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異世界まったりスローライフの手引き  作者: Richard Roe
令嬢、ホワイト企業を探す
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<4> 就職活動サイトを調べる(就職・転職口コミサイト、エントリーシート集積サイト)

<4> 就職活動サイトを調べる(就職・転職口コミサイト、エントリーシート集積サイト)


「Xちゃんねるの就職偏差値やランキングも調べた。就職四季報で平均勤続年数、平均年収、有給消化率とかも調べた。裁量労働とか完全週休二日制とかの事情も勉強した。……あとは、就職サイトかな」


 就職サイトを開きながら、オケアナは企業をさらに絞り込みに行っていた。

 キャリナビ、リクネット、マイリク、その他就職活動サイト。これらのサイトは一度基本情報を登録しておくことで、合同説明会への参加がワンクリックで出来たり、プレエントリーを一括で提出出来たり、とにかく楽なのだ。


「……プレエントリーって何個ぐらいしたらいいんだろ? とりあえず三十個ぐらいかな?」


 ふと、思い出したような独り言をオケアナはつぶやいた。プレエントリーの数。これはどれぐらいの数がいいのか、という正解が分からないものである。


 ――就活情報を掘り下げる方法、知ってる?


 あの時、サヴァンに問いかけた言葉が彼女の中で反芻された。就活情報を掘り下げる方法。なるべく手軽な方法がいい。だが、お手軽にそんなことができるのであれば、苦労はしないのである。現状は、プレエントリーを何個すればいいのかさえも分からないのだ。


「……就職活動を一緒にしてくれる友達がいたら、もっと精神的に楽だったかも」


 エントリーシートを見せ合いっこしたり、一緒にWebテストを解いたり、業界分析の情報を交換したり。そんなことができる環境があるかどうかで、就職活動のしやすさがきっと大きく変わるに違いない、と彼女は感じていた。

 オケアナにも友達はいる。だが、彼女と同じ進路の友達は少ない。相談相手が欲しい、とオケアナは切に感じていた。






「……なるほど、就職活動は孤独ですからネ。だからボクとお友達になろうとしたんですネ」


「うん。一人じゃホワイト企業を探すのは難しいし」


 合同説明会で一緒になったライカンスロープの若者と、オケアナは今ラーメンを食べていた。就職活動中にはよくあることである。他の大学の生徒とこうやって昼ご飯を一緒に食べないか持ちかけると、大抵OKをしてくれる。いろんな情報をここで交換するのが狙いである。


「顔が狼だから、ラーメンはちょっと食べるのが難しいですネ」


「あ、ごめん、私が食べたいやつを適当に選んじゃった」


「いいですいいです、ボクも人生で一回はラーメンを食べたかったので」


 はふはふ、と熱いラーメンに悪戦苦闘しながらも、ライカンスロープの若者――カザラン・サバサはそういって美味しそうにしていた。オケアナもそれを見てラーメンに口を付けた。湯気が顔を覆ってしっとりとさせる。スープを一口飲むと、コクのある味わいが喉を通っていった。






「――で、就活サイトでしたネ、オケアナさん?」


「うん。カザランさんはどんなサイトを使っているのか気になって」


「その前にオケアナさんは、どのような就活サイトがあるかご存知ですかネ?」


「? 就活サイトって、プレエントリーとかを一括で出来るサイトのことじゃなくて?」


「それも就活サイトですけど、まあ、ここはいくつか種類を挙げておきますネ」


 はふう、と熱い息を吐きながら、カザランは毛むくじゃらな指を何本か立てた。その仕草が妙に愛嬌があって、オケアナは思わず可愛いと思ってしまった。失礼な感想である。だが本心であった。






「まずは就職・転職口コミサイト。Talkersとかコネキャリとかが有名ですネ。就職先の口コミ情報がいっぱい集まっているので、ここで残業時間がどれぐらいあるとか、年収がどれぐらいになるとか、福利厚生がどんな感じなのかをざっくり調べることができますネ」


「ちょ、ちょっと待って」


 いきなり知らない情報を出されて、オケアナは面食らってしまった。転職口コミサイト。考えもしなかった選択肢である。確かに転職口コミサイトなら、就職しようと思っている先の企業の情報を、内部から伺い知ることが可能かもしれない。


「そうだよね、転職サイト。思いつかなかった。転職サイトって、転職したい人が口コミを匿名で投稿してポイントを貰って、そのポイントを使って無料で他の企業の口コミを見ることができるサイトだよね」


