64 神聖騎士
今回出てきたキャラを作るのに手間取ってしまい昨日は更新できませんでした……。
その代わり今回は文字数は多めになっております。
教会の本部があるアステル教国。教国の名が示す通りこの国は教会が統治している。それ故にここには教会の本部が置かれているのだ。
アステル教国の中心にあるアステリア神聖大聖堂、この大聖堂は教会の総本山でもある。そして、このアステリア神聖大聖堂は古の時代に作られたものであり、幾度も補修や改修が行われてはいるが、それでもこの世で最も古い建築物と言ってもいい。
また、この大聖堂の大きさは一国の城と比較しても遜色がない程の規模であった。事実、この大聖堂は非常事態に教会の信徒たちの避難場所としての役割も備わっていた。
その大聖堂の前に一台の馬車が到着した。その馬車から降りたのは金色に輝く髪が目を引くドレスアーマーを着た少女、神聖騎士のアリシアだった。
「アリシア様、ようこそいらっしゃいました!!」
アリシアを出迎えた女神官達は彼女を尊敬の目で見つめている。神聖騎士という存在は教会の象徴でもあり、それと同時に教会に所属する者にとっても憧れ、或いは崇拝する存在でもあるのだ。そして、その女神官の内の一人が代表しアリシアに声を掛けた。
「他の神聖騎士の方々は既に集まっております。アリシア様が最後になっております」
「そうですか」
「では、会議場までご案内いたします!!」
そして、先導する女神官に案内され、アリシアは大聖堂の中を進むのだった。
アリシアは女神官に案内されるままアステリア神聖大聖堂の入り口から入った所にある大礼拝堂から更に奥に進む。途中アリシアを見かけた教会の関係者は揃って彼女に頭を下げていた。
そして大聖堂の奥にある大会議場、女神官の案内によってアリシアがそこに辿り着いた後、大会議室への扉を一気に開けた。
「皆さん、お待たせしました」
アリシアはそう言うと、会議室の中に入りこの場を見渡す。そこにいたのは四人の女性達であった。
一人目はリリア・フォン・シルフィール、流れるような銀色の髪を持った女性であった。
彼女はシルフィール帝国の第一皇女である。
二人目はティアーナ・メルフィリア、水色の髪と目が特徴的な女性だった。
彼女は教皇の一人娘であり、『聖女』とも呼ばれている。
三人目は薄緑の髪と尖った耳が目を引く女性、マリアナ・フォン・エルフィーナ。
彼女は所謂エルフと呼ばれる人種とは異なる異種族と呼ばれる存在である。そして、彼女はそのエルフと呼ばれる存在が中心となって作られた国、エルフィーナ王国の第一王女でもあった。
四人目は赤い短髪が印象的な少女と呼んでも差し支えない見た目をした小柄な女性、ミリアム・クレイアル。
彼女もドワーフと呼ばれる異種族だ。そして、彼女もドワーフの国の王族であり末の姫でもあった。
彼女達は全員が教会の象徴、七天神具を所有している神聖騎士達だ。
アリシアはこの場にいる全員を見渡した後、空いている座席に座った。
「では、アリシアさんも到着したので早速始めましょうか」
「「「「はい」」」」
そして、ティアーナの一言から、神聖騎士五人による話し合いが始まった。
神聖騎士である彼女達が話し合う時に中心となって仕切るのは決まってティアーナだった。そして今回もその例に漏れず彼女が仕切り、アリシアに質問を投げかけた。
「アリシアさん、早速ですが今回の件の詳細をお話ししていただけますか?」
「分かりました」
そして、アリシアは事前に考えていた話を語り始めた。
ラダスの街での魔物討伐の指示を受けラダスの街に向かっていたが、途中封印殿への侵入者の存在を察知した。自分は自己判断で最優先目標をラダスから封印殿へと変更、異空間にある封印殿に繋がる空間の歪みがある場所に到達、自分の部下がその空間の歪みに聖気を注ぎ込み、アリシアだけが封印殿がある異空間に侵入した。
そして、封印殿の最奥まで向かい、そこでガイウスと名乗る神代の魔人と戦う。そして、戦いの末に相手に深手を負わせたが一瞬の隙を突かれ、結局逃亡を許してしまった。そして、自分は一刻も早くこの事態に対処する為に急いで帰ってきた。
