39 魔人グレアムとの戦い
間に合いませんでした……。
今日は一応もう一度更新する予定です。
関係者専用通路を進んで行くと、この裏カジノに入ってきた時と同じように、更に地下に通じる扉があった。
俺はその階段を下っていく。そして、階段の終着点が見えてくると、そこには更に扉があり、その中から何やら話し声が聞こえてきた。俺は、その扉に耳を当て会話の内容を盗み聞きする事にした。
「おかしい。主様がラダスの街で事を起こしてから、五日以上経つ。だというのに、主様は我らと合流するどころか、連絡の一つすら無い!!」
「グレアム様、ガイウス様に何かがあったのでは?」
今、名前で呼ばれていたグレアムと言う男は、確かガイウスの最も信頼している側近だと記憶にあった。グレアムのガイウスに対する忠誠心は組織の中でもずば抜けて高かったらしい。
「まさか、ガイウス様は聖騎士に討たれたのでは無いでしょうか?」
「馬鹿な!! 神代より、永い時を生きてきた魔人である主様がただの聖騎士程度に後れを取る筈がないだろう!!」
「そ、それはそうですが……」
「全ての準備は終えているのだ。だが、主様が来ない限り計画を最終段階に移行できん!!」
この声を聞く限り、グレアムという男は、主と崇めるガイウスが一向にここに来ない事に苛立ちを隠せない様だ。
「くそっ、転移陣の状態はどうなっている」
「今の所、正常です。何時でも稼働できるようにはしていますが、不安定な代物です。何時使えなくなるか……」
「……主様、一刻も早く来てくださらないと、最終段階を目前にして計画が台無しに―――」
そこで一旦言葉が止まった。
「っ!! そこの扉の裏側にいる者、出て来い!!」
そして、扉の向こう側からそんな言葉が大きく聞こえてきた。まさか、盗み聞きしていた事に気が付かれたのか?
「そこにいる事は分かっている。もう一度だけ言う、出て来い」
……この言葉は間違いなく俺に向けて言われているのだろう。もっと話を聞きたかったが、ばれた以上、仕方がない。渋々、扉を開けグレアムたちの前まで出る。
扉を開けた先は実験室な様相を呈しており、至る所に実験用の器具と思われる物が置かれている。部屋には実験用と思われるオークやオーガ、トロールといった魔物が数体いた。
この場にいる者は、執事を思わせる格好をした初老の男、そして、成人男性のような見た目をした男が五、六人だけだ。
だが見た目に騙されてはいけない。ガイウスの記憶が正しければ、この場にいる者全員が魔人の筈だ。
「……私も耄碌したものだ。まさか、これだけ近くに侵入者が居ながら辺りに気を配るまで、全く気が付かなったとは」
そう言いながら、執事の恰好をした男が、右手を頭に当て、首を振る。ガイウスの記憶では、確かこの男がグレアムの筈だ。
「グレアム様、この男をどうしましょう」
「無論、話を聞かれた以上、ここで処分するしかないだろう」
「「「はっ!!」」」
そして、グレアムの周りにいる魔人達は次々と魔器を具現化していく。周りの男達の魔器は、魔槍、魔斧、魔杖といった物であった。
グレアムも魔器を具現化した様で、その手には一つの剣が握られていた。どうやらグレアムの魔器はガイウスと同じく魔剣の様だ。
ならばと、俺も魔人達に対抗すべく七罪剣を具現化する。
七罪剣を具現化した事で、魔人達は警戒を強めた。普通の人間だと思っていた相手が自分と同類の相手だと分かったからだろう。
「それは……、まさか!! ハハハッ、ハハハハハハ!!」
だが、グレアムが俺の七罪剣を見たとたん大声で笑い出した。
「グレアム様?」
「そうか、そうか!! これは主様への良い貢ぎ物が手に入れられそうだ!!」
そう言いながら、グレアムは自分の配下の男達を次々と自分の魔器である魔剣で殺していく。
「グレアム、様。何故……?」
