SS・アリシアの日記
活動報告で予告していた閑話です。見直したら、閑話よりもSSといった方が正しいかもしれないのでサブタイトルの頭にSSと付けました。
ある日の事、アリシアに用があった為、彼女の部屋に向かった。そして、部屋の前に着くとコンコンと二回ほど扉をノックする。が、反応が無い。この時間ならば間違いなく部屋に居る筈なのに、だ。
「アリシア、いないのか?」
そう呼びかけてみるが、それでも返事が無かったため、扉を開け部屋の中を覗いてみる事にした。もしアリシアが居なければ、俺はすぐに自分の部屋に戻るつもりだった。扉を少しだけ開けて部屋の中を覗いてみると、そこにはソファーでうたた寝をするアリシアの姿があった。
「なんだ、寝てただけか」
そう呟くと、俺は部屋の中に入る事を決め、そっと扉を開け、アリシアの元まで向かう。
「すぅ、すぅ」
そんな寝息をしているアリシアの隣に座ると、何だか起こすのも可哀想なので、起きるまで少しだけ待つ事にした。
「んっ、ん~」
時々、頭をカクッと揺らすアリシアは妙に可愛らしかった。
そんな彼女を眺めていると、テーブルの上に一冊の豪華な装飾が施されている本が置かれている事に気が付いた。
「うん、これは一体?」
その本の事が気になったので、本の適当な場所を開いて読んでみる事にした。
『○月○日
不思議です、お兄様の隣にいるだけで胸がドキドキと高鳴りをします。この気持ちが恋なのでしょう。だとしたら、恋という感情はとっても幸せなものですね。でも、お兄様はどう思うでしょうか。もしかしたら私の気持ちはお兄様にとっては迷惑なのかもしれません。ですが、決めたのです。私は必ずお兄様に振り向いてもらうと。だから、だから絶対にめげません。必ず振り向いてもらいます。お兄様、私は絶対諦めませんから』
「……これって」
この本は、アリシアの思いが綴られていた日記だった。他人の日記を読むという罪悪感もありながらも、その日記を読み進める手を止める事は出来ずその日記に意識を完全に傾けてしまっていた。しかし、その事が良くなかったのだろう。
「ん、ふわぁ」
日記を読み進めている俺の隣でアリシアが目を覚ましたのだ。可愛らしい欠伸の声が聞こえた瞬間、俺はアリシアの方に顔を向ける。
「え?どうして、ここにお兄様が?」
うたた寝から目覚めたアリシアは呆然とした表情を浮かべた
そして、アリシアは目線を俺の手の方に向けた。正確に言えばその視線は俺の持つ日記帳に向けられていた。
「お兄様、それって……」
何かがおかしいと気付いたのだろう。テーブルの日記が置かれていた場所に視線を移し、また俺の手元に視線を戻していた。
「それって、もしかして……」
「?」
アリシアが何か呟いた様だが、それが俺の耳に届くことは無かった。その直後、アリシアの瞳から光が消えた様な気がした。
「……お兄様、それを…………て、ください」
「え?」
「それを……」
「アリシア?」
アリシアの顔は真っ赤になっている。瞳には光が戻ってはいたが少し涙目になっている。
「それを、返してください!!」
「ちょ、アリシア!?」
突如、アリシアは俺から日記を取り戻そうと飛び掛かってきた。咄嗟の事だったので、思わず立ち上がりそれを回避してしまう。
「返してください!!」
我を忘れているのか、アリシアは神剣まで具現化し、俺に襲い掛かって来た。
「ちょ、流石にそれはダメだ!!」
「後生ですから、それを返してください!!」
流石にそこまでされると応戦せざるを得ない。幸いにも、完全に我を忘れているのでは無くほんの少しだけ自制心は残っている様で、屋敷内の家財にはダメージが行かないようにはしているようだ。
その後、俺とアリシアの追いかけっこは少しの間続くことになった。我を忘れるアリシアを止めるのには、また別種の苦労があったのだが、ここでは割愛することとする。
あれから、俺は冷静になったアリシアと向かい合っていた。
「…………お兄様、申し訳ありませんでした」
「いや、大丈夫だから」
幸いにも、お互い大きな怪我も無く、無事にアリシアを止めることが出来たのは良かったが、当のアリシアは見るからに落ち込んでいた。我を失い暴れてしまった事を反省しているのだろう。
因みに、騒動の発端となった件の日記帳はアリシアが、二度と手放さない、と言わんばかりに、ギュッと抱え込んでいる。
「お兄様、もしかして日記の内容って、読んだりは……」
「……ごめん、読んだ……」
「……そう、ですよね」
読まれて恥ずかしいのだろう、先程の暴走事件と相まって二重で落ち込んでいる。俺だって自分の日記を他人に読まれれば恥ずかしい気持ちになるだろう。
「や、やっぱり、変ですよね。あんな日記……」
見ればアリシアが今にも泣きだしそうになっていた。勝手に日記を読んでしまった負い目もある。ここは何とかして弁解しなければならない。
「で、でも、俺はアリシアの事をもっと知る事が出来て嬉しいけど」
「ぐすっ、本当ですか……?」
「あ、ああ」
それでも、やはりアリシアの内心は複雑なのだろう。今も落ち込んでいるアリシアに俺は一つ提案をした。
「それじゃあ、さっきの事と日記を勝手に読んだ事、二つを相殺という事にしよう。お互いこれ以上の言い合いは無しという事で」
「……はい、分かりました」
因みに、これは後日談だが、この騒動の後にアリシアは自身の日記帳を誰にも見られない様に箱に入れて保管することにした様だ。そして、その箱に鍵まで付ける念の入れ様であった。日記を書く時も慎重になっているのだとか。二度と日記帳を出したまま居眠りをしないと決意をしているとも言っていた。
こうして、この騒動は収束することになったのだった。
予告通り、次からは第四章に入る予定です。よろしくお願いします。




