45 【色欲】
何とか今日中には間に合いました。
見つけた階段は思いのほか長かった。階段を昇ると、そこはこれまたどこかで似たような光景が広がっていた。
「これって……」
この場所、奈落にあった七罪剣が封印されていた神殿の内部に似ている。
「という事は、ここは封印殿の内部か」
恐らくあの迷宮はこの封印殿の地下にある空間なのだろう。ここが封印殿なら、この場所の何処かに七罪武具を封印しているはずの祭壇がある筈だ。
七罪武具を封印しているはずの祭壇を見つけるべく、封印殿の中を俺は捜索するのだった。
「あった」
封印殿の奥、隠し扉の先にある螺旋階段を下った先、その場所も奈落で見た神殿そっくりだ。
そして、その奥には奈落で見たものと同じ祭壇がある。
「あそこに、三つ目の七罪武具があるのか」
間違いない、封印されていたからはっきりと感じる事が出来なかったが、この距離まで来たらはっきりと分かる。具現化しておらず、今は俺の内にある七罪剣が、あの祭壇にある物と共鳴している。
ここまで来たのだ、俺は七罪武具を手に入れるべく祭壇まで歩を進めるのだった、
「これが、三つ目の七罪武具……」
そこにあったのは、一本の剣だった。その剣は七罪剣と同じく、漆黒に染まっており、七罪剣にも匹敵しそうな程の存在感を放っている。
だが、七罪剣との違いもある。七罪剣は両刃で真っ直ぐな形状をしている。だが、この剣は片刃であり、反りがある。
「確か、刀、だったか?」
何かの本で読んだ事がある。確か、刀とは剣の一種で昔に使われていた武器だったか。刀は剣よりも斬撃に特化している武器だが、その製法は既に失われ、今は作ることが出来ないとその本には書いてあった。
ともかく、今の俺では、これに触れる事すら不可能だろう。俺と七罪武具の間は封印で仕切られており、もし何も考えずに触れようとすれば、奈落の時と同じ、或いはそれ以上の事になりかねない。だから、この封印を破壊しなければ話にならない。
俺は封印を破壊すべく七罪剣を具現化した。封印を破壊する方法は、奈落の時と同じだ。封印に綻びを作りそこから一気に破壊する。七罪武具であるこの七罪剣なら封印に綻びを作る事も出来るだろう。
俺は封印に綻びを作るべく、封印に向けて七罪剣を突き刺した。
「うぐぐぐぐぐぐっ!!!!」
流石は七罪武具の封印だ。綻びを作るのにも一苦労だ。綻びが少しできたと思ってもすぐに修復してしまう。更には、封印からの反発もあり俺の方も無傷とはいかない。だが、俺もそれに対抗すべく、七罪剣にも更に魔力を込める。
封印に七罪剣が触れているだけで、俺の魔力が目減りしていく。そこに、七罪剣にも魔力を込めているのだ。そろそろ、俺の魔力も底が見え始めている。だが、封印の為の聖気が少なくなってきたのだろう。段々と封印の綻びの再生の速度が遅くなっていく。そして、封印の綻びが復元しなくなった瞬間、【暴食】の力を解放する。
「喰らえ!!」
封印に完全に綻びが出来た瞬間に、【暴食】の力で封印、そして、それに使用していた聖気諸共全てを喰らって行く。
そして、それから少し経つと封印は完全に消え去っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
せっかく休憩して回復していた魔力もその殆どが持っていかれた。
だが、そのおかげで封印を完全に破壊することが出来た。
今なら、この刀の形状をしている七罪武具に干渉することが出来るだろう。
「これ、で……」
具現化したままの七罪剣を構え、目の前にある七罪武具に切先を向ける。そして、そのまま七罪武具に向けて勢いよく突き出した。
七罪剣の切先に触れると、それは刀の形から黒い霧の様な物に変化する。そして、その霧は七罪剣に取り込まれるようにして段々とその量を減らしていく。
「うっ、くっ!!」
それと同時に、自分の中に膨大な魔力が流れてくる。封印の破壊で消耗していた魔力も一気に補充される。果てには、それ以上の魔力が流れ込んで来ていた。
今、自分が内包している魔力は、間違いなく自分の許容量を遥かに超えている。だというのに限界を感じる事は全くなかった。
そして、その霧が消え完全に七罪武具を取り込んだと理解した時、俺の存在そのものが次の領域に進んだような、或いは自分の中にある空の器が一つ埋まったかのような、そんな奇妙な感覚を覚えた。
同時に、ここに封印されていた七罪武具に関しても、その正体が分かった。
「【色欲】、か」
ここに封印されていたのは【色欲】の銘を持つ七罪武具だった。そして、七罪剣がそれを取り込んだ事で、【色欲】の力の本質を俺は理解したのだ。
「この力は……」
【暴食】や【強欲】の力は取り込む事に特化していたが、【色欲】は精神の干渉に特化した能力の様だ。色々と応用ができそうな能力ではあった。
七罪武具を手に入れた以上、この封印殿にもう用は無い。そう思い、祭壇から踵を返そうとした時だった。
「そこにいるのは誰です!?」
そんな声が自分の後ろから聞こえてきた。俺は思わず声の方を向く。
そこにいたのはピンク色のドレスアーマーを着た、金色の髪をした小柄な年頃の一人の少女だった。




