14 教会
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「っ」
教会の中に入ると、不快感から思わず顔を歪めてしまった。教会の中には薄く聖気が充満していた。俺の中にある魔力が教会内の聖気に拒絶反応を起こしているのだろう。それが不快感として表れている。
「どうかなさいましたか?」
「おいカイン、どうしたんだ?」
どうやら不快感が顔に出ていたようだ。二人は訝しがるように俺の方を見ていた。
「い、いや。なんでもない」
「そうですか」
特にその事を怪しむ事は無く、そのままシスターに案内され、教会内を進んで行く。
だが、歩みを進める度、俺の中の不快感は消えるどころか増していった。魔力を宿したからこそ分かるこの感覚。この先にあるのは聖気の塊と言ってもいい。恐らくこの先にいるのは聖騎士の類なのだろう。
「教会へようこそ」
「司祭様」
案内された部屋に入ると、その部屋に居た一人の法衣を着た男性が声を掛けてきた。案内してくれていたシスターが言っていたように、この教会の司祭なのだろう。
「っ!!」
だが、司祭と呼ばれた男に俺は驚きを隠せなかった。目の前の男からかなりの聖気を感じ取れたのだ。恐らく、今この街にいる聖騎士の誰よりも聖気の量は多いのではないだろうか。
「おや、どうかなさいましたか?」
「……いえ、何でもありません。それよりも、一つお聞きしたいのですが、司祭様は元聖騎士なのですか?」
「ええ。怪我が原因で引退する事になりまして。でもどうして分かったのでしょうか? ……もしや、そこまではっきりと私の聖気を感じ取れるのですか」
「……はい」
「そうですか、もしかしたら、あなたには聖騎士の素質があるのかもしれませんね」
「……っ、ふざけっ!!」
ふざけるな!! 司祭のその言葉に思わずそんな声を上げてしまいそうになる。本当に素質があったなら、今も追放されずにあの家に居る事が出来たかもしれない。なのに、そんな事を軽々しく言う目の前の男に怒りを隠せそうになかった。
「……何か気に障る事を言ってしまったようですね。申し訳ありませんでした」
だが、司祭の謝罪の言葉で、俺の怒りは少しだけ収まる。
それにしても皮肉な話だ。魔力を宿したことで聖気をここまではっきりと感じることが出来、挙句の果てにベテランの聖騎士から、俺には聖騎士の素質があるなどという戯言まで言われるのだから。
一呼吸を置き、俺の怒りは殆ど収まっていた。そして、司祭に俺達が教会に来た目的、俺達の持つ武器に聖気を纏わせる処理をしてほしい旨を話した。
「では、早速始めましょうか。聖気を纏わせる武器をここに」
司祭のその言葉に俺とアルトは剣を抜き、司祭に手渡した。
「……これは、また珍しい物を見ましたね」
司祭は俺の持っていた剣を手に取り、一通り眺めた後、ポツリとつぶやいた。
「司祭様? カインのその剣がどうしたんですか?」
司祭のその様子を不思議に思ったアルトが、司祭に聞いていた。
「いえ、この剣は中々見ることが出来ない物なので」
「確か、聖気の減衰が遅くなるような特別製の剣って」
「ええ、それはそうなのですがね……」
だが、司祭はその後の言葉を濁していた。そして、俺の剣をじっくり眺めた後、机の上に戻した。
「その剣がどうかしたのですか?」
「いえ、ね。この剣の制作に使われている技法なのですが、既に失われた技法で製造された物なのです」
「それって、売ったら高く買い取ってくれるのか?」
アルトが失われた技法という部分に興味を持ったのか、そんな事を言っていた。
「いえ、あくまで骨董品の類としか扱われないでしょう。そして、こういった武器は結局消耗品ですからそこまで高くはならないでしょうね。今現在現存している数は少なく貴重ですが、既に代用の技法が確立されていますから」
「司祭様、さっき既に失われたと言っていましたが、何故失われたのですか?」
「……少し長い話になります」
そうして司祭は少し間を置き、語り出した。
この剣に使われている技法は教会に伝わっている話では、おおよそ暗黒期前後に失われたと記録に残っている。
「暗黒期ですか?」
「ええ」
暗黒期、それは俺が奈落で出会った、かつて七罪武具を使ったかの王が君臨していたあの時代の事を指す言葉だ。暗黒の時代等の異なる呼び方もある。暗黒期は分類上、かの王が即位した時に始まり、奈落が出来た所で終わり、となっている。
話を戻そう、俺の使っている剣はそんな暗黒期の前まで普及していたが、暗黒期の動乱によって、技術そのものが失われてしまったのだという。同時に、暗黒期の動乱によって、この技法で作られた武器の大部分が壊れてしまい、数そのものが残っていないのだという。
その後、教会はこの技法の復元を目指したが先に同じ効果を持つ、別の技術が確立されたため、復元計画そのものが凍結されてしまった。
「そういう経緯ですから、現存している物は少ないのです」
「ほえー」
「貴重な品ですから、大事に使ってください」
「分かりました」
「おっと、そういえば話が逸れてしまいましたね。早速聖気を纏わせてしまいましょうか」
そう言うと司祭の体から感じられた聖気が増していくのを感じた。いや、その表現は正しくない。身体の奥底にあった聖気が表層に出てきた、と言った方が正しいだろう。
そして、右手を胸に当てると、そこから武器を抜き放つ様に振るったのだ。
司祭の右手には一本の剣が握られていた。その剣から感じられる聖気は、司祭が纏っていた聖気が剣の形を取ったかの様に感じられた。司祭が持っているのは間違いなく具現化された聖武具であったのだった。




