67 スラム
二日に一回更新とか言っておきながら間に合いませんでした……。
スラム、王都の極一カ所だけに存在するその場所には王都でのあぶれ者、或いは落伍者達が最終的に行きつく場所だった。王都の表側を光とするならここスラムはその影と言ってもいいだろう。
国もこの場所を排除しようと本腰を入れて対策を打ち出したり、時には武力を使っての強制排除を行ってきたがそれでもこのスラムはこの場所に存在し続けた。
スラムには独自の権力構造も存在し、スラムを隠れ蓑としている犯罪組織が実質このスラムを支配しているのだ。
「ここは、スラム、か……?」
どうやら、俺は道に迷った結果スラムに入り込んでしまったらしい。流石にここに来るのは初めてだ。
そもそも、このスラムは普通の人間ならほとんど関わることは無いと言ってもいい。嘗ては家族に疎まれ続けた俺だが、それでも流石にスラムに関わる様な事は無かった。
だが、既に日も落ちかけているのだ。早くこの場所から移動して屋敷に戻らないと。
そう思った俺は、早速このスラムを抜けるべく移動を開始した。
スラムから抜け出す為に手当たり次第進む事、一時間程度が経った頃だった。
「あっ!!」
やっと覚えのある場所が見えた。俺は思わず駆けだしそうになる。
だが、そんな時だった。俺の進もうとしている先には妙には気のある男と無気力そうな男の二人が立ち塞がる様に立っていた。この先は細い路地の為、彼等に通してもらわねば、この先に進む事が出来ない。
スラムの人間に関わっても良い事は皆無なので極力関わりたくはないが、他の道を使おうにもそれで迷ってしまったら本末転倒だ。俺は彼等に通してもらうように話すため彼等に近づいていく。
しかし、その立ち塞がるようにしている二人は何やら会話をしている様で、近づくにつれその話声が俺の方にも聞こえてきたのだ。
「なぁ、お前もあの人に会ってみれば分かるって」
「はぁ?」
「あの人は俺に力をくれたんだ。この力があればこんなごみ溜めを抜け出せる、それどころかこの国を俺達の都合の良い様に変える事だってできるんだよ!!」
「力? お前、まだそんな事言ってるのかよ。それにな、俺達はここが性に合ってるのさ。それなのに分不相応な力は、いつかお前の身を滅ぼすぞ? 甘い言葉に乗せられて破滅した奴を俺達はどれだけ見てきたと思ってるんだ?」
「いや、だけどな、今回は違うんだよ」
「お前からそんな言葉を二度と聞きたくない。もう帰ってくれ」
「…………もういい、分かった。お前には二度とこの話をしない。折角俺がここから抜け出せる方法を教えてやろうと思ってるのに、それを聞こうとしないなんてな。後から後悔しても遅いからな!!」
そう言うとその妙に覇気のある男は突如として踵を返し歩き出そうとした。
――――ドンっ!!
「「痛っ!!!」」
だが、男達の至近距離まで来ていた俺は、突如として踵を返した男と顔面から衝突してしまった。
「痛ってぇな!! ちゃんと前見て歩け!!」
男はそんな言葉を叫びながら俺の方を向いた。そして、男は俺の腰にある剣を見るとニヤリと笑った。
「おい、お前。その腰の剣、高そうだな。慰謝料代わりだ、そいつを俺によこしな」
「……断る」
俺がそう言うと男の表情に苛立ちが浮かんだ。俺が拒絶した事に苛立っているのだろう。
「もう一度だけ言ってやる。その剣を俺によこしな」
「……嫌だ」
「そうかい、なら少し痛い目を見てもらおうか!!」
そう言うと男は懐から短剣を取り出し、俺に斬りかかってきた。
「くっ」
咄嗟の事だったが、体を逸らし何とか短剣の一撃を回避した。そのまま後ろに飛び退く。俺が飛び退くと男は「ちっ」っと舌打ちをする。
騒ぎが大きくになれば警備兵が駆けつけてくるだろう。だが、先に攻撃してきたのは向こうだ。しかも、今の俺には公爵家の家紋もある。戦っている相手はスラムの住人だ。これを見せれば俺の訴えは間違いなく通り、正当防衛が認められるだろう。
そう考えた俺は腰の剣を抜き、目の前の男に向けて剣を構える。
護身用としてこの剣を持ってきてよかった、と思ったがよく考えればこの剣を持っていたからこんな事態になっているのだと思うとなんだか複雑な気分になった。
確かにこの剣は公爵家の倉庫に眠っていたものだが、あくまで骨董品程度の価値しかない。一応、鞘の方に少しばかり装飾品が付いている。恐らくこの男は鞘の方を見て剣も価値のある物と判断したのだろうか?
「おいっ、こんな所で何やってるんだよ。騒ぎにでもなれば兵士が飛んでくるぞ」
「うるせえ!! こうなったら意地でもこいつからあの剣を奪ってやる!!」
目の前の男は後ろの無気力そうな男と言い争っている。しかも、後ろの男の忠告を全く聞いていない様だ。
「痛い目を見ればそいつを渡す気になるだろう」
そう言うと男は再び斬りかかってきた。俺は男が振るった短剣を構えた剣で受け止める。
魔力は使っていない、だがそれでも今の俺の身体能力は並の聖騎士を上回るだろう。その腕力があれば男が持つ短剣を弾き飛ばす事も難しくは無い。
「はあっ!!」
そして、俺は力を込め男の短剣を弾き飛ばし、その勢いのまま顔に目掛けて突きを放った。
「くそっ!!」
男は顔を逸らして突きを回避したが完全に回避は出来なかった様で男の頬に一筋の傷跡が出来た。だが、男の持っていた剣は弾き飛ばした、もう斬りかかられる事は無いだろう。そう思って安心した時だった。
男の顔が屈辱に染まったような表情を浮かべる。
「てめぇ、よくもやってくれたな!!」
そう叫んだ目の前の男の顔は何かを決意したかの表情に変わる。その直後、その男の体から突然俺に良く覚えのある力が溢れ出したのだ。
「なっ!?」
あり得ない!! 俺は思わずそう叫びたくなった。
目の前の男から放たれているのは間違いない、魔力だ。この男は間違いなく魔人だったのだ。




