42 迷宮
また間に合いませんでした。
「ここは、どこだ?」
封印殿の転移の罠にかかり、飛ばされた先は周りが壁に囲まれた場所であった。その正面だけが開いており、その先には道が遠くまで伸びている。
ここや正面に見える道の先、至る所に照明の魔道具が設置されており、視界に困る事も無い。
足元を見ると、そこにあった筈の転移陣は既に消えていた。あの転移陣は侵入者を排除する為の仕掛けなのだろうから、恐らく一方通行になっているのだろう。
「……ここは、迷宮、か?」
目の前の道も途中で枝分かれする様に、いくつも分岐している様だ。そう考えると分岐した先にも更に分岐があると考えてもおかしくは無い。そう考えるとここは侵入者を閉じ込める為の迷宮なのだろう。
だが、何処かに出口がある可能性もある。転移陣が誤作動した時の事、そもそもこの迷宮を作り上げた時の事を考えると、出口のない死の迷宮という構造にはなっていないかもしれない。
まぁ、出口を埋められている可能性もあるが、それならそれで出口の痕跡が残って居る筈、埋められたとしても、無理矢理にでも脱出口を作る方法を考えればいい。
この迷宮を脱出し、そして封印殿に封印されている筈の七罪武具を手に入れる。その目的に変わりはない。
「奈落の時を思い出すな……」
脱出できるはずという希望に一縷の望みを託して、全容が全く不明な場所を進み続ける。
それはまるで奈落の時の繰り返しの様に思えてきた。
だが、それはある意味では慣れている。それに、俺にはあの時と違い、力があるのだ。七罪剣を具現化し、この迷宮の探索を始めるのだった。
迷宮の探索の途中、幾つもの分岐を手当たり次第に探索していた先で普通の人間より一回り、いや二回り以上は大きい土人形の様な物が現れた。その土人形の正体がガイウスの記憶にあった。
「ゴーレムか!!」
ゴーレム、それは今では失われた技術である、錬金術といわれる技術によって作られた動く人形だ。動くと言っても、人間の様な思考は持たずただ命令を忠実に守るだけである。
ゴーレムを作ることが出来た時代では、よく拠点の守衛、そして侵入者の排除に使われていたらしい。
恐らくこのゴーレムも侵入者の排除を命令されているのだろう。
ゴーレムが此方の方を向くと、俺の方に襲い掛かってきたのだった。
ゴーレムの動きは思いのほか鈍重だった。腕を振り下し攻撃を仕掛けてくるが回避するのは容易い。
そして、ゴーレムが右腕を振り下してきた時、それを避け、そのままにゴーレムの右腕を切り落とす。
「はぁっ!!」
――――サシュ!!
ゴーレムの右腕を斬り飛ばしたが、余りにも手ごたえが無かった。まるで柔らかい土か泥でも斬ったみたいだ。
だがゴーレムが厄介なのはここからだった。
「な!?」
切り落とした筈の右腕が、砂へと変化し、ゴーレムの右腕の部分に集まっていく。そして、気が付くとゴーレムの右腕は何事も無かったかのように元に戻っていた。
ゴーレムを完全に倒すためには核を破壊しなければならない事は知っていたが、まさかこんな風に復元するとは思わなかった。
あのゴーレムが土人形の様な見た目をしている事、腕を斬り飛ばした時の柔らかい土を斬ったような感覚。
恐らくは、あのゴーレムを構成しているのは土なのだろう。土で構成されているのなら、あんな風に再生するのは納得だ。
「倒すためには、核を破壊するしかないのか……」
ゴーレムは核を中心とし、再生する事はガイウスの記憶から分かっている、だが、厄介な事に、ゴーレムの核は常にゴーレムの全身を移動しておりピンポイントで狙うのは難しい。
「ならっ!!」
全身を移動するゴーレムの核。その位置を簡単に特定する方法が俺の頭の中には浮かんでいた。
まず、俺は鈍重な動きをするゴーレムの攻撃を回避し懐に入る。
「しっ!!」
そして、そのままの勢いで右足を斬り飛ばした。当然右足が急になくなったゴーレムはバランスを崩す。そして、そのままの流れで左足も斬り飛ばした。両足を無くしたゴーレムはそのまま地面に倒れ込む。斬り飛ばした両足が砂と化し、ゴーレムに戻ろうとするが、再生する時間は与えるつもりはない。地面に倒れ込んだゴーレムの左腕、右腕、頭部と切り落としていき、その度に斬り落とした部分を蹴り飛ばし、再生するまでの時間を少しでも稼ぐ。
そうしていった結果、ゴーレムに残った部分は、胴体だけだった。
「これでっ!!」
俺がやろうとしているのは単純な事だ。
ゴーレムの核が全身を移動するなら、その体積そのものを減らせばいい。ゴーレムを小さくしていけば、いずれ核は移動できなくなる場所が無くなり袋小路になる。もし、斬り飛ばした部分に核があるなら、斬り飛ばした部分を中心に復元するはずなので、核の位置の特定も難しくは無い。
ゴーレムの復元機能が働いているのか、斬り飛ばした腕や足等が、砂となり胴体部分に集まってきているが、言い換えればそれは核が胴体部分にある事を俺に教えるようなものだ。
そして、胴体部分に核があるなら、その胴体をみじん切りにすればいい。そうすれば、いずれ核に命中するはずだ。俺は残った胴体部分を一振り、二振り、三振りと胴体をバラバラにするように何度も斬っていった。
――――サシュ、サシュ、サシュ、サシュ
そんなゴーレムの胴体を切り裂く音が何度か繰り返された時だった。
――――パリィン
突如、そんな音が鳴った。その音と共に今迄再生していようとしていたゴーレムの破片はピタリと動きを止めてしまう。
核を破壊できたのだろう。先程の音は核を破壊した時の音だったのだろうか。唯一形を保っていた胴体部分もサラサラと砂へと変化していく。そして、最終的に残ったのは、二つに分かれた指にも乗りそうな程小さい球体だけだった。
これがゴーレムの核だったのだろう。だが、破壊した以上は二度とゴーレムが再生することは無い。
ゴーレムの残骸を背に俺は再びこの迷宮の探索を続けるのだった。




