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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第三章 王都動乱編
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57 王都への門

 あの夜から更に時間は流れ、十数日が経過していた。

 山賊に襲われた後、到着した次の街でアリシアの持っていた金貨を元手にして、御者を雇った。

 だが、それ以降は特にアクシデントも無く、気が付けば俺達の旅路は目的地に差し掛かっていた。


「見えてきたな」


 俺達は王都の目の前まで来ていた。ここまで到着するのに十日近くかかってしまった。

 目の前の王都は記憶の中にある嘗ての王都とその姿は殆ど変化が無かった。王都が近づくにつれ、心なしか手が震える。この震えがどこから来るものなのか、俺には分からなかった。


「お兄様、大丈夫です」


 隣に座るアリシアは、そう言いながら、俺の手を握り締めてくれる。そうすると、不思議と手の震えが治まった。


「ありがとう、もう大丈夫だ」

「そ、そうですか……」


 名残惜しそうにアリシアは手を離す。少し恥ずかしくなった俺は思わず外を眺める。


「帰ってきたな……」


 俺は数年の時を経てこの王都へと戻ってきた事を改めて実感したのだった。




 王都の門では多数の人間が列を作っていた。その数は少なく見積もっても三桁は居るだろう。

 そんな人間を尻目に俺達の馬車は進んで行く。俺達が並んだのは貴族専用の門だ。普通ならこんな所には関わる事は無いだろうが、この馬車には公爵家令嬢であるアリシアが乗っている。ならば、ここに並んでも問題ないだろう。

 だが、そんな貴族専用の門への列に並んでいると辺り一帯に響く様な大声が聞こえてきた。


「何が規則だ!! 私は急いでいるのだ!!」

「で、ですが規則は規則ですので……」

「ですがも規則もクソもあるか!! 私はお前達とは違って忙しいのだ!!」


 大声で叫ぶ男のその言葉からはバカ貴族臭が漂っている。男の身なりだけは整っているが、貴族が良く言う品性、それは一欠片も無い。


「迷惑ですね……」

「そうだな……」


 そんな門の前で衛兵に向かって叫び続けている男に俺達は苛立ちを隠せなかった。


「……お兄様、少々お待ちください」


 アリシアはそう言うと馬車から降り、その男の方へ向かっていく。


「そこの貴方」

「ん? 何だ小娘」

「迷惑です。静かにしていただけませんか?」

「ボッチ伯爵家の当主たる私に口答えするつもりか? 良い度胸だな」


 このボッチ伯爵という男、間違いなく典型的なバカ貴族だ。伯爵家の当主が公爵令嬢、しかも神聖騎士でもあるアリシアにあんな口調で話すとは。


「そうだ、お前、気に入ったぞ。今夜私の相手をしろ」


 訂正、このボッチ伯爵、典型的な悪徳バカ貴族だ。言動からして、自分の領地でも恥じる事無く、初夜権とか言ってそうなタイプだ。

 このボッチ伯爵が自分の相手をしろと言った瞬間、アリシアから尋常ではない殺気が漏れ出していた。下手をすれば、俺と戦った時に匹敵、或いはそれ以上かもしれない。あの殺気をあのボッチ伯爵はよく耐えれるな、と感心したが、よく考えると単に殺気を感じられないだけかもしれない。

 だがアリシアは、ここで大きな騒ぎを起こすわけにはいかないと分かっているのだろう。ボッチ伯爵に斬りかかることは無かった。


 このボッチ伯爵と言う男、間違いなく権力を盾に、今迄はこういう言動を繰り返していたのだろう。だか、今回だけは相手が悪かった。

 アリシアは公爵令嬢、しかも神聖騎士としての立場もある。その二つを合わせれば、それこそ一国の王ですら無下にする事は出来ないのだ。

 そんな相手に本来なら、たかが伯爵家の当主が口答え出来る筈も無いのだ。挙句の果てにこの言動だ、これが知られれば取り潰しすらあるかもしれない。

 だが、ボッチ伯爵はそうとは知らず、アリシアに対し、失礼な発言を繰り返していく。

 

 アリシアはそんなボッチ伯爵を無視し、衛兵と少し会話した後、エレイン公爵家の家紋が入ったエンブレムを見せていた。


「おい、私を無視するな。どうせ、お前はどこかの弱小貴族の子女か何かだろう?」


 だが、ボッチ伯爵はアリシアが見せたエンブレムを横から覗き込んだ。


「この家紋、何処かで……」


 家紋を見たボッチ伯爵は頭を人差し指で突っつき、何とか思い出そうとしていた。

 少しすると、ボッチ伯爵の顔が焦る様な表情に変化した。アリシアの見せた家紋がどこのモノかを思い出したのだろう。額からは汗が止めどなく出ている。


「あ、ああ、あああ……」


 芋づる式に、アリシアの正体にも気が付いたのだろう、ボッチ伯爵は腰から力が抜けたのか尻餅をついている。更にアリシアから遠ざかろうと、後ずさっている。このまま次は失神でもするのではないだろうか? そう思えるぐらい、ボッチ伯爵の顔が真っ青になっていた。


「どうやら、答えに辿り着いたようですね」

「お、おおおお許しを、なにとぞ、お許しを!!」

「それで、私は今夜貴方の相手をしろ、との事でしたが」


 アリシアは皮肉がたっぷり入ったそんな言葉をボッチ伯爵に告げる。


「そ、それは……、それは、言葉の綾でして!!」


 言葉の綾で済ませられるとは思わないが……。アリシアも呆れている様で一度溜め息を零し、言葉を続けた。


「……はぁ、仕方がありません。私も急いでいるので、今回だけは見逃して差し上げます。お父様にも報告するつもりはありません。ですが、それも今回だけです。次に同じことがあったら……」

「わ、分かっております!! このような事は、二度と!! 二度といたしません!!」

「ならばよろしいです。今後はこのような事が無い様に。それと、この人の言う様に規則をしっかりと守ってください」

「は、はいっ!!!! も、申し訳ありませんでした!!!!」


 そして、ボッチ伯爵の謝罪の言葉を聞き終えたアリシアは踵を返し馬車に戻ってくる。因みに、ボッチ伯爵の顔は死体と評してもおかしくないぐらい硬直していた。


「あの男、顔が完全に死んでるな……」

「私達に迷惑をかけた罰です。あの人にはいい教訓になったかもしれませんね」


 まぁ、アリシアは実際殆ど何もしていない。あの男が勝手に自爆しただけだ。

 そんな死んだ顔をしたボッチ伯爵を横目に俺達の馬車は進んで行く。門の前では衛兵が敬礼をしており、俺達の乗った馬車を尊敬の目で見ていた。余程、あのボッチ伯爵に迷惑を掛けられていたのだろうか。

 因みに、結局揉めていた原因は何なのかをアリシアに聞くと、『ボッチ伯爵が大量に荷物を持ち込もうとした。その中に法に反する持ち込み禁止物品が無いかを衛兵が検査しようとしたが、ボッチ伯爵がその検査を、急いでいるから、という理由で拒否した』というのが発端だった様だ。


「なんと、まぁ……」


 そして、そんな事故に呆れながらも、俺達の乗った馬車はやっと王都の中に入ることが出来たのであった。

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