3 奴隷
……あれから何年が過ぎただろうか。未だに俺は奴隷として扱われていた。その日々は地獄だった、ある時は戦闘奴隷として主人の盾として使われ、またある時は主人の蹴る、殴るといった暴力に耐える日々。いつかこの地獄から解放されることを渇望しながら心をすり減らす日々。
そんな日々の中で奇跡的に命を失うことは無かったが身体の至る所に傷跡が数え切れないほど残っていた。そんな奴隷生活の中で俺の心に残ったものが一つだけあった。
「俺は家族として見てほしかった、愛してほしかっただけなんだ……」
自分が世界で一番不幸だなんて大それたことは思ってもいない。だけど家族を求める事すら俺には許されないのか。家族に認められたかった。家族の一員として見てほしかった。ただ、それだけなのに、それすら俺には許されないのか。
そんな思いだけが俺の中に残っていた。そして、そんな日々も数年が過ぎた時だった。
俺は幾人の奴隷と共に馬車に乗せられていた。前の主人に売られ新しい主人の元にいく事になった。だが、輸送される時、予定していたルートが使えなくなり、奈落と呼ばれる場所の近くを通る事になった。
本来、奈落周辺は教会によって立ち入りが制限されているが、アンダーグラウンドな奴隷商人はあまり気にしない様で、前回は無事だったから今回も大丈夫だろうという安易な判断で、奈落付近を通る事を決定した様だった。
だがその事がいけなかったのだろう。
「お前ら、出ろ! 襲撃だ!」
奈落から魔物が出現したのだ。そして、それは俺達の乗る馬車に襲い掛かる。
「ぐあっ!」
「くそっ!」
俺達も応戦するが、その数が段々と減っていく。
「ちっ、全く役に立たねえ奴らだな! お前らはそこで時間を稼いでろ!」
そう言うと奴隷商は一目散に逃げだし始めた。どうやら、俺達を囮にして逃げることを決めた様だ。
だが、そんな判断を嘲笑うかのように、奴隷商が乗る馬車の背後からも、魔物が襲ってきたのだ。当然逃走の準備をしていた奴隷商に逃げる暇も無く馬車ごと奴隷商は吹き飛んだ。あれでは、間違いなく即死だろう。その証拠に、俺達の首に着けられた隷属の首輪が外れた。これが外れるのは、奴隷の所有者が自らの意思で外すか、奴隷の所有者が死亡した時だけだからだ。
残った奴隷たちは首輪が外れるのを見ると、一目散に逃げだした。だが、散開してしまっては各個撃破されるだけあった。一人、また一人と殺されていく。
結局最後に残ったのは俺だけになってしまった。
「くそっ!」
そして、最後に残った俺を殺そうと魔物たちが一斉に襲い掛かってきた。あわやこれまでと思った時、目に入ったのは、魔物たちが現れた空間の歪みであった。
迷っている時間すら俺には残されていなかった。どうせ殺されるなら、と一か八かで空間の歪みまで全速力で走り出す。
魔物達もそんな唐突な行動に一瞬、動きが鈍る。だが、その時間だけで十分だ。魔物達に追いつかれることなく、何とか空間の歪みに飛び込んだのだった。