101 とある皇女の初めての恋
第四章の始まりです。
今回は二人目のチョロ……、ではなくヒロイン視点となっております。
そして、時系列的には本編開始よりも更に前になっております。
後、活動報告に三章の所感を上げておりますので、未読の方はこの機会に是非一読していただけたら、と思います。
あの方に出会ったのは何時だったでしょうか。
そう、確か私が神聖騎士に選ばれてすぐの事だった筈。その時の私は隣国の公爵家で行われたパーティーに招待されたのです。そこで、次々と私への挨拶に来る貴族達に段々と嫌気がさし、少しだけ外の空気を吸おうと外に一人で出た時、道に迷ってしまい間違って庭園に出てしまったのです。
そして、あの方に出会ったのは、どうすれば戻る事が出来るか分からずに途方に暮れている時です。
「そこに誰かいるの?」
途方に暮れている時、突然聞こえてきたその声に驚いた私は声の方を振り向きます。そして、そこにいたのは私より年下に見える少年でした。私に声を掛けてきたのもこの人でしょう。
「あなたは……?」
「僕の事?」
「え、ええ」
「僕はカイン、ここの屋敷に住んでるんだ。君は?」
「わ、私はリリアと言います。今日ここには招待されて来たのですが道に迷ってしまって……」
「そうなんだ……、じゃあ案内してあげるよ」
そう言ってカインと名乗った男の子は私の手を引こうとします。シルフィール帝国の皇女である私は必然的に様々な人達と会います。そして、その大半は皇族に取り入ろうとする人間です。だから、何時の間にか私には目を見るだけで、その人がそういった自分に取り入ろうとしてくる人か、そうでないかを見抜けるようになっていました。
だからこそ、この人、カイン様と出会った時私は少なからず驚きを隠すことが出来なかったのです。あの綺麗な目、純粋に私を思ってくれているあの目を見た時、心惹かれたのです。カイン様とお会いしたのは少しの間でしたが、その時に私は恐らく初めて恋をしたのです。
「えっと、それでどこに行きたいの?」
「た、確か大広間だったはずです」
「分かった、リリアさん、ついて来て」
そうして手を引かれるだけで胸が高鳴り、頬が熱くなってきます。その時の私は自分自身の心を理解はできていませんでした。
「い、いえ、大丈夫です!!」
気が付けば、私はカイン様の案内を断っていました。
「? そうなの?」
「そ、それよりも私とお話しませんか?」
それよりも、カイン様とずっと居たい、この方の事をもっと知りたい。その時の私はそんな事ばかりを考えていました。
「……うん、いいよ」
「ありがとうございます!!」
それからは庭園に設置されていた長椅子に二人で隣り合って座り、カイン様と色々なお話をしました。
あの時の思い出は今でも忘れることが出来ません。あの時だけは、神聖騎士の一人でもシルフィール帝国の皇女でもない、ただのリリアとしてカイン様に接することが出来ました。立場も関係ない、一人の人間として他人と接することが出来たのは、後にも先にもあの時だけです。
ですが、そんな時間は唐突に終わりを迎えることになりました。
「姫様、どこにおられるのですか!?」
遠くから聞こえてくるこの声は、私の護衛として来ている側近の者の声です。
このまま見つかってしまえば、カイン様とお話できる時間が終わってしまいます。せめて、もう少しだけでいいからこの時間が続いてほしい、そう強く願いました。ですが、その願いは儚くも崩れる事になったのです。
「姫様、ここにおられたのですか。皆様が探しておりましたよ、戻りましょう」
あれから、すぐに私の居場所が側近の者に見つかってしまったのでした。この時間が終わってしまう。そう思った瞬間、私は思わずため息をついていました。ですが、見つかってしまった以上戻らない訳にはいかないでしょう。
「カイン様、私は戻らなくてはなりません……」
「リリアさん……」
カイン様も名残惜しそうにしています。その時、私はある事を思い付きました。
「……カイン様、最後にお願いがあります」
「リリア、さん?」
「これからは私の事をリリアと呼び捨てにしてくださいませんか?」
「姫様!?」
隣にいる護衛が驚いた様に声を上げますが、私はそれを手で制します。
「……本当にいいの?」
カイン様は、側近の「姫様」という言葉から私の立場に薄々ですが気が付かれたのでしょう。だからこそ、確認の言葉を言われたのかもしれません。
