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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第二章 【謙譲の騎士】 アリシア・エレイン編
52/128

52 アリシアの大きすぎる変化

「んっ、ん、………………え?」


 おかしい、目を覚ますと、何故かアリシアの顔が目の前にある。


「アリ、シア……?」

「あっ!! お兄様、起きられましたか?」

「んんっ!?」


 俺は思わず声を詰まらせた。

 ……何故だろうか、今アリシアの口から一番あり得ない言葉が飛び出したような……。


「? お兄様、どうかなさいましたか?」

「……アリシア」

「はい?」

「もしかして、その『お兄様』と言うのは俺の事、なのか?」

「はい、それ以外には無いのですが?」

「……は?」


 全く意味が分からない。今迄、いやそれどころかまだあの屋敷にいた時ですらそんな呼ばれ方はした事等、一度も無かった。そう呼ばれるのは、歯に物が詰まった様な、妙な違和感がある。

 だが、その俺の様子にアリシアは何かを感じたのだろう、不安げな表情を浮かべていた。


「……もしかして、そう呼んではいけませんでしたか?」


 そう言いながらもアリシアの表情は更に曇っていた。


「い、いや、そんな事は……」


 俺がそう返すとアリシアはそんな曇った表情から一転、満面の笑みを浮かべながら


「そうですか!! では、これからもそうお呼びしますね!!」


 と、嬉しそうな声色でそう答えていた。

 コロコロと表情が変わるアリシアは妙に可愛らしかった。

 これがあのアリシアなのだろうか、別の誰かが変装しているのではないか。そう怪しんだりもしたが、そもそもここに来られる人間は限られている。その説を俺はすぐさま切り捨てた。


 それよりも、今、俺はどういった状況なのだろうか。俺は周りの様子を確認した。


「……え?」


 俺の頭は間違いなく座るアリシアの膝の上にあった。これは俗に言う膝枕というモノなのではないだろうか?

 というよりも、どうして俺はアリシアにその膝枕をされているのだろうか? 俺は慌ててアリシアの元から飛び起きた。


「あっ……」


 ……何故アリシアは残念そうな表情を浮かべているのだろうか? それに関しても意味が分からなかった。




 それからも俺とアリシアの間には、先程までお互いが相手を殺し合う様な戦いをしていたとは思えない程、穏やかな空気が流れていた。

 しばらくはアリシアと話していたが、その言葉には敵意の様な物は全く感じられなかった。寧ろ敬愛の念が籠っているような声色だ。

 だが、何がどうしてこうなったのか、アリシアに聞いても、肝心な所は、言葉を濁すだけだった。


 最初の方は俺の油断を誘う為の演技の可能性も考慮していた。俺の油断を誘い、隙を作って、その瞬間に致命の一撃を与える為の乾坤一擲の策の可能性もある。

 だが、あのアリシアが演技でこんな事をするとは思えない。

 もし、これが演技で、騙されていたのだとしたら、俺はアリシアにおとなしく殺されてもいいかもしれない、とすら半ば本気で考えていた。それ位、今のアリシアは前の彼女からは何もかもが変わっていたのだ。

 しかし、演技ではないとすると一体どうしてこうなったのか、経緯がさっぱりと分からない。直前まではお互い本気で殺し合ったのだ。だというのに、急にこんな風に変わられたらどう反応すればいいかわからない。

 しかも、当のアリシアからは敵意や殺気といった類の物も感じられない。それどころか俺に媚びる、いや、甘える様な表情を浮かべているのだ。

 だが、神聖騎士であるアリシアにとって、俺の存在は許容できない筈だ。実際、先程までアリシアが俺と戦った理由がまさにそれの筈だろう。


 その事をアリシアに聞くと


「もうお兄様と殺し合うつもりは二度とありませんから」


 という謎の返答が返ってきた。そう答えたアリシアの様子は真剣そのものだった。


 何がどうしてこうなったかは、結局の所、全く分からない。その事を聞いてもアリシアははぐらかすだけだ。唯一分かった事は、アリシアはもう俺と戦うつもりはない事だけだ。

 そして、俺はアリシアのその真剣な様子から、俺とは二度と殺し合うつもりはないという言葉を信じる事にしたのだった。




 あれから俺達は封印殿の入り口まで戻っていた。この異空間から脱出する為だ。


「じゃあ、アリシアに任せてもいいのか?」

「はい、私に全てをお任せくださいませ」


 アリシア曰く、この異空間と元の場所を繋ぐ空間の歪みをアリシアが率いてきた聖騎士達が聖気を注ぐことで、維持しているそうだ。だから俺が安易にそこから出ようとすると、間違いなくそこにいる聖騎士達に怪しまれる事になる。ここは今迄、所在すら知られていなかった封印殿だ。そんな場所へつながる道の先から、アリシア以外の人間が戻ってくるとなれば、その正体を推測するのは難しくは無い。

 だが、神聖騎士であるアリシアが指示を出し、向こうにいる聖騎士達を空間の歪みから引き離し、その隙に俺が空間の歪みを使えば、聖騎士に知られずに、元の場所に戻ることが出来るだろう。


 因みに俺がここまで来るのに使った転移陣を使用して一旦別行動をしよう、と俺はアリシアに提案していた。実際、俺としても別の脱出方法があるならそちらを選択してもよかった。ここに来てから、間違いなく数日以上は過ぎているだろう。その為、転移先である魔人の拠がどのような状況かが分からない。このまま転移した場合、そのまま生き埋め、或いは転移先で魔人に囲まれる、そんな可能性も十分に考えられるのだ。

 

 だが、俺がアリシアの使用した空間の歪みを使った場合、俺の存在が外にいる聖騎士に知られる可能性もある。それならば、まだ俺だけ転移陣を利用した方がいい。だからこそ、アリシアに一旦別行動がいいだろうと提案したとたん、彼女は首を横にブンブンと振るい、更には悲しそうな表情を浮かべていた。

 そして、アリシアと話し合った結果、彼女が先行し、この空間の歪みから聖騎士達を引き離す。そして、その隙に俺がそこから出るという結論に至ったのだ。


「では、先に行ってお兄様をお待ちしておりますね」

「分かった」


 そしてアリシアは先行して空間の歪みを越えて、この封印殿がある異空間から出ていくのだった。


次話で二章終了の予定です。

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