17 オークキング
ゴブリンの襲撃があった翌日、俺達は村長と共に村の奥の森への道に向かっていた。
「私が案内できるのはここまでです。後はよろしく願いします」
「分かりました」
そして、村長と別れた俺達は森の中へと歩み出していった。
この森に足を踏み入れた時から感じていたが、森の奥に進むにつれ段々と濃くなっている。この森には魔力が渦巻いているのだ。勿論、膨大な魔力で異界と化していた奈落などに比べれば圧倒的に少ないだろう。普通の人間ではこの森の魔力を意識しないと感じる事が出来ない程度でしかない。
だが、こんなある意味何の変哲もない森の中に魔力があること自体が異常だ。奈落然り、魔境と呼ばれる魔力で汚染された地然り、その場所が魔力で汚染されるにはそれなりの理由があるはず。
この森をこれ以上探索する為には、覚悟が必要かもしれない。
「アルト」
「何だよ、一体?」
「もしかしたら、俺達はとんでもない事に首を突っ込んだかもしれない」
「は? どういう事だよ?」
「アルトは感じないか? この森にある魔力を」
「は!? ……嘘だろ……」
本来ならこんな所に魔力がある事を教会に報告するべきなのだろう。報告すれば然るべき対処をしてくれるはずだ。
だが、今はそんな余裕はない。ここから街に戻ったとしても片道五日、往復で十日だ。だがこの計算はあくまで最速である。ここに準備をする時間を取れば、もっと時間がかかるだろう。村長は数日に一度の頻度で魔物が襲ってくると言っていた。最速でも、三回は襲ってくる計算になる。
そして、村を放棄するとしても、あの村には負傷者が多い。準備と移動にどれだけ時間が必要か分からない。だが、こうなっては村は放棄せざるを得ないかもしれない。
「どうする、戻るか?」
「それしかないだろ」
「結構森の奥まで来たからな。早い内に戻らないと日が暮れるかもしれない。カイン、急いで戻るぞ」
「……いや、そう上手くは行かないみたいだ」
俺がそう言って首を向けると、そこから棍棒らしきものを持ったコボルトの集団が姿を現した。
「グギァァ」
「グギィィ」
「グゥゥゥ」
だが、それは前方だけではなく、俺達を取り囲むように四方八方から現れていた。
「ちっ、つまり、こいつらを倒さない限り村には戻れないって事か」
「そう言う事だな!!」
そして、俺達はコボルトとの戦いに突入したのだった。
「くそがっ!! 全くキリがねぇ!! カイン、そっちはどうだ!!」
「こっちもダメだ!!」
俺達はこのコボルトの包囲網から抜け出そうと、一点突破を狙っているが全然上手くいく気配がない。包囲網に穴をあけようとしても、後ろから包囲網に開けられた穴を埋める様
に次々とコボルトが補充されてくるのだ。
「だけどっ!!」
「もうすぐっ!!」
それでも、かなりの数のコボルトを倒し続けていた為か、段々とコボルトの数が減っていく。後方からの補充も目に見えて少なくなっていた。包囲網そのものが薄くなっているのだ。
俺達は顔を合わせて、これなら行ける、と頷きあった時だった時だった。
「ブモォォォォォォォォォ!!」
そんな、叫び声が森の奥から聞こえたのだ。そんな想定外の叫び声で一瞬アルトは膠着してしまった。
「グギャァァ」
「アルト!!」
硬直したアルトがコボルトに棍棒の一撃を喰らってしまった。俺は慌ててアルトの援護に回る。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。何とか」
アルトは準備していたポーションを飲み、怪我を治そうとしていた。
「だけど、今の叫び声は一体……」
そんな時、地面をドンドンと揺らす様な、衝撃がこの場に流れる。
「な、何だ一体……」
「……あれがさっきの叫び声の正体……」
そう、森の奥から現れたのはオークだった。しかも、その数は一体だけではなく、コボルト達と同じく、俺達を包囲する様に何十体も現れたのだ。
「ふざけんな!! なんでこんな森の中でこんだけのオークがいるんだよ!!」
アルトは衝撃のあまりそんな叫び声を上げていた。それも仕方がないだろう、オークの強さは俺が奈落で戦ったサイクロプスと同程度だ。一、二体程度ならまだ対処は可能だっただろう。だが、ここにいるのはそんな生易しい数ではないのだ。
「とりあえず、逃げる事を最優先に考えるんだ!!」
「分かってる!!」
そして、オークとの戦いになると思われたその時、再び叫び声が聞こえてきたのだ。
「ブモオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
聞こえてきた叫び声は、先程聞こえてきた叫び声を遥かに上回る物だった。
「こ、今度は一体なんだよ……」
森の奥から先程を遥かに上回る程の足音を鳴らしながら一体の巨大なオークが現れたのだ。
目の前に現れたその一体のオークは、他のオークたちと何もかもが違っていた。周りにいるオークも俺達の二倍以上の体格を持つというのに、目の前のオークはそれをさらに一回りも大きくした様な巨体を誇っている。そして、何より印象的なのがその威圧感、周りにいるオークたちとは桁違いの威圧感を放っていた。
「は、ははは……。嘘だろ……、なんでこんな所に、こんな怪物がいるんだよ……」
アルトは今にも気を失いそうになっている。俺も意味が分からなかった。何故こんなモノがこんな森にいるのだ。
「オークキング!!」
そう、俺達の前に現れたのはオークキング、災害級に分類される程の魔物だったのだ。




