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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
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66 王都巡り

 アリシアが教会本部から帰ってくるまでまだ時間があるだろう。俺は今日、一人で王都を巡る事にしていた。

 俺は今日は軽装をして護身用の武器として剣を一本腰に挿している。


 今俺が持っている剣は公爵邸の倉庫で見つけた物だ。それも、この剣はラダスの街にいた時に俺が使い、オークキングとの戦いで魔力を注いだ事で壊してしまったあの剣にそっくりな代物だったのだ。長年放置されていただけあって、この剣に込められていたであろう聖気は既に無くなっていた。

 因みにこの剣、倉庫の一角で埃を被っていた。どうやら、かなり昔からあった様で骨董品の様な扱いだった為、廃棄もされずただ倉庫の中に埋もれていたとの事だった。

 俺はこの剣を一目見た時、持って行こうと決めていた。


 しかし、こんな今の俺にしてみればある意味只の剣といってもいいような武器よりはるかに優れた七罪武具がある。だが、それでもこの剣を所持しているのには理由があった。


 そもそも、七罪武具なんていう代物をこんな街中でおいそれと使う訳にはいかないのだ。

 屋敷で使った時はすぐ傍に聖気を解放していたアリシアがいたおかげで俺の魔力の気配はアリシアの聖気に紛れて周囲に漏れる事は無かった。だが、そのアリシアは今はいない。

 もしこんな所で魔力を使えばどうなるかなど余程の馬鹿以外なら簡単に想像がつく。まぁ、そもそもここは一国の王都なのだ。こんな場所で七罪武具を使う事態に陥るとは思えないが。

 それでも、あくまで一応、護身用にという訳で公爵邸の倉庫から引っ張り出してきたのだ。

 そんな武器を片手に俺は王都巡りを始めるのだった。




「懐かしいな……」


 王都巡りの最初の場所として俺が来ていたのは数年前、追放される前まで通っていた王立学園だった。ここでは辛い事も多かったが、それでも数年振りに来てみれば懐かしさの方が勝っていた。

 時間的には既に帰宅時だ。これから学園を出て帰ろうとしている生徒たちがちらほらと見えた。だが、その生徒達は俺には見覚えのない者ばかりだ。


「当たり前、か」


 俺がこの学園にいたのは数年前だ。俺がいた頃に学園の生徒だった者は既に卒業しているだろう。

 そして、昔の癖でついつい学園に向けて足を踏み出そうとした時だった。


「ちょっと、そこの君!!」


 そう言って声を掛けてきたのは学園の入り口に立つ守衛の人間だった。


「……俺の事ですか?」

「そうだ。見かけない顔だね、この学園に何か用かな?」

「い、いえ、特には……」

「そうか。なら、ここから早く立ち去るといい。何の許可も無くそんな武器を持ったまま学園の近くをうろうろとすれば不審人物として捕縛されかねない」

「あっ……」


 そうだ、ここは貴族の子息子女も通う場所だ。そんな場所の入り口に武器を腰に挿したままの男がいるとなればどう見られるかは言うまでもなかった。


「分かりました。ありがとうございます」


 そして、俺は守衛の人間の言葉に従い学園から離れるのだった。




 学園から離れた後、俺はそれからも数年前の記憶を思い返すように王都を巡った。学園の実習に使うための道具を買うためによく通っていた道具屋、昔に俺が使っていた剣を整備してもらっていた鍛冶屋、その他王都でよく行っていた店を巡っていた。たまに俺の事を覚えてくれていた店主もいたりして昔の話で盛り上がったりしていた。




「……しまった、道に迷った……」


 王都の昔使っていた店をあらかた巡り終えた後、そろそろ帰ろうかと思った時だった。いくら昔はよく通ったからといっても数年前の記憶だ。流石に俺の記憶の所々におぼろげな部分があった。俺の記憶がそんな状態だというのに、昔使っていたからといって表通りから外れた道を近道と言って通ったのがいけなかったのだろう、道に迷ってしまったのだ。そろそろ日も落ちかけてきている。出来るだけ早く俺の知っている場所に行きたい。そう思いながらも俺は目の前の道を道なりに進んで行くのだった。




 道を進んだ先、開けた場所に出ると、そこには明らかに身なりの整っていない浮浪者で溢れかえっていた。この場所そのものが明らかに不衛生な場所なのだろう、至る所にハエが飛んでいる。

 更に、浮浪者の中には指が一本欠損している者、片目が閉じられていてそこに大きな傷跡が残っている者、指どころか腕一本が欠損している者等、普通に生活するうえで大きな障害を抱えた者が少なくない数いた。

 他にも、満足に食事も得られていないのであろう、体全体の肉がやせ細り、骨が浮き出ている様なボロ外套を着た老人もよく見うけられた。

 俺はこの場所に心当たりがあった。ここに来た事は無い、だがこの王都の一か所にだけそういう場所があると聞いた事があった。


「ここは、スラムか……?」


 俺は道に迷った結果、いつの間にかこの王都に唯一あるスラム街へと迷い込んでしまったのだった。

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