46 一方、その頃の彼女は
時は、カインが封印殿の最奥にある祭壇に辿り着く前後まで遡る。
「この辺りですか……」
今アリシアと彼女が率いる聖騎士達がいたのはラダスの街から、かなりの距離を離れた森の中だった。
「アリシア様、ここに一体何があるというのですか?」
事情をある程度把握しているアリシアとは違いこの場にいる聖騎士達は何も聞かされていない。ただ、ここに来るまでのアリシアの焦った様子から何か非常にまずい事態が起きている事は薄々理解していた。
アリシアは少し悩んだ後、口を開く。
「分かりました、ここまで来たのです、話しておきましょう」
そして、アリシアは話し始めた。
この先には七罪武具に一つが封印されている封印殿がある事、その封印殿に謎の侵入者が現れた事を感知した事、自分達は今その封印殿に向かっている事等だ。
「なっ!?」
その事を聞いたアリシアの周りにいる聖騎士達は騒然となる。
「で、ですが、七罪武具の封印はこんな場所には……」
当然、神聖騎士であるアリシアの直属の部隊に所属している彼等も優れた聖騎士である。
そんな彼等は教会の機密事項が記された文書もある程度閲覧が許されている。その閲覧が許されている物の中には七罪武具の封印がある場所が記されている物もあった。
だが、奈落を除けば、封印殿は五つ。その内四つは魔人であっても容易に手が出せない場所にあり、残りの一つはその所在も失われている、と彼等は知っている。
無論、神聖騎士でさえも、それは同じの筈だった、つい先日までは。
「いえ、大丈夫です。既に封印殿の場所は把握しています」
「それは一体どういう事でしょうか?」
「それについて詳しく説明している時間はありませんので、簡潔に言います。この辺りには空間の歪みがある筈です。その歪みの先には現在所在不明となっている封印殿に繋がっています」
「なっ!?」
「だからこそ、一刻も早くその空間の歪みを見つけなければなりません」
「はっ!!」
アリシアの言葉が確かなら、その所在不明の封印殿に侵入者が現れたのだろう。そして、アリシアが焦った様子で予定を変更したのが数日前だ。つまりその時点で封印殿に侵入者が現れたと推測できる。そう考えれば手遅れの可能性すらあった。
事態の深刻さを知った聖騎士達は急いで空間の歪みを探し始めるのだった。
「あった!! ありました!!」
森の何処からかそんな声が聞こえてくる。その声が聞こえた聖騎士達は、声の聞こえた方に向かった。
「これが……」
「ええ、間違いありません。この歪みの先に封印殿がある筈です」
アリシア達の目の前には小さな空間の歪みがあった。
ここにある空間の歪みは封印殿がある異空間とこの世界の接点と言うだけだ。人が通れる様なサイズではない。ここを人が通るには空間の歪みに大量のエネルギーを流し込み、空間の歪みを無理矢理広げるしかない。
だが、空間の歪みを人が一人通れる程に広げ、更にそれを維持するとなればこの場にいる聖騎士全員が聖気を流し続ける必要がった。そうしないと、この先に突入したとしても帰還できない可能性がある為だ。
結局、この空間の歪みの先にある封印殿にはアリシア単独で向かう事が決まった。
神聖騎士であるアリシアも空間の歪みに聖気を流し込めば、或いは数人程度ならアリシアに同行できるかもしれないが、この空間の歪みの先には七罪武具を手に入れたかもしれない何者かがいる可能性があるのだ。そんな相手がいるかもしれないのに、ここでアリシアを消耗させるわけにはいかなかった。
無論アリシアの直属の部隊に所属している彼等は、彼女を単独で送り出す事を苦々しく思っているが、それ以外に方法は無かった。彼等は早速空間の歪みを広げる準備を始めるのだった。
聖騎士達は空間の歪みがある場所を中心にして取り囲む。そして各々が自身の聖武具を具現化し、そのまま地面に突き刺す。その後、全員が一斉に空間の歪みに聖気を流し込んだ。
聖気が流れ込んだ空間の歪みは段々と大きくなっていき、人一人が通れるようなサイズになった。
「アリシア様!!」
「ええ、分かっています!!」
そして、そのままアリシアは空間の歪みの中へと入っていくのだった。
「っ!!」
封印殿がある異空間に到達した直後、アリシアは七罪武具の最後の封印が破壊されたのを感じた。
それと同時に封印殿の中から圧倒的な魔力を感じていた。それも、一つではなく二つもだ。
「急がなくてはなりませんね……」
封印殿の中から感じる二つの魔力は、七罪武具の魔力と侵入者の魔力のものだろう。もう時間が無い。アリシアは急いで封印殿の中へと入っていくのだった。
そして、封印殿の最奥にある祭壇に向かう為の螺旋階段で、アリシアは更なる異変を感じる。
「魔力が、消えた……?」
今まで感じていた二つの魔力、その内の一つが消えたのだ。
「まさか……」
もし、侵入者が七罪武具を取り込んだのだとしたら非常にまずい事態だ。
七罪武具を手に入れた侵入者をここから出すわけにはいかない。取り逃がせば暗黒期の再来の可能性が非常に高くなる。それだけは何としても止めなければならない、最悪、相打ちになってでも。
アリシアはそう決意するのだった。
そして、アリシアは祭壇がある場所まで到着した。だが、そこには先客がいた。その先客の髪は黒く染まっている。後ろを向いているので顔は分からないが、背丈から男だというのが分かった。
その男の持つ漆黒に染まった剣からは、圧倒的な魔力と存在感が感じられる。あの剣は間違いなく七罪武具だろう。
「そこにいるのは誰です!?」
アリシアは祭壇の目の前にいる男に向かってそう声を掛ける。その声に男はアリシアの方に振り向いた。
ここに、カインとアリシアの二人は数年の時を経て再会するのだった。




