37 カジノに入るための準備
山賊と遭遇してから暫くして、山を越え、やっとカルラの街へと到達することが出来た。
ラダスの時と同じく、この街に入る為の検査があったが、この街でもすんなりと入ることが出来た。俺は 別に手配されているわけでも無いからだ。目的地はこの街の貴族街に程近い所にあるカジノであった。
この街にある魔人の拠点は、高級カジノ。その裏にある非合法の行為が平然と行われている裏カジノ。その更に裏側にあるらしい。因みに高級カジノはガイウスの組織の資金源の一つにもなっている様だ。
俺は、ガイウスの記憶を辿り、カジノのすぐ近くまで来たが、そのカジノの前には警備の人間が配置されている。
だが、俺はラダスにあったガイウスが使っていた屋敷から、予めこのカジノの会員証は入手している。カジノの入り口まで向かい、会員証を警備の人間に見せた。
だが、会員証を見せたというのに警備の人間に止められてしまった。
「どうして入れないんだ!?」
俺が抗議する様にそう言うと警備の人間が複雑な顔して一言。
「お客様、その様な格好で当店に入るのはご遠慮いただいております」
「…………………………………あ、しまった」
警備の人間のその言葉で自分が今どんな状態かを思い出した。
山を越えて、この街に入って、そのままの勢いでここまで来てしまったのだ。当然服装もそれ相応に乱れている。服はかなりボロボロになっており、このままでは、カジノに入るには相応しくないだろう。
力ずくで入る事も出来なくはないが、こんな所で騒ぎを起こすのは面倒だ。手配されれば今後動きにくくなるのは間違いない。
仕方がないので、一旦退散し、身なりを整えて再びここに来ることにする。
高級カジノに入る為には、それなりの恰好が求められるだろう。その分、正装を準備するのにもそれなりの金額が必要になってくるだろう。
だが、今の俺にはこの街に来る途中に山賊のアジトで手に入れたお宝がある。この財宝を売ればかなりの金額になる。
高級カジノに入る為の正装を購入する位はできるだろう。
とりあえず、山賊のアジトで手に入れた財宝を売却する為に、この街にある商会に向かった。
「かなりの金額になったな……」
商会で売った財宝は相当な金額になった。これならカジノに入る為の正装を買うのには十分だろう。
また、商会でこの街一番の高級服飾店を紹介してもらい、紹介状も用意してもらった。これで、今の俺の様な汚い服装でも、門前払いされる事は無いだろう。
俺は早速、商会で紹介された高級服飾店まで向かう事にした。
商会で教えてもらった高級服飾店に到着すると、案の定、警備の人間に止められた。なので俺は、商会で貰った紹介状を見せる。
「紹介状をお持ちでしたか、申し訳ありませんでした」
警備の人間はそう謝罪の言葉を述べると、店内への道を開けてくれた。
「いらっしゃいませ」
俺に声を掛けてきた男の身なりは整っていた。恐らくこの男がここの店員なのだろう。高級店だけあって教育もちゃんとしているのだろう。礼儀も良かった。
「紹介状などはお持ちでしょうか」
「ああ」
そして、この店の前でしたように、この店員にも紹介状を見せた。店員は俺の渡した紹介状を一見すると、「ありがとうございます」と言い、そのまま俺に返却してきた。
「それで、どのような服がご入用でしょうか?」
「高級カジノに入る事が出来る位の服が欲しい」
「分かりました。では、採寸を行いますのでこちらにどうぞ」
そして、店員に案内されるまま、採寸をする為に別室に向かう事になった。
採寸部屋に到着すると、早速とばかりに、店員が俺の体の採寸を始めたのだった。
「これで採寸は終わりです。他に何かご希望はありますでしょうか?」
採寸が終わった後、店員がそう聞いてきた。どうやら、ある程度希望を聞いてくれる様だ。この店は貴族も使う様で、人によっては様々な注文がある。そう言った希望を予め聞いているとの事だった。折角なので一つ希望を言ってみた。
「……出来れば、急ぎで欲しい。最短でどのくらいで出来る?」
今は恐らくまだ、ガイウスが死んだ事はガイウスの部下達には知られていないだろうが、時間が経てばどうなるかは分からない。ガイウスの部下達が、ガイウスが死んだ事を知り、この街から七罪武具の資料を持ったまま逃げる可能性もあるからだ。そうなれば、手詰まりだ。だからこそ、極力早くカジノの中に入りたかった。
「……最短だと、明後日にはお渡しする事が出来ますね。その分、急ぎで仕上げますので追加料金をいただく事になりますが」
「……分かった」
「では、すべて合わせてこれぐらいの金額になります」
「……は?」
提示された金額は、山賊のアジトで手に入れた財宝を売却して手に入れたお金。その殆どを持っていかれる程だ。一瞬、思考が止まってしまった。
「お客様? どうなさいました?」
「い、いや」
店主のその言葉で、正気に戻り、慌てて提示された金額の全てを渡す。ちなみにこういう店は全額前金での支払いが原則だったりする。こういう知識は俺が追放される前、まだ公爵邸にいた時に学んだことだ。
「では、明後日には渡せるように手はずを整えますので」
「分かった」
そして、全ての手続きを終えた俺はこの店から出て行くのだった。




