40 転移陣
一応、本日二話目になっております。
「はぁ、はぁ、うっ!!」
また頭痛だ。それと同時に記憶が流れ込んでくる。これも三度目だ、そろそろ慣れてきた。今度の記憶はグレアムの記憶の様だった。
「これは……」
ガイウスの時の記憶と違い、グレアムの記憶には計画の詳細が残っていた。
グレアムの記憶によると、この拠点には七罪武具の入手計画の要の一つとなる転移陣が設置されている様だ。
七罪武具が封印されている封印殿は暗黒期の動乱によって、封印殿そのものがこの世界とは少し位相がずれた異空間に転移してしまったらしい。その異空間にある封印殿に到達するには、特定座標にて空間の歪みを生成し異空間にある封印殿と経路を繋ぐか、或いは転移陣を使い異空間に転移するしか無い様だ。
だが、座標の特定はガイウス達には困難だったようで、転移陣を使用する方法を取ろうとしていたらしい。
「それにしても、危なかった……」
思い出すのは先程までの事。グレアムは強敵だった。力押しであっという間に劣勢に追い込まれた。グレアムがあそこまでの力を出せたのは、グレアムの記憶によれば魔力の消耗を度外視していた事が原因の様だが、それでも一気に追い詰められたのは間違いない。
力任せの者が後先を考えず、一時に全力を振るった典型例であったが、それ故に厄介であった。運よく『魂喰』が効いたからよかったものの、そうでなければ敗北は必至だったと言ってもいい。
現状、俺は『喰らう影』や、『強欲の魔手』、『魂喰』といったある意味、小手先の技と言ってもいい物しか持たない。
それでは、グレアムの様に力押しで来られた場合、どうしても対処が出来なくなってしまいがちだ。
新しい技を考えるか、それとも既存の技の熟練度を上げ、更には応用が出来る様になればいいのだが、それにはどうしてもそれに適した相手が必要だ。
七罪剣を使いながらも、模擬戦が出来る様な相手がいればいいが、そんな相手が都合良く居る筈も無い。
結局、実戦の中で技術を積み上げていくしかないのだと、俺は諦めるのだった。
新たに手に入れたグレアムの記憶を少しずつ精査しながら、この拠点の探索を続けていく。
グレアム、ガイウス両方の記憶を纏めると、この拠点の大体の構造が分かってきた。この拠点は、迷路の様な構造をしている。
何も知らない者がこの拠点に迷い込むと、脱出する事は難しいだろう。
そして、至る所に侵入者迎撃用の罠が仕掛けられている。
よく地下にこれ程の拠点を作り上げたな、と言う感想しか出てこなかった。ガイウスの組織の組織力には驚きを隠せなかった。
だが、俺はガイウスとグレアムの記憶から転移陣のある部屋までの通路を知っている。
そして、俺は記憶を頼りに迷うことなく転移陣の元まで向かう事が出来たのだった。
「これが、転移陣……」
ガイウス達の拠点の最奥、その部屋の中央には転移陣が描かれていた。転移陣は幾何学模様を描いており、転移陣の至る所に魔石が置かれている。この魔石が転移陣を作動させるための魔力元だろうか。
そういった知識が無い為、俺はこの転移陣の構造や内容は理解できない。ガイウスやグレアムの記憶から推測する程度の事しかできなかった。
しかし、あの時盗み聞きした内容だと、この転移陣は間違いなく使用できるはずだ。
だが、その転移陣よりその周りに魔力元として置かれている魔石に俺は目を惹かれた。
「この魔石……」
転移陣の魔力元として使われていた魔石に俺は見覚えがあった。俺はその魔石を手に取って確認する。
「やっぱり……」
普通なら形が似ているだけで済ませるだろう。だが、あの時の俺には分からなかったが今なら分かる。ここに置かれている魔石の一部は他と比べると魔力の質が明らかに高かった。
魔力の質が明らかに高い魔石、しかもその魔石に限って見覚えがある、そしてガイウス達の記憶からはこの魔石はラダスの街で商人から買い取ったという記憶があるとなれば答えに辿り着く事は難しくない。
ここに置かれている魔石の一部は、恐らく俺が奈落で手に入れ、そしてあの時ラダスの街の商人に売った魔石なのだろう。
ラダスで売った魔石が巡り巡って、こんな所で出会う事になるとは思ってもみなかった。そういう巡り合わせに驚きながらも、転移陣の中央まで向かう。
「後は……」
グレアムの記憶では、転移陣は使用者が転移陣の中央に立ち、最後に起爆剤代わりとして自分の魔力を流し込む事によって作動する様だ。
俺は転移陣の中央に立ちそのまま転移陣に魔力を流し込んだ。すると転移陣が光りだす。転移陣が作動し始めたのだろう。だが、転移自体には少しばかり時間が必要の様だった。
奈落で手に入れた魔石をここで見つけたからだろうか、転移までの空いた時間、俺の頭の中には奈落で、あの王を名乗る存在と出会った時の事を思い出していた。
奈落で七罪剣を見つけ、他の七罪武具の力を『奪い』『喰らう』事が出来ると説明された時には、奈落脱出で頭が埋め尽くされ、何の興味も湧かなかった。だというのに、こんな時になって、その七罪剣の力を使う事になるとは思ってもみなかった。
「はは……」
その事に失笑とも嘲笑とも判断が出来ない小さな笑い声をあげる。そして、複雑な気持ちになりながら、転移陣が完全に作動し、転移が行われるのだった。




