117 前哨戦
久々の戦闘描写です。頑張って書きます。
「行きますっ!!」
「来いっ!!」
ここに俺とリリアの戦いの火蓋が切って降ろされた。だが、先手は俺がもらう。
「行けっ、影獣!!」
初手、『喰らう影』で巨大な影獣を生み出し、そのままリリアに突撃させる。勿論これで倒せるなんて到底思ってもいない。これで勝てる相手だったらどれ程楽だったか。影獣には殆ど魔力を込めていない。サイズだけは大きいが、それも見掛け倒しでしかない。
「っ!!」
リリアは一瞬で現れた巨大な影獣の姿に驚くが、すぐさま対応し神双刃に聖気を籠めながら数度振るう事で影獣を切り裂いた。
それで影獣はいとも簡単に消えるが、それで十分だ。元より目隠し程度にしか期待していない。影獣の真後ろに隠れる様に走り出していた俺は消えた影獣を尻目にリリアの元に駆けだした。
「ふっ!!」
そして、俺は影獣を消滅させた直後のリリアに対して七罪剣を振り下した。だが、彼女はそれを読んでいたかのように神双刃を交差させる事で受け止める。
「はぁ!!」
そして、彼女は双刃を交差させながら一気に両手を広げる様に振り上げる。その結果、俺は剣を振り上げるような状態になった。そうなってしまえば俺の腹部はがら空きだ。リリアはそのまま双刃をがら空きになった俺の腹部に目掛けて振う。しかし、今の俺のこの状態では双刃による攻撃を回避する事すらままならない。
「だったら!!」
この状況を超えるべく七罪剣に魔力を込め、【強欲】と【傲慢】の力を使う。双罪槍斧を具現化する時間は無い。しかし、魔力や七罪剣の扱い方を習熟してきた今の俺なら、双罪槍斧を具現化していなくとも【傲慢】の力を使う事も不可能では無い。
いや、もしかしたらこれこそが七罪剣本来の力なのかもしれない。武具を具現化という面倒な手順を踏まずに七罪剣だけで全ての七罪武具の力を使うことが出来る。それこそ、七罪剣の力の一つなのかもしれないと俺は考えてもいた。
だが、そんな考察は後だ。今は戦いに専念するべきだ。
「『強欲の魔手』、『傲慢の徴収』!!」
相手は神聖騎士、こんなもので攻撃を完全に止められるとは思っていない。それでも、動きがほんの少しだけ遅くなるだけでも十分だ。そう思って俺は向かってくる神双刃に向けてそれを双方同時に放った。
結果、少しの効果はあったようで俺に向かってくる神双刃の動きが一瞬だけ止まる。だが、それだけの時間があれば十分だ。俺は七罪剣を無理矢理振り下し、リリアの双撃を体に触れる直前でギリギリ受け止めた。
「くっ」
そして、俺達の状況は鍔迫り合いの様相を呈してきた。ここで、俺が不利なのはやはり単純な手数の不足だった。
アリシアの時にも同じ事を思ったが、やはり手数が足りない。勢いを失った七罪剣なら彼女の双刃の内の一本でも受け止め続けることが出来るだろう。その隙にもう一本で攻撃されかねない。
「それ、ならっ!!」
手数が足りないのなら、作り出すまで。そう思った俺は左の手に色欲刀を具現化させる。そして、次の瞬間にはリリア目掛けて勢いよくその色欲刀を振るった。
「それはっ、まさかっ!?」
リリアは俺の左手に具現化した色欲刀に完全に目を奪われていた。この色欲刀に彼女の意識の殆どが集中しているのだろう。その結果、一瞬だけ動きが硬直し、それは大きな隙となった。
「もらったっ!!」
「っ!?」
だが、その一撃を察知したリリアは多少の遅れを見せながらも、神双刃を巧みに使い受け流した。そしてその直後には彼女は一度間を置くべく後方に飛び退いた。
そして、距離を開けた事で少しだけ余裕が出来たのだろう。リリアは左手にある色欲刀に目を向けながら、俺に問いかけてきた。
「……それは、【色欲】の七罪武具ですね?」
「……ああ、そうだ。色欲刀アスモデウス、それがこの七罪武具の銘だ」
「そう、ですか……。もう一つだけ聞かせてください。先程感じた力の気配、そして、あの『傲慢の徴収』という技。名前から察すると、あれは【傲慢】の力ですよね?」
「……そうだ。その通りだ」
「っ、そう、なのですね……」
それっきり、リリアは俺の力について聞いてくることは無かった。
そして、俺達の戦いは次の局面を迎える事になった。ここまでは小手調べ、前哨戦程度だろう。お互いにそれは理解している。だからこそ、お互いにあまり大技や力を使わずに接近戦に専念していたのだ。
そして、その直後、俺達の間に流れる空気が変わった。前哨戦は終わり、ここから本当の戦いが始まる事を互いに察していた。
だが、それでも俺の中には何処か余裕があったのは否定できない。俺の持つ五つの七罪武具に対して、リリアが持つのは七天神具の内、一つだけだ。
しかし相手は神聖騎士の一人だ。油断すれば足元をすくわれかねない。アリシアの【謙譲】の力の様なものを彼女も持っているのは間違いない。どういった能力かは不明だが、それでもその能力次第では、一気に追い詰められる可能性もある。しかし、単純に考えれば五対一、それに関しては俺が不利になる要素は無いだろう。だが、その慢心をこの直後、後悔する事になるとは思わなかった。
「【節制】の力よっ!!」
リリアはそう叫びながら両手に持った剣を交差させながら掲げる。そして、その双刃からは銀色の光が剣先から漏れ出している。彼女はその双刃を空中で環を描くように回転させた。剣の軌跡は剣先から漏れ出した光によって二つの光の環となり、今も空中に残っている。
「結界よ、この場を覆いなさい!!」
そしてリリアが剣を振り下すと、その二つの光の環はやがて重なり合い、一つの環になった。かと思うと、その直後に光の環は大きさを増していく。やがてそれはこの場を覆い尽くすほどに巨大な物となった。そして、その光の環はゆっくりと降下していき、地面へと到達した瞬間、光の環の内側全体が銀色の粒子を発しながら光り輝くのだった。
もしこの作品を面白いと思って頂けるなら、ブックマーク登録、ポイント評価をして頂ければ幸いです。一人10ptまで入れることができます。今後の更新への大きな励みになります。よろしくお願いします!!
「面白かった」等の感想やレビューもお待ちしておりますので、是非よろしくお願いいたします!!




