22 司祭との話
今回は少し難産でした。
あまり気に入っていない感もあるので、今後改稿するかもしれません。
シスターに案内された部屋に入ると前回同様に司祭が待っていた。
「司祭様」
「おや、アルトさん。そちらの人はカインさんでしたね。お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「今日も聖気を纏わせればいいのですか?」
「それなんですが」
司祭様に俺は正直に話す事にした。オークキングとの戦いで壊してしまった事、貴重な物を壊してしまった負い目から中々教会に来る決意が持てなかった事。
「壊してしまってすみませんでした」
「いえ、貴重な物なのは間違いないですが、貴方達の命には代えられないですから」
「そう言ってもらえると助かります」
「……それにしてもオークキングの事を報告してくださったのは貴方達だったのですか」
「アルト、司祭様にオークキングの事を話してなかったのか」
その事をアルトに聞くと頷いた。どうやら、話す機会が無かったとの事だった。
「今、ここでも魔人の関連で、ただでさえ人手不足気味な時に、更にオークキングの案件ですからね……。人手不足も極まっていますよ。おかげで私も現場に頻繁に駆り出される始末です。まぁ、オークキングの件で聖騎士団の本部から追加で人員を送ってもらえることになったので、もう少ししたら楽になるとは思うのですが」
そう言って司祭はため息をついた。どうやら最近は司祭も教会に居ないときの方が多いらしく、俺達が司祭に会えたのは運が良かった様だ。
「それでは、手早く済ませてしまいましょうか」
司祭はそう言うと前回と同じく聖剣を具現化させた。だが、前回の時と違うのは、前に感じていた不快感、あれが少し増していた様な気がした。しかし、前回頭の中に浮かんできていた意味不明の言葉は聞こえることは無かった。
俺達は、持っていた剣を司祭に渡す。そして前回通り、剣が聖気に覆われていったのだった。
「さて、これで終わりです。これはお返ししますね」
「はい」
そして、司祭から手渡された剣を仕舞う。するとアルトが司祭に聞きたい事があったようで、二人で話しているのが聞こえた。
「そう言えば、この街の近くに神聖騎士の方がいるって聞いたのですが本当なのですか!?」
「……よく知っていますね。そうです、話に出てきたのは、当代の五人いらっしゃる神聖騎士の一人、アリシア・エレイン様。この国の大貴族、エレイン公爵家のご令嬢でもありますね」
「…………………………………え?」
え? え? 一体司祭は何を言っている? この街の近くに彼女がいるのか? は? 何故? 一体どうして? は?
俺の頭の中はそんな疑問と混乱の極致に達していた。だが、俺のそんな様子に司祭は気が付かない様で、そのまま話を続けていた。
「私は以前あの方の剣術指導をした事があるのですよ。あの方は素晴らしい才能の持ち主でした。一時でもあの方の師としていられた事は私の誇りです」
俺が何とか落ち着きを取り戻した時、司祭は彼女の事をずっと褒めちぎっていた。
「その方は剣を使われるのですか?」
「ええ、私の持つ聖武具である聖剣、その上に位置する神剣とも呼ばれる物です。私もあの方の専属の部隊にも推薦された事もありました」
「そうなんですか!?」
アルトは興奮している様だ。実際神聖騎士の専属部隊は聖騎士の中でも特に優秀な一握りの者しかなれないと言われている。その部隊に推薦されたという時点でこの司祭は聖騎士の中ではかなり上位に入るのだろう。
「その直後に色々ありまして、結局この街に赴任する事になったんですがね」
「へぇ、司祭様にそんな過去が……」
「今思えばこの街に赴任する事になってよかったのかもしれません。奈落の件も含めこの街では今、様々な問題が起きています。何が起きても不思議ではありませんから。貴方達も注意しておいてください」
「……司祭様、奈落ってあの奈落の事ですよね。一体どういう事ですか?」
「司祭様!!」
「あっ!!」
どうやら、何か喋ってはいけないことを口にしてしまった様だ。今まで静かに部屋の隅にいたシスターが慌てて口を挟んだ。まぁ、何の事かは俺には容易に想像がついた。というか自分が当事者だからだ。
「二人共、私が奈落に関して何かを言った事、それ自体を秘密にしてもらっても構いませんか?」
「構いませんが……」
「助かります」
アルトのその言葉で司祭は安堵のため息を零した。だが、俺はここでどこまで教会が事態を掴んでいるのかが気になった為、少しかまをかけてみる事にした。
「まさか、奈落が消えた、とか……?」
「何故それを!?」
「シスター!!」
「あ」
今度はシスターの方が引っ掛かった様だった。司祭は諦めた様に今日何度目か分からないため息を漏らす。
「はぁ、仕方がありません。ここまで知られてしまった以上貴方達にも話しておいた方がいいでしょう。ですが、これは超が付くほどの極秘事項です。くれぐれも他言無用でお願いしますよ。一月以上前の話です、奈落が予兆も無く突然消滅してしまったのです」
「はい!?」
アルトは今までにない程驚いていた。実際、もし俺がアルトの立場になれば同じく驚愕するだろう。実際、奈落は暗黒期最大の負の遺産としてあまりにも有名すぎる。場所が何処かは知らないが、その名前だけは知っているというのが世界中の人達の大半だろう。
「教会では、緊急に調査団が結成され奈落跡地への調査が行われることが決定しました。その付き添いとして、今回神聖騎士の一人であるアリシア様が来られることになったのです」
「そんな事が……」
「現在、調査団が奈落跡地を調査している段階です。今後何が起こるかは全く予測不可能ですから、慎重に慎重を重ねて調査しています。暗黒期最大の負の遺産であった奈落が消滅した、その事実だけ見れば悪い事ではないはずなのですが、こうも唐突だと、ね……」
「司祭様……」
「おっと、不安にさせてしまいましたね。悪い様にはならないはずです。いえ、そうしないために我々がいるのですから」
「なぁ、カイン。どう思う?」
教会から出た後、今日の宿に向かう道中でアルトが唐突に聞いてきた。
「何が?」
「奈落の事だよ。もしかしたらこれから大変な事が起こるかもしれないだろ」
司祭は悪い様にしないために自分達がいると言っていたが、やはりアルトは不安だった様だ。
「そうだけど、もしかしたら何も起きないかもしれないだろ?」
実際、俺が何もしない限りは、奈落や七罪武具関連で何も起きる筈がないのだ。
「そんな楽観的な……」
「実際悲観的に見るよりは、そっちの方が良いだろ?」
「それはそうだけどさ……」
「それに、この街の近くには神聖騎士がいるんだろ? だったら何とかしてくれるさ」
「そう、だよな……」
それ以降、俺達の間には微妙な空気が流れ、宿に到着するまで会話が交わされる事は無かったのだった。




