27 ラダスの街の夜 決戦開始
所用で遅れました。
その代わり今回は文字数増量しております。
ラダスの街に存在している魔人達の拠点の内の一つ、そこに攻め込んだ聖騎士達は困惑していた。この拠点に攻め込み、とある部屋に入った時、罠に掛けられたのか、この部屋に入ってきた扉が勝手に閉まり、開かなくなってしまった。結果この施設に攻め込んだ聖騎士全員がこの部屋に閉じ込められたのだ。
だが、閉じ込められてから今まで何も起こっていない。最初は罠かと思い警戒していた聖騎士達は、既に警戒をある程度解いている。
「どういう事だ……?」
「分からん。もしかすると、奴らは我々を餓死させるつもりかもしれん」
「進展がなさそうなら、聖武具を具現化する。扉ごと破壊するぞ」
「了解」
この部屋も調査してみるが、あっけなく終わる。この部屋は闘技場の様に巨大なドーム状になっているが、それ以外には言葉通り何も無い。ただ、彼等が入ってきた大きな扉、そしてその反対側にも同じサイズの扉、その二つの扉以外何も無かったのだ。
結局、何も起きず、聖騎士達が聖武具を具現化し、この場から脱出しようとした時だった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
突如としてそんな轟音を立てながら扉が破壊されたのだ。
「何だ!?」
そして、壊れた扉付近は砂煙に包まれていたが、その砂煙もドンドン薄まっていく。
砂煙が消えた時、そこに現れたのは、一体のオーガだった。
だが、彼等が知る普通のオーガとは放たれている威圧感が圧倒的に違ったのだ。
「う、嘘だろ……。この威圧感、あの時の魔物と同じ……」
そんな声を上げるのは彼等の中で災害級の魔物と相対した経験が有る物だ。その時の恐怖を思い出し、恐れおののいていた。
「おい、どうした!?」
そんな声が響くが、彼等の耳には届かない。
「あのオーガ普通じゃない。あの威圧感、間違いない!! 昔戦った災害級の魔物と同じ物だ!!」
その言葉に、この場にいる聖騎士達は、驚愕した。何故こんな所にそんな化け物がいるのか。だが、それと同時に理解させられた。このオーガを倒さない限り自分達は生き残る事は出来ないのだと。
この場に現れたオーガの正体は、オーガロード。オーガが進化した、災害級に分類される魔物だった。
オーガロードの後ろから次々とオーガが現れる。その数はこの場にいる聖騎士を上回る程だ。
彼等が生き残る方法はただ一つ。あのオーガロードを倒す事だけだ。彼等もそれを分かっているのか。オーガとの戦いを覚悟する。
「皆、聞け!! あのオーガロードと周りにいるオーガを倒さない限り、我々に生き残る道は無い。こいつらを倒し必ず生きて帰るぞ!!」
「「「了解!!」」」
彼等はその掛け声とともに次々と自らの聖武具を具現化していく。
聖騎士達とオーガロードの絶望的ともいえる戦いが始まったのだった。
自分達の仲間が災害級の魔物と相対している。そんな光景が三つの水晶全てに映し出されていた。
「嘘、だろ……」
「どうして災害級の魔物が……」
遠見の魔道具を通して、仲間たちの様子を見守っていた聖騎士達は呆然としていた。今仲間たちが相対しているのは、災害級の魔物と呼ばれるモノだったのだから。
「貴様、答えろ!! 何故、三体も災害級の魔物がいる!!」
「ハハハ、君たちに教える道理は無い、と言いたいところだが、今回ばかりは特別に教えてあげよう。あれこそが我々の実験の産物だ」
「実験……まさか!!」
聖騎士達は目の前にいる魔人が、魔物を使い何らかの実験をしていた事は掴んでいた。だがその詳細は未だ不明のままだ。
「我々は魔物の人工的な進化を研究していたのだよ」
「人工的な進化だと?」
「そうだ。魔物が進化する事で発生する災害級の魔物、もしそれを人為的に生み出し、そして制御出来れば、我々にとって大きな戦力になりうるとは思わないかね」
「そんな、もしそんな事になれば……」
もしそんな事になれば被害は想像を絶する。聖騎士達が少なくない犠牲を払って、やっと討伐することが出来るのが災害級の魔物だ。それを人為的に生み出すことが出来るとなれば、多大な脅威となりうる。
「まぁ、生み出す事には成功したが完全な制御には至ってはいない。だが、それでも大きな戦力になるのは間違いない」
「くそっ!!」
遠見の魔道具の先では仲間達が災害級の魔物、そしてその配下に何とか奮闘しているが、それでも戦力差は圧倒的だった。
「あ、ああ……」
「そ、そんな……」