「そうですそうです。口コミサイトは就活でも便利ですよ。何で転職を考えたのかの理由を調べると、色々見えてきますしネ」


 慣れない箸に戸惑いながらも、カザランはラーメンと格闘していた。毛むくじゃらで肉球な手では箸が上手く機能していなさそうである。関係ないことだが、他人がラーメンを食べるのに悪戦苦闘しているのを見ていると、そのラーメンが美味しそうに見えてしまうのは何でだろう、とオケアナは考えていた。替え玉を頼むかどうか。太るんじゃないだろうか、という不安はこの際考えていない。


「年収が低い、業務量が慢性的に多い、事業の衰退を感じた、職場の空気が悪い――こういう情報は外からじゃ中々手に入らないですからネ」


「うん。私も転職口コミサイト登録してみよっかな」


「有料のサービスも一部ありますけど、ちゃんと無料期間もありますから、こういうのは有効活用しないといけませんネ」


「うん」


 やはり持つべきものは友、とオケアナはひしひしと感じた。就活は情報が命である。






「次にエントリーシート集積サイト。『企業名 ES 例』で調べたら結構出てきますけど、やっぱりエントリーシートを書くためのお手本は欲しいですからネ」


「あ、それは私も調べた」


「ですよネ! これ本当に便利だと思いました!」


 言うなり、カザランはぱっと顔を明るくした。くりっとした目が丸く見開いて、これがまた可愛いのだ。可愛いと言ったら怒られるかな、とオケアナはどうでもいいことを考えた。


「実はボク、去年のインターンシップの時にもエントリーシートの集積サイトを利用しちゃいましてネ。インターンシップでのエントリーシート作成経験や面接経験が、今就職活動をする上でいい練習になってますネ」


「……私、インターンシップやってない」


「あ、ごめんなさい」


「うん。いいよ。少し不利ってことぐらいは理解してるから」


 しばらく困惑した顔をするカザランだったが、「えっと、それよりエントリーシートですネ!」と強引に話を逸らしにかかっていて、それがオケアナにはちょっとだけ面白かった。こういうところも含めて可愛い、とオケアナは感じていた。


「天楽のみんなで就職活動日記とか、あれも私はエントリーシートの情報を集積するために利用してましたネ」


「あ、みん就? 名前は聞くけどまだ使ってなくて。あれって便利なの?」


「便利ですよ。色んな人がエントリーシートにどんなことを書いたのかを見ることができて、とても勉強になります。過去の奴をコピペしてる人もいますけど、きちんとしっかり書いている人もいます。その企業を受けている学生の大まかなレベルが見えます」


「そうなんだ……」


「あと何気に、みん就は選考フローの速度を確認出来たりして便利ですネ。他の人は第二次選考まで進んでるのに自分は第一次選考だったりしたら、もしかして落ちたかも、とか、もしかして優秀な人だけ今二次選考してて次は中ぐらいの人に二次選考の案内が来るのかな、とかを色々推理できますし」


「あー……便利な使い方だ……」


 選考フローの確認をする、という活用方法も教えてもらって、就活に疎いオケアナはしきりに頷くばかりであった。






「あとはよくある就職活動支援サイトですか。キャリナビ、リクネット、マイリクとかは、そこから登録しておくだけでプレエントリーが簡単にできるのでちょくちょく使ってましたネ。でもまあ、あれ無しでも就活はできますけどネ」


「そうなの?」


「一部、キャリナビとかじゃないと申し込めない説明会があったりするので、ボクはそういうのに申し込むためだけにキャリナビに登録してましたネ」


 器を持ち上げ、ずずず、とスープを流し込むカザラン。そのまま飲み干してしまうあたり、流石は狼人間、胃袋が太い、と妙なところで感心を覚えるオケアナであった。


「ということで、『就職・転職口コミサイト』と、『エントリーシート集積サイト』は必須ですネ。みんなで就職活動日記、みたいに自分の選考フローの速度を確認できるサイトも必須です」


「カザランさん、本当にありがとう……」


「? どうしたんですか?」


「知らないことがいっぱいで、本当に勉強になった……私、貴方のおかげでもっと就職活動に強くなれそう」


 就職活動に強くなるって何だ、という疑問が自分でも湧いたオケアナだったが、そんなことはどうでもいいぞとばかりに彼女は立ち上がった。目の前が明るくなった気分である。新しいことを知ったともいう。

 とにかく、オケアナは、何だか雷を受けたような気分になったのであった。


「私、最初はXちゃんねるの就職偏差値だけで勝負しようと思ってたの」


「それは……色々きついのでは」


 狼も呆れたような顔をするのだな、とオケアナは新しいことを発見した。

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ご愛読いただきまして誠にありがとうございます。この作品がここまで続いたのも皆様の温かいご支援によるものです。心より厚くお礼申し上げます。
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