それをできるだけ詳細に、偶に作り話をしながらも語った。
そして、アリシアの話が終わると、会議場内に重苦しい空気が流れる。
「非常にまずい事態になりましたね……」
この場にいるアリシア以外の神聖騎士の思いを代弁したのはティアーナだった。アリシア以外の神聖騎士は例外なく、焦る様な思いを抱いていた。
彼女達が焦るのも分からなくもない。奈落が消滅した時点で暗黒期の再来の可能性もあったのだ。
その上更に七罪武具が一つ流出。計三つが世に出た事になるのだ。暗黒期以上の事態になってもおかしくは無い。
「そのガイウスという神代の魔人、一刻も早く発見しなくては」
だが、彼女達はそれがどれ程困難な事かを知っていた。世の表側に出るならまだしも、世界の裏側に潜んだ魔人を見つけるのは至難の業だ。無論、簡単に諦めるわけにはいかない。彼女達も打てる手は全て打つが、それでも魔人が世の表側で活動しなければ見つける事すら出来ないのが実情だ。もし、簡単に見つけることが出来るのなら、既に魔人と呼ばれる存在は全てが討たれているだろう。
更にガイウスという魔人は、ラダスの街での惨劇の首謀者であるとの報告も上がっている。
彼女達にしてみれば、ガイウスという魔人は人工的に災害級の魔物を生み出せる技術を持っている可能性もあるのだ。そんな魔人が更に七罪武具を手に入れたとなれば、暗黒期の再来が目前に迫っていると言っても過言ではない。
そして、次にアリシアに向けて言葉を発したのはリリアだった。
「アリシアさん、奈落跡地で七罪武具は発見できなかったのですよね?」
「ええ」
「だとすると、計三つの七罪武具が世に出たと想定しなければなりませんね……」
こうなってくると暗黒期以上の事態となりかねない。他にも考えられるのが魔人達の抗争だ。一括りに魔人といってもその中には様々な派閥、組織がある事は既に確認されている。七罪武具を巡って魔人同士の抗争も勃発するだろう。そうなると、貴族や何も知らない庶民にまで被害が出てくる可能性すらあった。
更にガイウスという神代の魔人が確認された以上、他にも神代の魔人が存在している可能性は十分に考えられる。事実暗黒期と呼ばれる時代を齎したかの王の裏側には神代の魔人がいたという説もあるのだ。そんな神代の魔人が複数同時に動くとなれば、どれ程の被害が出るか、考えたくも無いというのが彼女達の本音であった。
だが結局、彼女達から有力な案が出ることは無かった。
「私達に出来るのは起こった事態に対処する事だけですか……」
マリアナが溜め息交じりにそう漏らすのも仕方がないだろう。だが、マリアナのその言葉が彼女達の結論を代弁していたのは間違いが無かった。
「最後にボクから一つ提案があります」
この会議も終わりを迎えていた時、そう言って手を挙げたのは、ミリアムだった。
「何でしょうか?」
「残る七罪武具の封印の再確認を提案したいと思います」
ミリアムの提案に他の神聖騎士達は、はっ、と息を飲んだ。
奈落どころか今迄所在すら不明だった封印すら壊されたのだ。残る四つも無事とは限らない。既に奈落が消滅した事を知った魔人達は、世に出た七罪武具を求めて活動が活発化しているのだ。更に一つが流出した事を知れば、残る四つも狙われるかもしれない。
残る四つは所在が確定しており、警備も厳重だ。それでも万が一という事もある。だからこそミリアムの提案を彼女達は頭ごなしに否定する事も出来なかった。
「分かりました。ではミリアムさんの提案に則り、七罪武具の封印の再確認を今後の最優先任務とします。異論はありませんね?」
そして、この場を仕切るティアーナのその言葉に誰もが首肯する。
その後は残る四つの七罪武具の封印の再確認、その任でどこを誰が行うかを話し合いながら決めていく。
「では、これでよろしいですね」
「「「「はい」」」」
「それでは、これで解散としましょう」
そして、その言葉を最後に彼女達は解散する事になったのだった。




