19 オークキングとの最終決戦
剣に魔力を纏わせたことで今迄纏っていた聖気は既に掻き消えていた。膨大な魔力を纏わせた事で剣に罅が入っていく。これだけの魔力を一度に纏ったことで剣そのものが耐えきれないのだろう。ピキピキという音と共に剣が軋みを上げていく。そして、最終的に俺の持っていた剣は柄だけを残し、残りは粉々に砕けちった。
「ダメか……」
柄だけになった剣をその場に捨て、俺は右手を胸にあてた。
「ふぅ、はぁ、……来い！！」
そして、一度深呼吸した後、その声と共に自分の中にある剣を抜くように腕を振るった。
「オーク達、そしてオークキング、さぁ、決着をつけよう」
俺の手に顕現したのは、あの時奈落で手に入れた七罪武具、七罪剣。今なら分かる、この剣の凄まじさが。少し前に見た聖武具などこの剣に比べれば大した事は無い。正直に言うと今もまだこの力を使うのは怖い。だけど、今はこの力に頼らざるを得ないのだ。
「ブモォ？」
オーク達の困惑の声が聞こえてくる。今迄被捕食者だと思っていた存在が、突如自分達を統べる者に匹敵する、いや、もしかしたら超えているかもしれない力を持つ者に変わったのだから。
「ブモォォォォォォォォォ！！」
オークキングは叫び声を上げた。すると、まだ周りに残っていたオークたちは一斉に襲いかかってくる。
だけど、無駄だ。先程と同じく有象無象では相手にならない。
「はあっ！！」
一撃一殺どころか、一撃数殺と言っても過言ではなかった。縦に斬ればオークは左右に分かれ、横に斬れば上下真っ二つ、斜めに斬ればオークの上半身はズレ落ちる。圧倒的だった。俺が振るい続けるだけで、周りにいる魔物はオークキングを残し全滅したのだった。
「ブ、ブ、ブ、ブモオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォ！！！！！！！！」
オークキングがこれまでで最大の叫び声を上げ、憤怒の表情を浮かべている。手塩にかけて育てた自分の配下がこの短時間で全滅した事、そしてそれを成した俺に怒りを向けているのだろう。
そして、オークキングは間を置かず、俺に突撃してくる。そして、右手に持った棍棒を俺に向けて振り下してきた。その一撃を俺は慌てて七罪剣の腹で受け止める。
「くっ！！」
俺の使う七罪剣は聖騎士の使う聖武具を超え、神聖騎士が持つ七天神具に匹敵するが、それでもオークキングの一撃に無傷とはいかなかった。俺の足が地面にめり込む。
「おらあっ！！」
だが俺も負けじと棍棒を力技で押し返した。そして、その衝撃で腕は上に上がっており、胴体は隙だらけだ。
「はぁ！！」
隙だらけのオークキングの胴体に向けて俺は横薙ぎの一撃を喰らわせた。
「ブモ！？ ブモオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ！！！！！！！」
「やったか！？」
だが、災害級の魔物、オークキング。その存在は常識を超えていた。
「化け物め……」
なんと、オークキングの傷口がグネグネと動き、たった数秒で再生してしまった。災害級の名に恥じない化け物っぷりである。
「なら、あれしかないか……」
そして、俺はオークキングとの最後の戦いに突入したのだった。
俺の武器はかつて魔王が振るったとされる七罪武具の内二つを一本の剣として統合した物ではあるが、使い方を習熟しているとは言い難い。そして相手は、災害級とされるこの世界で最大級の強さを持つ魔物なのだ。故に七罪武具をもってしてもお互いの力は拮抗していた。
「はあっ！！」
「ブモオオオォォォ！！」
俺がオークキングの腕を斬り飛ばせば、その腕はすぐ再生し、足を斬り飛ばせば、その足はすぐに再生する。
一方、俺には再生能力なんて便利なものは持っていない。傷を負っても再生するオークキングに対して俺の方には致命傷とは言えないが浅くはない傷が増えていた。
「手詰まりか……」
オークキングの再生能力のおかげで俺は手詰まり状態だと感じていた。
傷を負わせても、すぐ再生してしまう相手だ。急所への攻撃もあまり効果が出た様子もない。
だが、それでも抵抗しなければと、オークキングに次なる攻撃を入れようとした時、致命的なミスを犯してしまった。
「しまった！！」
この場が森という事を失念していた。足元にあった蔦の様な物に足を取られて地面に倒れ込んでしまう。
「ブモオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ！！！」
今が好機と見たのだろう。今迄で最大の威力と思われる一撃を俺に向けてきた。
しまった、殺される！！
そう思った時だった。
「ブモ！？ ブモ！？」
「はぁ、はぁ、やっと、尽きたか……」
ようやく俺がやっていたことが実を結んだ様だ。俺に止めとなる一撃を与えようとした時、オークキングは膝から崩れ落ちた。そして、足を動かそうとしてもピクリとしか動かない。腕も同じ状況だ。
「オークキング、これで、終わりだ」
「ブモ！？ ブモ！？ ブモ！？」
それでもオークキングは手足を動かそうとするが全く動く様子は無い。
「何が起こったのか分からないなら教えてやる。お前の魔力を喰らったんだ」
奈落で出会った王が言っていた様にこの剣は『奪い』『喰らう』事に特化している。その力でオークキングの魔力を喰らったのだ。だが、俺はこの力を使いこなしているとは言えない。攻撃を与えると同時に魔力を奪う程度しかできなかったが。
「それに再生能力も使いすぎだ。あれだけ使っていたら魔力だってすぐなくなるさ」
魔力は魔物の力の源でもある。魔力が無くなれば動く事すら出来ないのは当たり前だろう。
だけど、俺がオークキングの魔力を喰らっていなかったら、オークキングの魔力が底をつくのはもっと先の話だったかもしれない。
結局この勝利は薄皮一枚、ギリギリだった。
「さあ、オークキング。これで最後だ」
「ブモ！！ ブモ！！ ブモ！！ ブモオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ！！！」
魔力が尽きても、声だけは出せるようで、必死で最後の抵抗をする様に叫び声を上げていた。
だがそんなオークキングの元まで歩み寄り、俺は七罪剣を向ける。
ザシュ！！
すでに動く事すら出来ないオークキングの首を俺は斬り飛ばした。魔力が尽きたオークキングは再生することが出来ず、そのまま地面に倒れ伏したのだった。
