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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
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68 スラムの魔人

またまた遅れてすみませんでした。

その代わり今回は文字数が通常の倍近くになっております。

「まさか、魔人か!?」

「そうだ、俺は魔人として生まれ変わった!!」


 しかしこの男、こんな街中で魔力を解き放つなんて何を考えているのだ。こんな街中で魔力を使えば遅かれ早かれ聖騎士に気が付かれる。しかもここは一国の王都だ。当然この王都にいる聖騎士の数も質も国内随一だろう。

 この王都はそんな場所だというのに何も考えずに魔力を使うなんて普通の魔人ならそんな事をするなんてありえないだろう。


「俺はなお前らみたいなただの人間は卒業したんだ!!」


 そう言い切った目の前の男は手に魔力を集める。そして、やがてそれは一つの形を取る。そして、そこに現れたのは漆黒に染まった一本の槍だった。


「魔器か……」

「これが俺の力。あの人に貰った銘は魔槍エクリプスだ」

「くっ」


 相手は魔人、普通に考えれば俺も魔力を使うしかない。だが、こんな街中で魔力を使ってしまえば、この男に勝つことが出来たとしても、その後どうなるか分かった物ではない。

 だからこそ俺はこの戦いでは魔力を使えない。一瞬だけならば誤魔化しは効くかもしれない。だがそれ以上は不可能だ。


 そんな事を考えていると突如、奥から叫び声が上がった。


「うわああああああああああああああああ!!」


 魔力を感じたのだろう、目の前の男の後ろにいた無気力そうな男が叫び出し、逃げ出そうとしていた。


「そうだ、こいつの力を見せてやる」


 男はそう言うと、後ろを向き先程まで話していた無気力そうな男に向けて突如として魔槍を投擲した。


「あぐっ!!」


 投げられた魔槍は無気力そうな男の腹部を貫通していた。そして、腹部を貫通している魔槍から出る魔力が男を包み込んでいく。


「ギヤアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!」


 その男が魔力に包まれると急に叫び声を上げる。そして、男を包み込んでいた魔力は男の中へと浸透していき、同時に男の全身が変質、肥大化していく。それと同時に男の体表が赤く染まっていく。肥大化が特に顕著なのは四肢の筋肉だった。そして、男を包んでいた魔力が全て浸透し終え、その変質が収まるとそこには見覚えのある存在へと変化していた。


「何が……?」

「オーガか、それなりの奴になったな」


 先程まで間違いなく人間だったはずの男は、今は魔物、オーガに変わっていたのだ。


「どうだ、驚いただろう? これが、こいつの力だ。この魔槍は触れた相手を魔物に変える力を持ってるんだ。おまけにこの槍で魔物になった奴は全て俺が支配できるんだよ」


 男はどこか自分に酔ったかのような口調だった。


「素晴らしいだろう? これが魔人、お前ら人間を超えた存在の力だ」

「さっき魔物にした奴は知り合いじゃなかったのか……?」

「そうだ、だがあいつは俺の仲間になろうとしなかったからな。だから死んでもらった」


 男は笑いながらそう言った。


「ついでに言うなら、こいつの実験台には丁度よかったからな」


 そう言って何時の間にか男の手元に戻っていた魔槍をポンポンと叩いた。


「さぁ、今度はお前の番だ、行け!!」


 男がそう言うと後ろにいたオーガが突如襲い掛かってきた。


「グアアアアアアアアアアアァァァァァ!!」

「くっ!!」


 オーガの拳の一撃を俺は剣の腹で受け止める。


「お前の相手はオーガだけじゃねぇんだ!!」

「っ!!」

 

 俺はその槍を紙一重で回避する。しかし、この男の槍捌きは妙に拙い。先程短剣を使っていた事といいもしかして、槍を使い慣れていないのだろうか?


 そして、俺は先にオーガに対処するべきと考え、オーガに剣を振るった。


「っらあ!!」


 ――――キンッ!!


「だめかっ」


 俺の放った一撃はオーガに弾かれた。

 まさかこんなスラムで魔人や魔物と戦うなど、だれが思うだろうか。そんな準備もしていない。もし分かっていたなら、それなりの準備をしていただろう。せめて、剣に聖気を纏わせておけばどうにかなったかもしれない。



「おらおら、どうした!! 手も足も出ないか!!」

「くそっ」


 男は俺を挑発する様に何度も突きを放ってくる。槍の扱いは拙いながらも、その魔槍から放たれる一撃を無視する事は出来ない。

 槍が突き出される度、左右に、或いは後方に下がる事で何とか魔槍の直撃を避けている。

 そして、相手はこの男だけではない。


「グアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ」


 魔人程の脅威ではないとはいえオーガもいるのだ。しかも俺は魔力を使えない、こうなってくると間違いなくジリ貧になる。


(逃げるか……?)