「はい、お願いです。私達二人きりの時だけでも構いません。これからはそう呼んでください」
カイン様は悩んだ様子でしばらく考え込んだ後、その言葉を告げられました。
「…………………………分かった。リリア、これでいい?」
「はい!!」
カイン様に、「リリア」と呼んでいただけるだけで、私の心は不思議と歓喜の気持ちに包まれます。
「カイン様、またお会いできますよね……?」
「うん、またね」
「はい、また」
そう笑顔で頷くカイン様の表情を見た私は胸が高鳴ります。その時の私は自分の気持ちを理解はしていませんでしたが、それが嫌なものではないという事だけは分かりました。
そして、名残惜しいながらもカイン様と分かれ、私は側近の者と共に大広間に戻る事になったのでした。
そして、公爵家での夜会が終わった後、私は宿泊先に戻っていました。ですが、私の頭の中には先程のカイン様との思い出ばかりが浮かび上がります。
「カイン様……」
あの方の事を思うと胸が高鳴り、同時に締め付けられるような不思議な感覚が起こります。それになんだか頬も妙に温かくなってきているような……。少なくとも今までに体験した事のない奇妙な感覚にその時の私は困惑していました。
「姫様、どうかなさいましたか?」
そんな様子の私を奇妙に思ったのか、心配そうに付き従ってくれている侍女が声を掛けてきました。
「な、何でもありません、大丈夫です」
しかし、また時間が開くと頭の中にカイン様のお顔が浮かんできます。
「はぁ……」
この不可思議な気持ちは一体何なのでしょうか。
お母様なら、もしかしたらこの不可思議な気持ちが何なのか、答えをくださるかもしれません。国元に帰ったら、お母様に相談しようと私は心に決めました。
「リリア、貴女はね、恋をしているのよ」
「恋ですか?」
国に戻った後、お母様に会った時言われた言葉で漸く自分の気持ちに初めて気付きました。
「これが、恋、ですか……」
「ふふっ、貴女のそんな表情、初めて見ましたね。それであなたの好きな殿方は一体どんな方なのかしら」
お母様はクスクスと笑いながらも聞き出そうとしてきます。
「そ、それは……」
言葉に詰まる私にお母様は笑みを絶やさずなおも聞き出そうとしていますが、恥ずかしくて私が口に出せないと悟ると諦める事にした様でした。
「仕方がないわね、まあいいでしょう。貴女が口に出せるようになるまでは待ってあげましょう」
その後は、お母様と軽い雑談をして自室に戻った私はベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めるようになりました。
「これが、恋……?」
そして思い出すのはあの方の顔。
「私はあの方、カイン様の事が……、好き、なのでしょうか」
その事を自覚してしまえば後はあっという間でした。カイン様について調べるのはそれほど難しくはありませんでした。
そして、お母様にそれとなくその事を話すと「じゃあ、貴女が立派な淑女になってその人を迎えに行きなさい」と言われました。
お母様のその言葉がきっかけとなったのでしょう、その時に私は必ずあの方と再会し、共に歩むと心に決めました。
ですが、その再会の願いは今も成就していません。何故なら、カイン様が公爵家を追放され、行方知れずであるという情報が私の元へと届いたからです。
それから数年が経過し、皇女として、神聖騎士として一定の地位を築きましたが、カイン様の行方は今も分かってはいません。そして、私の元へと届けられる縁談の申し入れの数も、時を経るごとに増えていきます。このままカイン様が見つからなければ、いずれ伴侶となる男性を決めなくてはならないでしょう。
それでも、私は諦めませんでした。何時の日か、カイン様と再会し、そして結ばれる日が来る事を今でも夢見ているのです。
所感の方にも書かせていただきましたが、いつも読んでくださる皆様のおかげで、なんとこの作品が日刊ランキングに乗ることが出来ました!!
段々と順位を上げ、現在ファンタジー部門27位、総合103位という位置にいます。
ランキングの維持、更にはその上に行くためにも皆様の評価ポイントが欲しい所なので、未評価の方は是非とも評価の方をお願いいたします!!
追記は個人的に思うことがあり、53話に移動しました。




