00:プロローグ
普段は読む派なのですが少しチャレンジしてみようと思い書いてみました。
ここではないどこか遠くとある世界、真っ白な空間に1人の金髪の男性で黒髪ロングの女性、合わせて二人の男女が小さなテーブルを間に話し合っていた。
「―――分かりました、ただし"1人"だけです。これ以上は絶っっ対!!譲れませんからね!」
女性は目の前の男性に対して仕方がないといった態度で接しながら椅子に腰かけた。
「分かってるって、ちーちゃん僕を信用してよー。」
そういいながら目の前の男はテーブルに上半身をつけ両手を机にバシバシと叩き付けていた。
「どの口が"信用してよー"とか言ってるんですか。」
「昔のことばっかり気にしてると疲れるよ?」
「やっぱり、この話は無かったk「すいません調子乗りましたごめんなさい。謝りますのでこのいやしい無能めにお恵みをくだしあ。」
男は一瞬で椅子に座っている女性の正面から横に移動し、それはとてもきれいな土下座を披露してみせた。
「まったく、ドゥーラさんはすぐ調子乗るんですから。」
女性は男のみっともない姿を見てため息をついた。
実はこの2人は神様で、女性の方は地球担当の神様で【ちー】と呼ばれ、男性の方はドゥーラレアルタという世界担当の神様で【ドゥーラ】と呼ばれている。
ちーはため息をつくと右手の人差し指で円を描いた。すると目の前の空中に描いた円のラインが輝き回転を始め、しばらくすると光の輪は手のひらサイズの水晶玉のような球体になりテーブルの上にゆっくりと降りてきた。
「さて、ドゥーラさん準備できましたよ。」
「ちーちゃんありがとー!これで遂に僕の世界にも地球の文化を取り入れることができるよ〜。」
気が付くとドゥーラはいつの間にか自分が座っていた椅子に座りなおして目の前に出した球体に頬ずりをしていた。
なぜこの2人がこんなやり取りをしているかというと、近年神々の間では自分の担当する世界に他の世界の住人を連れてきて自分の世界の技術や文化の向上や様々な種族を増やしたり世界がどう変化していくかを観察することがブームとなっていた。いわゆる異世界転生とか異世界転移である。
だが異世界に人を飛ばすには様々な決まりがあり、その中で大切なのが【他の世界の住人を担当神様の許可なく自分の世界に転送、または転生してはならない】という決まりがある。つまり、他の世界の住人が欲しければその欲しい世界の担当神様を説得しなければならない。その中でも地球は他の世界と比べて【食べ物】や【物を作る技術】など文明文化が高く、その技術や知識などを欲しがる神様があまりにも多いため地球の神は異世界に人を飛ばすことに規制をかけているのだ。
しかし、この決まり事が出来た時、今とは少し内容が違っていて【他の世界の住人を担当神様の許可なく自分の世界に転送してはならない】としか決まっておらず"転生してはいけない"とは決まっていなかった。
この決まりごとに対してドゥーラ神はこの約束事の隙を突き、過去に1度勝手に地球の人間を自分の世界に転生させたことがあるのだ。しかし、まだ異世界に住人を飛ばしたことのない神々の間では失敗報告が多々ありドゥーラ神もその失敗した神の内の1人である。
地球から1人の人間を飛ばして一度神である自分の前に呼び出そうとしたが失敗し、転送したはずの地球人は行方不明になってしまったのだ。
しかもそのことが地球神にバレてしまいドゥーラ神は拷問のようなものすごい折檻を受け、それを見た他の神々は恐怖し恐れおののき、神々の間でも有名な事件になったという。
その為、また同じようなことが起こらないようにと"転生させてはいけない"という決まりを追加されたのだ。
「では今からモニターで地球の様子を映しますから、転送させたい人を見つけたらモニターに映っている人にこの球を当ててくださいね。」
ちーはそう説明をすると、先ほど出した球体を指差し、机の横にある空間に地球の様子が見えるように立体映像をモニターのように映し出した。