 俺は一瞬そう考えた。しかし、逃げてもこのスラムに来たのは初めてだ。それに比べ、この男は間違いなくスラムの住人だ。土地勘のない俺がスラム内を逃げたとしても、スラムに詳しいだろうこの男に間違いなく追いつかれる。結局逃げるという選択肢は次の瞬間には俺の頭の中から消え去っていた。


 だが、思考を一瞬戦いから逸らしてしまった。男が意図したかは分からないが、思考の隙を突かれ、槍を放たれた。


「っ、しまったっ!!」


 ここまで槍が近づけば避ける事は出来ない。剣で受けるしかない、そう考えた俺は魔槍の突きを剣の腹で受けとめようとした。だが、それがいけなかったのだろう。


 ――――バキンッ


「っ!! なっ!?」


 魔槍の突きを剣の腹で受け止めたが、その瞬間剣身に罅が入り次の瞬間には粉々に砕け散ってしまった。俺が今持っているのはある意味何の力も持っていない只の剣だ。しかも、聖気を纏ってすらいない。そんな剣で魔槍の一撃を受け止めるのは流石に無理があったのかもしれない。


「もらったあっ!!」


 俺の剣が折れたのを好機と思ったのだろう、男は俺の隙を突くように再び槍を突き出してきた。

 だが、俺は無意識の内に突き出された魔槍を左手で掴んだ。


「いつっっっ!!」


 槍の突きを左手で受け止めたのだ、俺の左手には大きな穴が開いた。

 それを見た男は一瞬だけ驚き、その直後には高笑いをあげていた。


「ハ、ハハハハ!! お前もこの槍に触れたな!! 聖騎士でもないお前がこの槍に触れた以上、俺の魔力がお前を侵食し魔物化する。そして俺の支配下にはいるんだよ!!」


 魔槍の持つ魔力が俺の体に侵食しようとしてくる。だが、その程度の魔力が入ってきた所でそれに侵食されるほど今の俺はやわではないのだ。侵入してきた魔力は既に俺の持つ魔力にかき消されており、既に体内に男の魔力は残っていなかった。


「な、何故だ……。何故魔物化しない……」


 魔物化の兆候すら見えない事に驚愕しているのだろう。男は槍を自らの元に引き戻す事すら忘れている。槍の穂先を俺が掴んでいるので、槍を動かそうにも動かす事もままならないだろうが。


 そして、この至近距離だ。ここだ、ここしかない。

 そう判断した俺は手に持った剣を捨て、七罪剣を一瞬にして右手に具現化した


「もらったっ!!」


 そして、左手で魔槍を掴んだまま右手に持った七罪剣で男に目掛けて袈裟斬り、


「かはっ!!」


 その直後すぐさま具現化を解いた。一瞬だけなら魔力を、七罪剣を使ったとしても男の放っていた魔力に紛れることが出来ると考えたのだ。そして、俺は聖騎士ではない以上、魔人であるこの男に対抗する為にはこれしかなかった。

 

 男は立ってはいるが既にフラフラだ。肩から腰に掛けて大きな傷が出来ている。更には口から血を吐き出している。普通の魔人が、七罪武具での一撃を食らったのだ。先程の一撃は間違いなく致命傷になっているだろう。今にも倒れそうだったが、男はそんな状態で口を開いた。


「その力、俺と同類かよ……。しかもその魔力、あの人にも匹敵してやがる。くそがっ、俺はなんて奴に喧嘩を売っちまったんだ……」


 その言葉を最後に男は倒れそのまま息を引き取った。


「はぁ、はぁ……」


 魔力や七罪武具を使わず魔人の相手をするのは面倒極まりなかった。俺は先程手放した剣を拾い上げた。折角持って来た剣も剣身は折れ、柄だけが残っていた状態だった。


「いつつっ……」


 左手にも槍を受け止めた時に穴が開いている。今の俺なら普通の人間よりも数段早く治るだろうが、それでも暫くはこのままだろう。


「アリシアが帰ってきたら治してもらうか……」


 アリシアがあの時に使っていた回天剣、あの剣があれば俺の左手に開いた穴も早く治るかもしれない。


「グアァァァァァ」


 そんな事を考えていた時、オーガのそんな唸り声が聞こえてきた。魔人の事で手一杯で、オーガの事を忘れていた。俺は慌ててオーガの声の方を向く。


「これ、は……」


 男が息を引き取ると同時にオーガも塵の様なものへと変化し消滅していく。男が倒れた事で、男によって生み出されたオーガも消滅したのだろうか?


 しかし、今日は王都巡りをしていたはずなのに、何故こんなスラムで魔人と戦うという事態になるのか、さっぱり分からなかった。


「ともかくだ、これで、やっと……」


 面倒ごとに巻き込まれたがやっと帰る事が出来る、そう思った時だった。


「この辺りです!! この辺りから魔力を感じます!!」

「っ!!」


 遠くから足音と共にそんな言葉が聞こえてきた。しかも足音は段々と大きくなってきている。聞こえてきた『魔力』という言葉、間違いなくここに向かってきているのだろう。この辺りを巡回している聖騎士の可能性もある。


「逃げないと……」


 この状況を聖騎士に見つかれば面倒な事になると判断した俺はすぐさまここから逃げる事にした。

 そして、俺は聖騎士達に見つかる前にこの現場から立ち去る事に成功しそのまま無事屋敷に帰る事が出来たのであった。

今後も一応、二日に一度という形にさせていただきますが、それでも遅れる場合、今後は活動報告にその旨を告知するようにします。

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