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そこは雪

作者: みちゆき

 それにしても今年はよく降るね。

 いくらここが山の中だからって、いつまで経っても真っ白な世界を見せられるとさすがに飽きるよ。

 生き物の足跡も、折れた木の枝も、すぐにこの真っ白な世界に飲み込まれてしまう。

 だから暗くなってまた明るくなっても、目の前の景色はちっとも変わらないんだ。

 嫌になっちゃうね。

 長い間見ていたら、のんびりしているような山の景色だって少しは変わるものだよ。

 空だって赤くなったり青くなったり、地面だって穴が空いたり盛り上がったりするものだよ。

 だけどこの山の景色は、一向に変わらないんだ。

 僕はあくびを出さないけど、あくびが出そうなってのはこういう事を言うんだろうな。

 そう考えている間にも、しんしんと降り積もってくる。僕が考えている、っていうのもおかしな話だけどね。

 いつになったらやむのかな。

 それまで僕は見ていられるのかな。

 もしかしたら僕の上に乗っかった奴がそれを見るのかもしれない。

 少し悔しいけど、悔しいのは僕だけじゃない。

 僕の下に積もっている奴も、きっと上の景色を見たいはずだろう。

 でもそいつは僕に抗議なんてできないから、ただじっと僕を乗せているしかないんだ。

 そして僕も、そいつに何も言ってやれないんだ。

 皆ただじっと、時が過ぎるのを待つだけなんだ。

 寒くないってのが唯一の救いだね。


 とうとう僕も景色が見られなくなった。

 本当によく降るね。

 新しい奴の下に潜って見ると、意外と心地よい気がする。

 見ていたってつまらないんだから、見ない方があれこれ考えずに済む。

 僕にとってはこの方が幸せかもね。

 しばらくすると、身体が固くなってきた。

 他の奴も固くなっているようだ。

 固くなった体は透けて見えるようになるらしい。

 一面透き通っているから、けっこう見晴らしはいい。

 こうして見ると、色んなものが埋まっているんだな。

 そういうモノも、もっと上の景色を見ていたかったのかな。

 ん?

 何だあれは。

 変なものが埋まっているぞ。

 これはこの山には無いものだな。

 生き物の毛みたいなものでできているようだが、この山にいるような奴に作れるものじゃない。

 片方に穴が開いていて、もう片方は一、二、三、四、五個のでっぱりがあるね。

 きれいな色をしている。

 一面真っ白な世界ばかり見ていた僕にとっては、新鮮な色だった。

 こんな所にあるべきものではない。

 これは何か別の役割があるはずだ。

 そう、僕達以外のものは何か理由があってここに埋まるはずなんだ。

 木の枝が折れるように。

 残った実が落ちるように。

 辺りを見回した僕は、気が付いた。

 この変なものは、あれが落としていったんだな。

 あれも一緒に埋まっていた。

 あれは僕達とは違うモノだから、きっと寒さに強くはない。

 でも僕達が上に乗っかっているから、もう上の景色は見られないだろうな。

 でもしばらくすると、固くなって、案外居心地がよくなるよ。

 僕達と一緒に。

 

 まだ降っているのかな。

 またこの山は、一面真っ白な世界になっているのだろうな。

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