49 アリシアとの戦い 中編
しかし、一つ疑問があった。アリシアがもし追撃して来れば状況は今より不味かったはずだ。だが、実際は追撃は無かった。何故なのか。
ふとアリシアの様子が気になり、アリシアの方を見ると、何か、集中するようなそんな様子だった。
それで思い至る箇所が少しだけあった。
「そう、か……」
ただでさえ周りにある七本の剣と自身の持つ神剣、合わせれば八本の剣を同時に操るのだ。更にその上動かすだけならまだしも能力と併用するとなれば多大な集中力が必要なのは間違いがない。
だからこそ、アリシアは追撃の為に動こうとしなかった、いや動けなかったのだろう。
だが、それでも八が七になっただけだ。
状況はあまり変わっていない。
「行きます!!」
アリシアがそう言うと光剣たちは一気に動き出す。
そして、アリシアが動かなくなった代わりに、七本の剣を使った連撃はさらにその激しさを増していた。
「くっ」
「聖刃剣!!」
「っ!!」
また新しい剣か。そう思った矢先、突如として右足に切り傷が出来た。
「これ、は!!」
その後、今度は突如として左足にも切り傷が出来た。
だが、おかげでそのおおよその正体を掴むことが出来ていた。
「不可視の刃か!!」
恐らく、先程アリシアが叫んでいた聖刃剣は聖気で出来た不可視の刃を出す事が出来るのだろう。
威力自体はそこまでではない。だが、牽制として使うにはもってこいの業だ。
「くそっ!!」
このままではジリ貧だ。何か、手は、策は無いか。そう考えていた時だった。
「そうだっ」
もし、上手くいけばこの状況を打破できる。だが上手くいかなかったら、ただ無駄に魔力を使うだけになるだろう。
だが、この状況を打破する為にはこれしかない。
その為には時期を適切に見計らい、ここぞというタイミングで決めなければならなかった。
その時が来るまでひたすら耐える事を俺は選んだのだった。
アリシアは動かないがその分、俺の周りを飛ぶ光剣の軌道は複雑なものとなり、連携もさらに高レベル化していた。
だが、剣を弾き、或いは回避しながら、俺はひたすら時機を見計らっていた。ジリジリと追い詰められていく。まるで真綿で首を絞められている様だ。少しずつ、少しずつ追い詰められていく。
だが、遂にその時が来た。
「貰いました!!」
俺の前には転移剣が現れる。このタイミングでは回避しても間に合わない。運よく回避が出来たとしても、その後続の剣に当たってしまうだろう。だが、回避する必要が無い。俺はそれを待っていたのだから。
「『強欲の魔手』!!」
俺は『強欲の魔手』で目の前に現れた転移剣を掴んだ。
「っ!?」
そして、転移剣から無理矢理に転移の能力を奪う。本来、それは聖剣の能力だったが、『強欲の魔手』にありったけの魔力を込めた事で何とか奪うことが出来た。
更に本来は聖剣の能力であるが故に一回しか使うことが出来ないだろう。だが、それで十分だ。
奪った転移剣の能力を無理矢理に色欲刀に付与する。それと同時に掴んでいた光剣が消えた。
「行けっ!!」
色欲刀を投擲し、すぐさまアリシアの目の前に転移させた。
「あっ」
避ける事も防ぐ事も普通ならできただろう。
だが今のアリシアは光剣の制御に集中していた。制御に集中していたアリシアは一瞬反応が遅れた。
「あうっ!!」
アリシアは身を翻す事で胴体部に当たる事は避けたが、完全に避けきる事は出来なかった様で、色欲刀はアリシアの右腕に刺さっていた。
「くっ!!」
アリシアはすぐさま右腕に刺さったままの色欲刀を無理矢理抜こうとしていた。だが、魔力の塊ともいえる色欲刀に触れるという事は、炉で限界まで熱した鉄を素手で触ろうとするようなものだ。当然そうなれば、彼女の手が無事である筈も無い。
「ぐっ!!」
それでも、色欲刀が刺さったままの状態の方が彼女にとっては遥かにまずいのだろう。手に大量の聖気を纏いながら、歯を食いしばりながらも無理やりにでも色欲刀を右腕から抜き、それを放り捨てた。
「っ、回天剣!!」
その直後、アリシアがそう唱えると光剣の内の一つが光り輝きだした。そして、アリシアの右腕にあった傷が回復していく。
どうやら、あれは回復の能力を持った聖剣の様だ。
「失念、していました。【暴食】、だけではなく【強欲】も、持っていると想定するべき、でした。……ですが、どうやってその身に七罪武具を複数も取り込む事が出来るのでしょうか。限界を超えてもおかしくはないというのに……」
アリシアの後半の呟きは声が小さすぎて聞き取ることが出来なかった。
『強欲の魔手』にありったけの魔力を注ぎ込んだ事で俺の魔力も殆ど底を尽きかけている。
だが、アリシアも色欲刀をもろに受けたのだ。アリシアの方も聖気の底が近いだろう。彼女から感じる聖気も残り少なかった。
そして、この戦いは最終局面を迎えるのだった。
この中盤部分を書くのには、かなりの苦労がありました。
後半部分、戦いの終わりまでは既に書けていると言うのに、何故なんだろう……。
後、眠い目を擦りながら書いているのでおかしな点があるかもしれないですがどうかご容赦を