仲間達が目の前で殺されていく。そんな状況ですら自分達は何もできない。この場にいる聖騎士達の心はかつてない程の無力感に叩きのめされていく。
だがそれで終わらせるほど、このガイウスと言う魔人は甘くは無かった。
「ハハハハハ!! 君達は気付いているのかね。これがまだ幕開けでしかないことを」
「どういう事だ!?」
「ふむ、言わないと分からないかね? 私は行ったはずだ、あそこにいる災害級の魔物は制御が出来ていないと」
「ま、さか……」
「その通りだとも!! あれはそのまま放っておけば、いずれこのラダスの街の表に出るだろう。もうすぐ夜も明ける、そんな時に街の中にあれが突然現れればこの街はどうなると思う?」
そんなもの考えるまでも無い。あの中の一体ですら、街の外から攻め込んでくるだけで壊滅しかねないのだ。それが三体、しかも街の内側となればもはや答えは一つしかない。
「この街が……」
「一つだけ良い事を教えてあげよう。この街の壊滅を食い止めたければ、私を倒す事だ」
「何だと?」
「あの魔物には、私の因子が植え付けられている。その因子によって人工的な進化を実現した。だからこそ、私が死ねばその因子は消滅し、あの魔物達も死ぬだろう」
「なぜ、そんな事を教える……?」
「逃げる獲物を狩った所で、何の面白みも無い。私を楽しませるよう、せいぜい抵抗してくれたまえ。私が生き残ればこの街は終わる、君達が生き残れば君達が恐れているあの魔物達も消え、街は救われる。分かりやすいだろう? さぁ、戦いを始めようじゃないか!!」
そして、ガイウスは一本の剣を具現化した。その剣は悍ましい程の魔力を放っている。ガイウスが具現化したのは、魔器と呼ばれる物。聖騎士の持つ聖武具、それの対極に位置する物だ。
「魔剣……」
「そう、魔剣グラトニア。私の名を冠する魔器である」
ガイウスが魔剣を具現化したとたんこの場にいる聖騎士は恐怖で気を失いそうになる。ガイウスがグラトニアと呼んだ魔剣から放たれる悍ましい程の魔力がこの場にいる聖騎士達を威圧していた。
「い、今迄戦ってきた魔人とは桁が違う……」
「こんな魔力、ありえない……」
この場にいる聖騎士達は優秀な者が揃っている。魔人と相対し、それらを討ち取った経験を持つ者だっているのだ。だが、そんな経験を持つ者ですら、ガイウスという男に恐怖を覚えていた。
「そうだとも、私は君達が相手をして来たであろう魔人とは年季が違う。私は永い、それこそ本当に永い時を生きてきたのだ。私からすれば他の殆どの魔人は若輩者と言ってもいい。君達に至っては赤子の様な物だ」
永い時を生きてきたと言う言葉から分かる通り魔人という存在は年を取らない。所謂不老の存在だ。外的要因以外、つまり寿命や病で死ぬことは無い。
しかし、魔人と呼ばれる存在の中にも別格の存在がいる。
聖騎士達が相手をする魔人は、主に暗黒期にかの王によって魔人となった者達だ。
だが、それよりもはるか昔、七体の魔王が君臨していた、神代と呼ばれる時代に生まれた魔人が存在している。そんな魔人は、暗黒期に生まれた魔人とは格が違う。永い年月を生きてきた事で凄まじい程の力を蓄えている。その力は嘗ての魔王にも匹敵しているとまで言われているのだ。
そんな神代に生まれ現代まで生き残った魔人を、聖騎士達は畏怖を込めて、神代の魔人と呼ぶ。
「嘘だ。神代の魔人なんて、そんな化け物の中の化け物がこんな場所に居る筈がない!!」
言葉では、そんな馬鹿な事があるはずがない、と言い続けるが、それでもこの場にいる聖騎士達は事実を否応にも受け入れざるを得なかった。あの魔剣から放たれる悍ましい程の魔力が目の前のガイウスという男が神代の魔人であるという事を何よりも証明しているのだ。
この場にいる聖騎士に神代の魔人との戦いを経験したものなどいない。神代の魔人は今迄の歴代の聖騎士達に討たれ、その数を減らしている。神代の魔人と呼ばれる存在がここ二、三百年の間に現れたという記録は無く、神代の魔人はこの世から全ていなくなったという者までいるほどなのだ。
「だ、だが、神代の魔人だろうと何だろうとここで勝たなければ、この街が終わる!!」
「ここで勝って、この街を救うんだ!!」
「「「了解!!」」」
「さぁ、最後の余興だ。私を楽しませてくれたまえ!!」
そして、聖騎士達はガイウスに向かって一斉に攻撃を仕掛ける。
ここに、ラダスの街の存亡を賭けた神代の魔人と聖騎士の戦いが始まるのだった。
次回から主人公視点に戻る予定となっております。