「ここは慎重に決めないとね、どんな人なら僕の世界の文化を進化させてくれるかなぁ~」
ドゥーラはいそいそと立ち上がりモニターの前に行くと画面を操作し始め、ちーはいつの間にか用意した湯のみでお茶を飲み始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、10分ほど経過した時のことだった。
「ん?ちーちゃん、これ子供溺れてない?」
突然ドゥーラはモニターを見ながらそう言った。
「え!?ど、どこですか!!」
ちーは湯呑をテーブルに置き急いでモニターに駆け寄り映っている映像を凝視した。
「ほらそこ、この道の用水路。」
「そこってどこですか!!もう少し拡大してください!!」
神様の仕事には担当世界の住人の管理という仕事もあるため、住民が命の危険に陥っている場面を発見した場合は助かるように住民に干渉することができる。
ドゥーラはモニターを操作し用水路の位置を拡大する。
「ほらここ!!用水路の中で溺れてるよ!!」
「まだ子供じゃないですか!!は、はやく助けないと!!ででも、どどうやって助けたらいいでしょうか!?」
ちーがモニターに近づこうと慌てて椅子から立ち上がろうとしたその時、
「きゃっ!!」
「あっつぅぃい!!」
ちーはテーブルの脚に躓き小さなテーブルは倒れてしまった。そしてテーブルの上に置いてあった湯呑は宙を舞い綺麗な放物線を描きドゥーラに直撃した。
「ごっ、ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」
ちーは起き上がりドゥーラに駆け寄った。
「あーうん、ダイジョウブ大丈夫。ちょっと熱さにビックリしただけだから。」
ドゥーラは服の濡れた部分をつまんで乾かすようにパタパタと振っている。
「ごめんなさい.....。」
「気にしなくていいよ、それより早く子供助けないと。」
「そうでした!!早く溺れている子供を助け..ない....と。」
2人はモニターに視線を戻すと用水路に子供の姿は映っていなかった。
「まさか沈んで!?」
ドゥーラがそういうと、ちー顔面蒼白になり手元に小さなモニターを表示すると急いで操作を始めた。ドゥーラも、もしかしたら子供は流されて下流の方に居るのではとモニターを操作するために視線を戻そうとしたその時、ふとある事に気が付いた。
「あれ?そういえばテーブルの上に置いてた球はどこへ――――
辺りを見渡すが足元にも倒れたテーブル付近にも落ちてはいなかった。とりあえず先に子供の安否を確認しようと再びモニターに視線を戻そうとしたその時だった。
「あれ?ここどこ?」
「えっ?」
「へっ?」
とつぜん、自分たちの後ろから聞こえた声に驚き2人は思わず振り返った。そこに居たのは先ほどモニターに映っていたはずの溺れていた子供だった。
「え?何でこの子がここに!?だってさっきまで.....えっ!?」
ちーは何が起こったのか分からないようでパニックになっている。その隣でドゥーラは何故先ほどの子供がここにいるのかを冷静に考え始めた。
「消えた球...モニターから消えた子供...そして消えたはずの子供がここにいる理由....。」
硬直したままドゥーラはこの状況になった原因を考え、そして一つの仮説を立てた。ちーがテーブルに躓いた時、倒れたテーブルの上にあった湯呑はモニターの前に居たドゥーラに飛んできた。ならば同じくテーブルの上に置いてあった【球】は【何処に飛んで】、【何処に当たった】のか。
「もしかして....ちーちゃんがテーブルに躓いたときにテーブルの上に置いてた球が飛んで映っていたこの子に当たっちゃった?」
「え.....。」
ドゥーラの発言に顔面蒼白だったちーは顔が更にに青ざめ、そんな様子を見ていた子供は2人を見つけると近づき声をかけた。
「ここはどこですか?」
この事件がこのあと、とある冒険者のおっさんに降りかかる苦労の始まりだった。
オリジナル小説初投稿なので気軽に見ていただけたら幸いです。