。


「さて、ここからは地下になりますので慎重に参りましょう」


 俺達はその開いた石扉の先に立ち入った。その先にあったのは螺旋階段であった。両端、そして足元の両方とも石で出来ている。また、先程の石室と同じように一定間隔で配置された照明の魔道具のおかげで視界は良好だった。

 そして、螺旋階段を降り続ける事、数分が経過した時、やっと螺旋階段の終わりが見えた。階段を降りきると、そこにあったのはドーム状の地下空洞だった。だが、その空洞の殆どを占拠する様に荘厳な神殿が建てられていた。その神殿に俺は見覚えがあるどころの話ではなかった。これと同じ建物を俺は過去に二度見た記憶がある。そして、そのどれもが俺の記憶に強く印象に残っているものだった。


「ここが、このクリスチア大聖堂に隠された最高機密、七罪武具の内の一つが封印されている封印殿です」

「ここが……」


 封印殿を見るのは奈落、そしてあの時に行った異空間と合わせてこれで三度目だ。

 俺がどこに向かっているのか、薄々は見当がついていた。ここに着くまでの石室であれほどの仕掛けがあったのだ。封印殿に向かっているのだろうという事を想定するのは難しくは無い。

 一つ不思議なのは封印殿を見るのはこれで三度目だが、どれもわざわざ似せた様にそっくりな事だ。おかげでこの神殿を一目見ただけで、この建物が何なのかを知る事が出来るのは利点ともいえるが。だが、アリシアもその事については詳しくは知らなかった。文献を漁れば、答えがあるかもしれないとの事だったが、俺としては少し気になった程度だったので、そこまでするつもりも無く、結局その疑問はすぐに霧散し、次の瞬間には俺の頭の中から消えていた。


 因みに、アリシア曰く、クリスチア大聖堂こそがそもそも封印殿の存在を隠匿する為に、わざわざ作られた物との事だった。封印殿を地下に作りその上に蓋をする様に大聖堂を作る。そして、その大聖堂を教会の拠点として運用し、聖騎士を常駐させることで、その聖騎士を封印殿を守る為の戦力としても使おうというのが最初に考え出された事らしい。




 封印殿の入り口は固く閉ざされていた。だが、アリシアが先程の石扉と同じく、封印殿の入り口の扉に手を向ける。


「私、神聖騎士アリシア・エレインの名においてこの扉の開放を」


 アリシアが入り口の扉に手をかざしながらそう言うと、次の瞬間にはその扉が幻か何かの様に消え去り奥に続く道が見える様になっていた。


「ではお兄様、行きましょう」


 そして、俺達は封印殿の中に立ち入る。

 因みに、前回の封印殿であった転移陣の仕掛けは今回は無いそうだ。あれは侵入者を排除する為の仕掛けだが、神聖騎士であるアリシアと共にいる為に侵入者とは見なされないとの事だ。あくまで、神聖騎士とその同伴者が入ったという判定になるらしい。


 そこからは前回までと同様だ。最奥、七罪武具が封印されている祭壇まで向かう。アリシアは今迄にも、祭壇まで行ったことがあるらしいので、俺は進むアリシアの後をついていくだけだった。




「ここが」

「ええ、この奥に七罪武具が封印されている祭壇がある筈です」


 俺達の目の前には大きな扉があった。アリシアはこの奥に七罪武具が封印されている祭壇があるという。


「……では、開けますね」


 アリシアはそう言うと、祭壇がある場所まで繋がる扉を開けた。そして、俺達はその扉の奥へと歩を進める。

 だが、祭壇の目の前まで着いた時、そこに待っていた光景を見た俺達二人は揃って呆気にとられた様な表情を浮かべた。


「やはり、か……」

「そういう、事ですか……」


 そう、この祭壇には本来は封印された七罪武具がある筈だった。だが、俺達の目の前にある祭壇には封印されている筈の七罪武具は消失しており、祭壇は既に空になっていたのだった。

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