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七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚  作者: YUU
第二章 【謙譲の騎士】 アリシア・エレイン編
35/128

35 神骸

色々あって主人公カインの故国の名前をシルフィール王国からメルクリア王国に変更します。

よくある初期設定の混在が原因です。

最終的にはシルフィールって名前は他の国にしたはずだったのですが……

 ラダスの街の惨劇、それはいち早く教会本部に通達されていた。

 そして、すぐさま聖騎士団の総長、教会の枢機卿といった教会幹部たちが招集され緊急会議が開かれていた。

 しかし、その緊急会議の場は混沌と化していた。


「一刻も早く部隊を送り込み、ラダスの街を奪還すべきだ!!」

「しかし、我々も人手がですね……」

「くそっ、どうしてこんな厄介な事件ばかり続くんだ!!」

「ラダスから逃げてきた住民たちの支援も考えなくてはならないな……」

「各国の軍に支援要請しては?」


 会議の場が荒れるのは仕方がないだろう。奈落消失から殆ど間を置かず、今回のラダスの街の惨劇だ。

 教会で対応しなくてはならない事が、一気に増えたのだ。

 だが、困った事に魔物に対処するはずの聖騎士団は現状人手不足に陥っている。

 世界の各地に潜んでいた魔人達の動きが活発化しているのだ。入手した情報によると、魔人達も奈落が消失したという情報を察知しているらしい。

 魔人達にしてみれば、七罪武具を入手する事は悲願であるのは、容易に想像がつく。

 かといって、現状所在が判明しており、強固に封印されている四つに手を出すのは難しく、最後の一つは暗黒期の動乱によって、封印場所の情報を含めその殆どが失われた。

 だからこそ、奈落消失に伴い世に出る筈の二つを魔人達が捜索しているのだろう。

 そんな動きを見せる魔人の対処に追われ、聖騎士団も慌ただしく動いており、人手が足りない状態が続いているのだ。

 更に、ラダスの街に派遣していた聖騎士の殆どが帰還しなかったことが、人手不足に拍車をかけていた。

 かといって、このままラダスの街を放置すれば、教会が叩かれるのは目に見えている。


「ラダスに集中しようとすれば、魔人達への警戒が薄くなってしまう。かと言ってその逆もまた……、と言った所ですか。全く、面倒な事ですな」


 そんな時、唐突に会議室の扉が開かれ、一人の男が現れる。その男は急いだ様子で聖騎士団の総長の元に駆け寄り、耳打ちをした。

 その男の話を聞いた総長は、驚愕で目を見開いたが、すぐに冷静になり、会議室の全員に情報共有をする。


「たった今新しい情報が入った。ラダスから帰還した聖騎士が目を覚ましたそうだ。その者の情報によると、ラダスでは三体の災害級の魔物、そして神代の魔人が現れたそうだ」


 神代の魔人、その言葉にこの会議場は騒然となった。


「馬鹿な!?」

「嘘だろう!?」


 そんな言葉が会議室の至る所から聞こえてきたが、総長が「皆、冷静になれ!!」と叫ぶと、会議室が一気に静まり返った。

 そして、その空気のまま会議が再開する。


「それは事実なのか?」

「魔人本人が普通の魔人とは年季が違うと言っていたそうです。実際相対した聖騎士も普通の魔人とは格が違ったと証言しています」

「となると、記録では二、三百年近くは出現の例は無い相手が奈落消失に前後して現れる、か」

「そうなってくると、新たに神代の魔人が現れてもおかしくは無いですな」

「ともかく、ラダスへの対処です」

「神代の魔人と言う怪物の出現が報告されている以上、手段は一つしかないでしょう」

「神聖騎士であるアリシア様に、ラダスに向かってもらうしか無いですね……」


 彼等もできればこの手段を取りたくはない。アリシアは神聖騎士であると同時に他国の公爵家のご令嬢でもあるのだ。もし、もし万が一、自分達の指示で向かった神代の魔人の討伐で、彼女が討たれ、死ぬような事があれば関係悪化は避けられない。

 しかし、現状ラダスの最も近くにいる神聖騎士は彼女しかいないのだ。

 最終的にラダスやそこに潜むであろう神代の魔人の対処を神聖騎士アリシア・エレインに一任する事を決め、この会議を終えるのであった。




 一方、教会の総本山、大聖堂の地下にある巨大保管庫。そこには二名の女性がいた。

 一人は、現教皇の一人娘であり『聖女』とも呼ばれる、ティアーナ・メルフェリア。

 もう一人は、リリア・フォン・シルフィール。シルフィール帝国の第一皇女だ。

 彼女達は二人共が教会の象徴である神聖騎士でもあった。

 そんな彼女達の目的は、この地下巨大保管庫の最奥に安置されている物だった。





「これは……」

「リリアさんはこれを見た事がありませんでしたね、これが神骸です」

「これが……」


 リリアも見た事は無いが、その名前だけは知っていた。

 彼女達の目の前にあるのは、かつてとある場所から発見された人の数倍の大きさもある巨大な天使の像だった。その背には五対十枚の翼が生えている。

 そして、その像は膨大な聖気を内包しており、その出自は全くの不明ながら聖遺物として指定され、厳重に保管されていた。

 この天使の像の正体を探る為、教会では様々な解析が行われていたが、全て解析不能と言う結果に終わっている。

 唯一分かっているのは神聖騎士、厳密にいうなら神聖騎士が持つ七天神具と反応し共鳴する事だけだった。それ以外には何をどうしようとも全く反応を示さない。

 そして、この像は何時からか教会に古来より伝わる伝承になぞらえて神骸と呼ばれるようになっていた。

 その神骸と呼ばれている物が突如、強く脈動し始めたのだ。今迄は神聖騎士に反応する以外に全く何も起こらなかったというのに、だ。そして、その脈動は七天神具を通じ神聖騎士である彼女達にも伝わっていた。

 この場にいる二人は謎の脈動の正体を探るべく、この地下に来ていたのだ。


「ですが、何故こんな突然に神骸が……」

「分かりません。各地に潜む魔人達の動きが活発化していると、耳にしていますがそれと関連があるのかどうか」

「或いは、奈落消失で世に出た七罪武具が原因の可能性も……」

「その可能性も十分にありますね」


 実際、神骸について分かっている事は何もない。今迄は、何の反応も示さなかった物だ。彼女達にはこの神骸の現状を見守る他ない。


「現状では害は無い様ですし、このまま静観するしかないでしょう」

「そうですね」


 だが、彼女達にはこれが良い物に思えなかった。それどころか、これをそのままにしていれば何かとてつもない事が起きるのではないか、不思議とそんな印象を抱いていた。

 しかし、彼女達にはどうする事も出来ない。下手に移動するより、ここに安置していた方が、危険が少ないのも事実だ。そもそも彼女達は、突然地下から感じた脈動の正体が神骸であるかを知るためにこの場所に来た。彼女達に神骸を移動したりするつもりもない。

 結局、彼女達はこの神骸をどうする事も無く、この地下保管室から出ていく。

 そして、彼女達が保管室から出た後も、神骸は延々と脈動を続けるのだった。

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