<6> SPI、エントリーシート、面接を練習する
<6> SPI、エントリーシート、面接を練習する
いくつかの企業の有価証券報告書を読み、何となく年収や退職金のデータがつかめてきた頃、オケアナはそろそろ次のステップに移りたいという気持ちになっていた。
練習である。SPI、エントリーシート、面接を練習して、隙のないように備えておきたいのだ。
「ねえねえ、カザランさん。SPIとかエントリーシートとか面接を練習するにはどうしたらいいと思う?」
なので友達に頼る。これはオケアナの鉄板の処世術になっていた。自分の頭で考えても程度が知れているのだから、他人に任せたほうがいいのだ。
「そうですネ、SPIはいくつかの企業にプレエントリーしておくと、プレエントリーだけで受験させてくれるところがあるので、それで何回も受けなおしますネ。5~6回受験して、結果に自信があるやつを今後使いまわせばいいと思いますよ」
「え、無料で受けさせてくれるの?」
「はい。『SPI プレエントリー』で調べたら出てくると思います」
SPIとは、多くの企業の採用選考で利用されている適性検査のことである。主に能力検査、性格検査の二つに分かれており、読解力や計算力などを評価するテスト問題となっている。基本的にSPIは、簡単な問題だが時間が圧倒的に足りない。そのため慣れが重要となっており、カザランはその慣れのために複数の企業にプレエントリーしてSPIを受けろと言っているのであった。
「もちろん少しは受ける気がある企業だけですよ?」
SPI受験のためだけにエントリーして後はポイ、では流石にマナー違反である。自分の可能性を広める範疇で、企業の好意を無碍にしない程度に。このあたりは完全に就活生のモラルに依存しているのだが、要はそういうことである。
「エントリーシートの練習はどうしたらいいと思う?」
「うーん、ボクの場合はインターンシップの時に一回練習しましたからね……。体験談でよければお答えしますよ」
「教えて!」
エントリーシートの書き方については、カザランは自信なさげだったが、「大学にある就職支援室に相談に行くと、面接練習とES添削をしてくれるところが多いんですけど、大学職員の方の一部は、社会人経験がない人もいますからネ……」と言葉を濁していた。どうやら一回嫌な目にあったらしい。
「エントリーシートって、『どうして〇〇をしようと思ったのか』『どんな壁にぶつかったか』『どう乗り越えたか』『何を得たか』というシナリオを作ればほぼ完璧だと思ってます。例えばIT系ハッカソンに出たとしたら、『大学時代の思い出のために出ようと思った』、『全員プログラミング言語の初心者だから勉強に苦労した』、『妖tubeの動画講座などを参考にしてPythonの機械学習を勉強して、分からないことがあったら全員で共有して議論した』、『結果はベスト8だったけど、頑張ったら初心者でも結果を残せることが分かった』というような感じで書くと、シンプルでわかりやすいと思います」
「それがない場合は?」
「……うーん」
「普通の大学生って、そんな何か志がある人って少ないよ……」
「そうですよネ……。でも、一番人間性が出るのって、人間が何かに取り組んだ時だと思ってます。ボクは、企業の人はそこを見たいんじゃないかなと思ってます」
どうしよう、とオケアナは考え込んだ。バイトの経験を書けばいいのだろうか。それともゼミの経験を書けばいいのか。自分を振り返ってみても、自分が持っている特別な何かはこう見えて少ない。
「もしオケアナさんがまだ学部二回生とかでしたら、社長のかばん持ちインターンシップとか、秘書インターンとかに申し込んで『普通の人は積めないような社会人経験を積みました』、という裏技があったんですけどネ……。資格勉強もできたかもしれません」
「……考えなきゃ」
就職活動は早くから行動したもの勝ちなんだ、とオケアナは痛感した。今までさぼってきたツケがここにきて大きく響いているかもしれない。何か特別なものを持っている人間はともかく、そうじゃない人間は、自分を売り込むためのエピソードが必要になってくる。そんなエピソードがある人間がうらやましい、サヴァンとか――と、オケアナは考えて、少し切なくなった。
「あと、面接の練習ですけど、これは『選考 早い 企業』で検索すると結構出てきますネ。ボクはそこで面接経験を重ねてます」
面接の経験も、カザランは企業に臨んで行っているらしい。どうやら徹底して大学の就職支援室を利用しない方針のようである。カザランの大学は支援室の質があまり良くないのかも、とオケアナは感じ、そういえば自分の大学の就職支援室はどうなんだろうか、という疑問がふと湧いてきた。
「SPIも面接も回数が大事ですからネ。選考が早い業界の、マスコミ系、金融系とかを中心に、何回か経験を積んでおくのがいいと感じました」
「うん……」
カザランはすごいね。そんな言葉が口からこぼれかけたが、オケアナはそれを飲みこんで、何も言わないことにした。自分で主体的に行動できている。打てば響くように答えが返ってくる。そんな明朗さが、カザランの持ち味だとオケアナは思った。そしてそれは、オケアナにはない才能でもあった。