113 リリアとの語らい
「リリ、ア……?」
「カイン様、お久しぶりです。ずっと、ずっと、再会できる日を夢見ていました」
応接室の中にいたのは神聖騎士の一人、俺の初恋の相手であるリリアだった。彼女は部屋に置かれたソファーに優雅に座っている。
そして、彼女の後ろには護衛と思われる剣を腰に携えた騎士の姿があった。
「では、ごゆっくり」
この部屋まで俺を連れて来てくれた執事長はそう言うと応接室から退出していく。その直後、彼女は後ろにいる護衛の騎士に目を合わせた。
「貴方もこの部屋の外で待機」
「……はっ」
そして、護衛の騎士もこの応接室から退出していく。その後、俺はリリアに向かい合う様に座った。
護衛の騎士が外へと出るのを確認した後、彼女は笑みを浮かべながらその口を開いた。
「カイン様。あの時のお願い、忘れてくださらなかったのですね」
「お願い……?」
「ええ、私の事をリリア、と呼んでくださいというあの時のお願いです」
そうだ、忘れるはずがない。一国の皇女であるリリアの名前を呼ぶ時には、敬称をつけるべきなのだろう。だが、俺には彼女の願いを無下には出来なかったのだ。だからこそ、今も彼女の事をリリアと呼んでいるのだ。
俺はそれを彼女に伝えると、「そうなのですね、ありがとうございます!!」と言いながら満面の笑みを浮かべていた。
しかし、その直後リリアは真面目な表情へと変わる。
「カイン様は追放されたと聞いていたのですが戻っていらしたのですね」
「……リリアはどうしてそれを知っているんだ?」
追放された事は知られていても何の不思議もない。だが、昨日の今日で戻っている事まで知られているとは思わなかった。
「それは……」
リリア曰く、先日の舞踏会に参加した人物から俺の事を聞いたのだそうだ。アリシアのパートナーとして参加した為、やはりどうしても目立ってしまった様だ。
そして、俺が戻ってきている事を知ったリリアはすぐにこの屋敷へと駆けつけてきたとの事だった。
「そうか……」
「ええ」
神聖騎士とは極力関わらないと決めていた。本来なら、早く帰ってもらうのが正しいのだろう 。だが、こうして対面していると、心の内から思いや言葉が沢山溢れ出てくる。彼女と話したい事が沢山あったのだ。
そして、空いた空白の時間を埋める様に俺達は様々な事を語り合うのだった。
その後、俺達は延々と今までの事を語り合った。七罪武具の事やそれに関する話はうまく誤魔化しながら、追放された直後に奴隷として売られた事、それから紆余曲折あって公爵家に戻ってきた事等だ。
リリアは俺が奴隷時代の話をすると悲しげな表情を浮かべ、それから解放されこの屋敷に戻ってきた時の話をすると安堵の表情を浮かべている。彼女が本当に俺の話に一喜一憂してくれているのだと理解できた。
そして、その話が一段落着いた時の事だった。
「姫様、よろしいでしょうか。そろそろお時間の方が迫っております」
聞こえてくるこの声は部屋の外で待機している護衛の騎士ものだった。その言葉を聞いた瞬間、リリアの表情が明らかに曇ったのが見て取れた。
「もう、そんな時間なのですか?」
「ええ。次の予定の事を考えると、そろそろここを出た方がよろしいかと」
「……そうですか、分かりました」
流石に次の予定があるのでは仕方がないだろう。名残惜しそうにしながらリリアは立ち上がった。
「カイン様、またお会いしていただけますよね……?」
「ああ、勿論」
神聖騎士と極力関わらないと決めている以上、本来ならやんわりとでも拒絶するべきなのかもしれない。だが、俺には彼女の言葉を拒絶する事がどうしてもできなかった。それどころか気が付けば彼女の言葉に返答を返していた。
「そう言っていただけると嬉しいです。最後に握手だけでもしていただけないでしょうか?」
そう言いながら彼女は右手を俺の方に差し出してくる。
「……分かった」
俺はそれに応える為に同じく立ち上がった後、右手を差し出した。そして、俺とリリアの右手が触れようとしたその時、それは起こった。
「「!?」」
リリアの手に触れようとした瞬間、俺は全身を駆け巡る嫌な悪寒を感じ、咄嗟に手を引いていたのだ。彼女もそれは同じだったようで、右手を引いている。そして、その右手を左手でギュッと握りしめていた。
そして、その直後、リリアは呆然とした表情を浮かべ、何やら呟き始める。
「…………え、嘘……、そんな……。何かの間違いに決まっています……」
しかし、彼女のその呟きは俺の耳に届くことは無かった。
「……リリア?」
「っ!! 申し訳ありません。何も、何も問題はありませんから!!」
その後、俺とリリアは再び握手をする為に互いに手を差し出した。しかし、再び二人の手が触れ合った時には先程の悪寒を感じる事はもう無かった。
「で、ではカイン様。これにて失礼いたします……」
「あ、ああ」
握手が終わった後、リリアは慌てた様子で応接室から退室していったのだった。
そして、彼女が出た後、一人応接室に残った俺が考えるのは先程の事。
「リリアの暗い表情は一体……?」
あの悪寒を感じた瞬間から、リリアの表情が妙に暗くなっていたのが特に印象に残っていた。あの悪寒の正体は今も分からないままだ。だが、俺はあの瞬間から妙な胸騒ぎ、嫌な予感を感じているのだ。
だが、その胸騒ぎの正体は全く掴めなかった。彼女が帰った後、しばらく一人で考えて込んでいたが、結局その答えは出る事は無く諦めて自分の部屋に戻る事にした。
あの時感じた悪寒とリリアの暗くなっていた表情、その二つの原因がそう遠くない未来に判明する事になるのだが、それを今の俺が知る事は不可能だった。
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