最後に殺された男はそう言いながら息絶えた。
「君達は私の一部となるのだ。誇りに思いたまえ。主様への貢物を手に入れる為の礎となれるのだから」
次に、グレアムは次に実験用の魔物数体全てを殺した。すると、グレアムの魔力がドンドン増していっている様に感じた。
「私は魔物を殺す事で、その相手の力の全てを一時的に取り込む事が出来る。それは魔人であっても変わらない。これだけの魔人を殺した私の力は一時的ではあっても、主様にも匹敵する!!」
その言葉は恐らく正しいのだろう。実際、今のグレアムから感じられる魔力は神代の魔人であったガイウスに匹敵している。
「君の魔力は確かに凄まじい。そして、君の持つ剣から感じられる恐ろしい程の魔力、間違いない、それは七罪武具だろう。その剣、主様に捧げていただこう!!」
「お断りだ!!」
そう言うと、俺達は互いに相手に向かって走り出し、斬り結んだ。
「ぐっ!! 重っ!!」
グレアムの一撃を受けた時、その一撃には信じられない程の重さがあった。魔力で腕力を強化しているのだろうか? 思わず少し後ろに下がってしまう。
「重い? そうだろうとも!!」
そう言いながら、連続で斬りかかってくる。その一撃を受け止める度、俺は受けきる事が出来ず、次第に少しずつ後ろに下がっていく。
「くっ!!」
反撃の機会を作ろうにも、攻撃の間隔が速すぎる。
「魔人だけではなくオークやオーガといった魔物の力も取り込んでいるのだ。それを魔力で更に強化している以上、そう簡単に君に受け止められる筈も無い!!」
「くそっ」
何とか隙を突き、前に踏み込み、一撃を当てようとするが、簡単にいなされてしまう。俺も魔力で強化を行っているが、そう言った技術はグレアムの方が上だろう。
しかも、恐らくグレアムは持てる魔力の全てを強化に使っている。一時的と言っていたから、いずれは限界が来るだろうが、そんなにすぐに限界が来るとも思えない。
――――キンッ、ガキィン!! ガキィン!!
そして、一歩進んでは、三歩下がるという状態が続き、やがて危機が訪れる。
――――ドンッ
少しずつ下がり続けた結果か、俺の背中がいつの間にか壁に当たっていた。いつの間にかそこまで下がらされていたのだろうか?
「とうとう追い詰めたぞ!! 主様!! 今貴方への貢物をご用意いたします!!」
「……それが届く事は叶う事は無いよ。ガイウスは俺が殺したから」
「は?」
俺の言葉にグレアムは身体を硬直させた。グレアムに何とか隙を作れないかと、苦し紛れに一言を放ったが思った以上に効果があった様だ。
硬直で動けなくなったグレアムに、俺は『魂喰』を乗せた突きの一撃を心臓目掛けて放った。
――――ザシュ!!
心臓目掛けて放たれた突きは見事命中した。グレアムの胸には俺の持つ七罪剣が綺麗に刺さっている。そして、一番の致命傷は魂へのダメージだ。グレアムの魂の大半を喰らった。
「ぐふっ!! ま、まさかこれは……」
「そうだ。ガイウスが使っていた『魂喰』だ」
その言葉でグレアムは俺がガイウスを殺したという言葉が真実と知ったのだろう。忌々し気にこちらを睨んできた。そして、俺がグレアムの胸から剣を抜くと、グレアムは数歩ほど後ろに下がり、そのまま地面に前のめりに倒れ込んだ。
「ぐっ!! 貴、様っ!! 貴、様はっ!!」
グレアムは地面に倒れ込んでいながらも、それでも忌々し気にこちらを睨んでくる。俺の呼び方も「君」から「貴様」に変わっている。だが、魂の大半を喰われたグレアムは起き上がるどころか、もう動く事もままならないだろう。言葉も途切れ途切れになっている。
「貴、様は、絶対に許さ、ない!! 呪って、やる!! 貴様を!! 必ず!! 呪って――――」
グレアムのその言葉は最後まで紡がれる事は無く、そしてグレアムは息絶えたのだった。




